赤月さん、大上君と一緒に帰る。
翌日はお昼から数時間程、図書館でのアルバイトでした。ゴールデンウィーク中でも図書館を利用する学生は思っていたよりも多いようです。
初夏とは言っても、まだ涼しい季節なので、私は薄いカーディガンを着ていました。
「お昼前までは晴れていたのに、いつの間にか曇っていますね……」
図書館でのアルバイトを終えた私は鉛色の空を見上げつつ、溜息を吐きます。今日はテレビの天気予報を見て来るのを忘れたので、傘は持って来ていませんでした。
若干、空模様に不安を感じながらも少し早足で帰ろうかと考えていると、後ろから嬉しそうな声がかけられました。
「──赤月さん」
「え」
まさかと思って後ろを振り返るとこちらに向かって走ってきていたのは大上君でした。もしや、また図書館で私が働いている最中に覗いていたのでしょうか。
しかし、図書館で大上君の姿は見かけていないと思いつつ、普通に返事を返すことにしました。
「こんにちは、大上君」
「やあ、こんにちは。赤月さんもバイト終わり?」
「ええ、そうです。……大上君は休日の大学へと何をしにいらっしゃったのでしょうか」
「うわぁ、表情に不審って書いてあるのが見えるよ……。そんなに警戒しなくてもいいのに」
「いえ、大上君には前科があるので……」
「うーん、否定出来ない」
そう言いつつも、大上君は私に会えたことがよほど嬉しいのか笑顔のままです。
「たまに講義で使うけれど、大学の構内にいくつかパソコン室があるだろう」
「そうですね」
「そのパソコン室でバイトしているんだ」
「えっ、そのようなアルバイトがあるんですか?」
初耳なので私はつい目を瞬かせてしまいました。
「簡単に言えば、大学のパソコンを利用している学生に印刷の仕方を教えたり、コピー機の用紙を入れ替えたり……。そんな感じの雑用だよ。あまり難しいことは出来ないけれどね」
「へぇ……。……女の子のパソコン利用者が多そうなアルバイトですね」
「よく分かったね」
恐らく、大上君目当てでパソコンを利用しに行く人がいるのでしょう。もちろん、そのような方は一部だと思いますが。
名前も知らない学生から熱い視線を送られるなんて、やりますねぇ、大上君は。
「赤月さん、良かったら一緒に帰らない?」
「……いいですよ。でも、スーパーで夕飯の材料を買ってから帰る予定ですけれど」
「そうなんだ。それじゃあ、俺も立ち寄ろうかな。スーパーの隣の本屋にも用事があるし」
「あ、本屋さん! 私も行きたいです」
「うん、それじゃあ行こうか」
大学から自宅まではいつもバスを利用して通学しています。
ですが、今回はバスで駅前まで乗ってから、駅近くのスーパーで買い物をして、歩いて帰ることになりそうですね。
どうか、それまでの間、雨が降らないことを祈るしかないでしょう。
・・・・・・・・・
バスの終点は駅前だったので、そこで降りてから二人でスーパーまで歩いて行きました。
「えっと、カレーでも作ろうかな……。カレー粉と人参と、あとは……」
頭の中で夕食の献立を考えながら買い物かごに商品を入れていると、大上君にひょいっと買い物かごを奪われてしまいました。
「大上君?」
「せっかくだから、赤月さんの荷物持ちがしたくって。ほら、新婚ほやほやの夫婦みたいな気分が味わえるかなぁと思って」
「……」
「そんな冷めた表情も可愛いよ、赤月さん」
「物好きですね……。でも、ありがとうございます」
あまり、人に荷物を持たせるのは好きではありませんが、無理に奪い返そうとすれば駄々をこねられそうなので、私が諦めることにしました。
こういう時、妥協って大事ですよね。
「うへへ……。新婚みたいだ……。赤月さんと買い物……へへっ……」
「……」
背後から、怪しい笑い声が聞こえてきますが無視していても良いですよね?周囲の人には聞かれないように配慮しているみたいですが、私にはがっつり聞こえています。
変わらない人だなぁと思いつつ、私は夕飯の材料に必要なものを次々と買い物かごへと入れていくことにしました。