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赤月さん、お風呂を借りる。

 

 大上君の家に着いたのは良いのですが、結局二人とも頭から下までびしょ濡れになってしまいました。


 幸いなことはビニール袋に入れていた鞄だけが無事だということです。この中には貴重品が入っているので濡らすわけにはいきませんからね。


「……大丈夫? 赤月さん」


「……何とか。……へっくしゅ」


 つい、くしゃみが出てしまいました。すると大上君は慌てたように玄関から上がって、部屋の中へと入っていきます。

 数秒で戻ってきたと思えば、その手には大きめのタオルが握られていました。


「良かったら、このタオルを使って」


「ありがとうご……くしゅん!」


 タオルを受け取りつつ、再びくしゃみをしてしまいました。


 初夏とは言え、降り注がれた雨は冷たかったです。外はいつの間にか土砂降りになっており、そこら中に冷えた空気が漂っていました。


 大上君は濡れた髪を少し掻き上げつつ、同じようにタオルで顔を拭いていきます。


「……赤月さん、このままだと風邪を引くかもしれないし、風呂に入っていかない?」


「えっ? お、お風呂ですか……?」


 驚いた私は目を丸くしてしまいますが、それ以上に寒気も感じていたので三度目となるくしゃみをしてしまいます。


「へくちゅっ」


「ほら、身体が冷えているんだろう? 着替えも用意しておくし、風呂に入って温まってくるといいよ」


「……」


「大丈夫だよ、覗き見なんてしないから」


「くしゅん!」


「ねえ、お願い、赤月さん! 風邪を引くから、先に風呂に入って! お願い!」


「それなら、大上君が先にお風呂に入るべきでは……」


「女の子は身体を冷やしちゃいけないんだよ? 俺は後で入るから。……ね?」


 このまま押し問答をしているうちに二人とも風邪を引いてしまいそうです。

 大上君は意志が固いところがあるので、私がさっさと折れて、お風呂から上がった方がいいでしょう。


「……分かりました。では、お風呂をお借りしますね」


「うん。それじゃあ、即行で風呂にお湯を張ってくるから。あっ、着替えは用意するから! 今、着ている服は風呂場の傍にある洗濯機の中に入れてね。俺の服とは別で洗っておくから」


「え? えっと、あの……」


「大丈夫、変なことなんて、考えていないから! それよりも赤月さんに風邪を引いて欲しくはないだけだから!」


 大上君、かなり必死なように見えますが私に隠していることなんて、ないですよね? つい、疑ってしまうのは、日頃の行いがあるからです。


 私がそんなことを思っているうちに、大上君はすぐにお風呂に入れるようにとお湯を張りに行きました。


「それじゃあ、お借りします……」


「うん、ゆっくりと入っておいで。あ、タオルと着替えは脱衣所のところに置いておくから」


「はい……」


 急かされるようにお風呂に入ることになりましたが、これで良かったのでしょうか。


 今日のところは一度、自分の家に帰っても良かったのですが、どこか断れない雰囲気があったので、流されるままお風呂に入ることになってしまいました。


「へくしゅっ……」


 正直に言えば、濡れた衣類がぴったりと肌に張り付いて、とても冷たくて気持ちが悪かったので、早く脱ぎたいと思っていました。


 なので、ここは大上君の厚意──恐らく、厚意だと思いますが、その気持ちを受け取って、早々とお風呂を済ませたいと思います。


 大上君は奥の私室へと入っていき、着替えとなるものを探しに行ってくれたようです。


 私は靴を脱いでからタオルで足を拭きつつ、脱衣所へと向かいました。



・・・・・・・・・・



 大上君がお湯を即行で張っていてくれたおかげで、まだ半分程しかお湯は溜まっていませんでしたが、十分に身体を温め直すことが出来ました。


 ほかほかとした気分で、私は大上君に用意してもらったタオルと着替えを取るために脱衣所と繋がっている扉を開けます。


 視線を下に向ければタオルと着替えと思われるシャツ、そして──何故か、女性ものの下着がありました。


「……」


 ちょっと待って下さい。今、思考が一旦停止しました。

 え、どういうことですか。どうして女性ものの下着があるのでしょうか。


 これは私が持っているものではありません。初めて見る下着です。


 まさか、大上君、そういう趣味をお持ちで……。いや、それはさすがにないですよね。

 だって、この下着は明らかに私のサイズに合わせてある気が……。


 そう思っていると、着替えの間に挟まっていたのか、書き置きのような紙がひらりと落ちました。

 そこに視線を向けると大上君の字で一言、書いてあるではありませんか。



『赤月さん用の下着なので、ぜひ使って下さい。服は俺のシャツですが新品です』



 その文字を見た瞬間、羞恥心によってつい、紙をぐしゃっと握り潰してしまいました。

 

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