赤月さん、大上君の兄弟を知る。
大上君は炬燵の台の上に置いている「たこ焼きプレート」に、手慣れたように油引で油を引いていきます。
そういえば、このたこ焼きプレートも大上君が持参してきたものでしたね。
ご実家ではよく、たこ焼きを食べるのでしょうか。私は屋台で食べたことがある程度なので、自宅でたこ焼きを作るのは初めてです。
「随分と手軽に出来るんだね、たこ焼きは。もっと時間がかかるものかと思っていたよ」
「最近はキャベツが千切りされたまま売られているものがあるからね。他にも小分けに売られている紅生姜があるから、あまり手を汚さないままで、たこ焼きが作れるんだよ」
「なるほどね」
大上君の話に白ちゃんは素直に感心しているようです。確かに、最近は様々な方法で食材が売られているので、とても便利な世の中になりました。
今、たこ焼き用の生地をおたまで混ぜている大上君も手間が省けるようにと色々と考えて作っているみたいですね。
大上君が作った生地がじゅわぁっと音を立てながら、プレートの上に流れていきます。
その光景をことちゃんが今にもよだれを垂らしそうな顔で眺めていました。
「蛸は用意出来なかったから、代用品としてウィンナーを小さく切ってきたんだ。それとトッピングとしてキムチやチーズもあるよ」
「じゅる……」
隣に座っていることちゃんがよだれを拭きました。食べることが好きな彼女ならば、今の状況はご飯の目の前で「待て」の命令を出されている状態なのでしょう。
「美味しそうですね」
「でしょう?」
大上君はどこか得意げに、そう返事を返します。
材料を生地の上に乗せ切った後、千枚通しでひょいひょいとたこ焼きをひっくり返していく姿に、思わず目を瞠りました。
「手慣れているんですね、大上君」
「実家で、両親が不在の時には兄弟で協力しながら料理をしていたからね。でも、俺は一番年下だからあまり火を扱うものは触らせてもらえなくって、たまに拗ねていたんだ。だから、たこ焼きプレートを使えば俺でも簡単に料理が出来るって、兄が……」
そこで大上君が話をぴたり、と止めてからどこか気まずそうにわざと咳き込みます。
どうやら、小さい頃のお話を喋ってしまったことを少し気恥ずかしく思っているようですね。
「大上君は弟さんなんですね」
「うっ……」
「ちなみに、何人兄弟なんだ?」
幼馴染三人の中で一番兄妹が多いことちゃんが何気なく訊ねます。大上君はどこか諦めたような表情で答えてくれました。
「四人だよ。一番上が兄で、その下に長女と次女、そして俺の順番かな」
「へえ、四人兄弟の末っ子なんだ。意外だな」
あまり人に興味を持たない白ちゃんがオレンジジュースを飲みながらそう言いました。私も大上君の兄弟が多いことに驚きです。
「一番上の兄はしっかり者なんだけれどね。……姉二人が何というか……我が強いというか、騒がしいというか。よく俺に構ってくるから少し鬱陶しかったなぁ……」
「ああ、分かるよ、その気持ち。姉というものは弟を無駄に可愛がっては構ってくる生き物だよね……」
白ちゃんにも姉と弟が一人ずついるのですが、この一番上のお姉さんは二人の弟をかなり可愛がっているようでした。
そして、よく白ちゃんと遊んでいた私も可愛がってもらっていた記憶があります。良いお姉さんですが、白ちゃんは少し鬱陶しく思っていたようですね。
「だよね! そうなんだよね……。だから、一人暮らしをしている今が一番穏やかな時間を過ごせている気がするんだ」
「あー……分かる……」
どうやら、男の子二人はそれぞれ共通する話題で共感しあっているようです。このまま、二人の仲が良くなるといいですね。
「なぁっ、大上! たこ焼きはまだ出来ないのか!? まだ食べたら駄目なのか!?」
我慢が出来ないと言わんばかりにことちゃんは持っているお箸を震わせています。
「もう出来上がるよー。……はい、どうぞ。ソースと青のりと鰹節はお好みでかけるといいよ」
大上君はそれぞれのお皿に出来上がったたこ焼きを素早く移動させていきます。
何という千枚通し捌きなのでしょう。早すぎて、目が追いつきませんでした。
「大上君、凄いです……」
「えへへ、そうかな? 赤月さんに褒められると嬉しいなぁ。よし、たこ焼き職人にでもなろうかな!」
「いえ、そこまでしなくていいです。私の一言で将来を決めないで下さい」
発言に気を付けないと大上君の人生に影響しかねないことを理解しましたので、今後は気を付けていこうと思います。
この人、本当に軽い気持ちで将来を決めてしまいそうです。
たこ焼きは私も好きですが、私の一言で将来を決められると、何となくその責任がある気がして気持ちが重くなるので。
自分の将来は自分で決めて下さいね、大上君。