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赤月さん、たこ焼きを食べる。

 

「いただきまーす!」


 ことちゃんは我慢出来なかったようで、ソースをかけてから、さっそくたこ焼きを頬張っているようです。


「……たこ焼きの中にわさびを入れて、ロシアンルーレットをやってみても楽しいだろうな」


 ぼそりと白ちゃんが呟きました。その表情は悪い事を考えている時と同じで黒いです。


「うわぁ、えげつないことを考えるねぇ、冬木君」


 大上君もさすがに引いているようです。本当にわさびを入れる気はないですよね? きっと、白ちゃんの冗談でしょう。そういうことにしておきましょう。


 すると、白ちゃんはふいっと大上君の方へと視線を向けました。

 あ、これは少し拗ねている時の顔ですね。


「なあ、大上。僕のことを君付けで呼ぶのは止めてくれないか。女子から名前を呼ばれている気がして、背筋が凍りそうだ」


「そう?」


「ああ、真白(ましろ)でいい」


「それなら、俺のことも伊織(いおり)でいいよ。……あ! もちろん、赤月さんも俺のことを名前で呼んでもいいんだよ! 赤月さんに呼ばれるなら、大歓迎だよ!」


「私は遠慮しておきます……」


 名前で呼んだら、急に距離が近くなる気がするので今は遠慮しておきましょう。


 それにしても白ちゃんが他の人に心を開くなんて、中々珍しいですね。下の名前で呼ぶことを許可している人なんて、今まで両手で数える程しかいなかったので。


「はふっ……! おっ、い、ひぃっ……!」


「ことちゃん、頬張り過ぎてリスみたいになっているよー」


 どうやら大上君が作ったたこ焼きはことちゃんに気に入られたようですね。

 私も食べてみましたが、お店で買ったもののように美味しかったです。


「そういえば、ゴールデンウイークが始まったわけだけれど、千穂は実家に帰るのか? 僕も小虎もバイトか部活で埋まっているから帰るつもりはないけれど」


 たこ焼きを食べながら、白ちゃんが何気なく訊ねてきました。


「私も数日だけ図書館でのアルバイトが入っているから、帰るのは無理かも。……大上君は?」


「ん? 俺もバイトがあるし、帰らないと思うよ。夏休みになったら、実家の都合で強制帰還させられるけれどね」


 大上君は次のたこ焼きを焼きつつ、さらりと言いました。


 恐らく、ことちゃんから「早く次のたこ焼きを作れ」オーラが溢れていたことに気付いたのでしょう。

 何だか餌付けされているようにも見えますが、恐らくことちゃんは気付いていないと思います。


「実家の都合というと……えっと、神社のお手伝いとかですか?」


「へえ、実家は神社なんだ。ますます意外だな」


 やはり、白ちゃんも大上君のことを都会人だと思っているようですね。

 分かりますよ。オーラが出ていますもんね、眩しいきらきらのオーラが。


「うん。神社で夏祭りがあるから、それの手伝いをしに帰らなきゃいけないんだ。面倒だけれど、バイト代が出るから頑張るしかないよね」


 ふふっと笑いながら大上君は次のたこ焼きを焼き上げました。本当に鮮やかな手捌きです。


 そして、大上君がことちゃんのお皿にたこ焼きを移すたびに、たこ焼きはことちゃんの胃の中へと一瞬で消えて行きました。イリュージョンです。


「千穂はゴールデンウィーク中、バイトが休みの日っていつ?」


「えっと……。明後日くらいでしょうか……」


 ゴールデンウィークのお休み自体が四日ほどしかなかったので、実家へと帰省する人は半々くらいだそうです。


 世間では有給などを使って連続で十日程、休みを取っている人もいるらしいので、大学もそれくらい休みにしろと学生達が訴えていましたが、却下されていたようですね。


「うーん……。ゴールデンウィーク中にお互いの休みを合わせて、どこか遊びに行けたら良かったんだけれど、休みが被っている日はないみたいだね。僕も小虎も休みが明日くらいしかないし」


「そうなのですね……。残念ですが、また休みの日を合わせて、どこかへお出かけしましょう」


「そうだね」


「ねえ、その時は俺も参加してもいいの? 幼馴染三人だけで楽しんで、俺を除け者にしたりしない?」


 そこで大上君が泣きそうな顔で割りこんできました。必死さがかなり表情に出ています。


「はっはっはー。どうしようかなぁ~。たこ焼きをあと三十個焼くなら、考えてもやらない」


 ことちゃん、あなたは一体どれほど食べる気なのですか。お腹を壊しますよ。


 あと、大上君、気合を入れてたこ焼きの新しい生地を作り始めないで下さい。そのたこ焼き粉の分量で、一体どれ程のたこ焼きを作るつもりなのですか。


 白ちゃんに限っては二人を止める気なんて更々ないようで、涼しげな表情でたこ焼きを食べています。


 でも、この雰囲気に楽しいと感じてしまっている自分もいて、私は肩を竦めつつも大上君が作ってくれたたこ焼きを笑顔で頬張るのでした。

 

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