赤月さん、皆と打ち上げする。
こんにちは、赤月千穂です。
先日、梶原教授に任された、オープンキャンパスでの発表が何とか無事に終わりました。
結果は……はい、私は緊張によってせっかく用意していたレジュメの台本の文章を何度か噛んでしまいました。本当に恥ずかしかったです。
梶原教授からは新入生らしい初々しさがあったが、発表の内容はしっかりと調べられていて、パワーポイントもとても見やすい作りになっていたと言われたので嬉しかったです。
次の機会があるならば、もう少し人前に立つことに慣れておきたいと思います。
参加している高校生や他の学生に混じって白ちゃんとことちゃんが発表を見ていたようですが、私が人前に立つこと自体が珍しいので、感極まって目頭を何度か押えていました。
二人は私の親か何かでしょうか。
ちなみに、大上君が動画を撮りたいと言っていましたが個別での動画撮影は許可されませんでした。
ですが、同じ歴史学部の先輩が、学部の記録として保管するために教授に頼まれて動画を撮っていたので、それをダビングして欲しいと動画を撮影していた人に詰め寄っていました。
それからどうなったのかは聞いていません。
ちなみに大上君の発表は新入生にしてはかなり出来が良いものとして教授達の間で絶賛されていました。
高校生だけでなく、主に女性陣からはうっとりするような瞳を向けられていました。
教授の誰かが、「これで来年の入学希望者の人数は確保出来たな」と言っていました。どうやら客寄せパンダにされていたようです、大上君。
そんな感じで無事にオープンキャンパスの発表を終えることが出来ましたので、大上君発案で打ち上げが開かれることが決まりました。
もちろん、たくさんの人を呼ぶような打ち上げではなく、知り合いだけによる小さな打ち上げです。
参加者は大上君、私、白ちゃん、ことちゃんです。他にはいません。
むしろ、この四人だけでやろうということになりました。私としてはとても気楽な人選なので安心です。
「えー……。飲み物はそれぞれ、手元に渡っているでしょうかー?」
打ち上げの幹事のように、大上君はオレンジジュースが注がれた紙コップを片手に席に座っている私達を見渡していきます。
「準備できました」
「よし、それでは……。赤月さんが人前で一生懸命に発表したことを記念して、かんぱーい!」
「かんぱーい!」
「乾杯」
大上君の音頭に他の二人も飲み物を頭上に掲げて、乾杯と言います。
「ちょっと待ってください。今の音頭は一体、何ですか。これは発表の打ち上げではないんですかっ」
今、個人的な名前が入っていましたよね。
間違いなく聞きましたよ、私は。
「千穂! お前が人前で発表出来るようになるなんて……私は……嬉しいぞっ……!」
そう言って、ことちゃんは目頭を指で押さえます。
その仕草は一体、何回目ですか。
「ねえ、音頭は別にいいんだけれど、どうして打ち上げ場所が僕の部屋なの?」
白ちゃんは眉を顰めながら、オレンジジュースをぐびっと飲み干します。
白ちゃんが借りている部屋に来るのは数度目ですが、いつ見ても整理整頓がされている綺麗なお部屋です。男の子でこんなに綺麗な部屋は中々ないでしょう。
「だって、千穂を大上の部屋には連れて行きたくないし、大上を千穂の部屋には入らせたくはないし。それに私の部屋よりも真白の部屋の方が整頓されていて、綺麗だからな!」
にかっと笑うのはことちゃんです。確かにことちゃんの部屋はその……えっと、とても個性的な内装の部屋だということにしておきましょう。
「そのことには確かに全同意するけれど……」
「ねえ、二人は俺のことを赤月さんの友達だって、認めてくれたんだよね!? そろそろ態度を軟化しても良くない!?」
大上君の訴えに白ちゃんは「はんっ」と言いながら、薄っすらと笑みを浮かべます。
「千穂の部屋に入りたければ、小虎を倒してから言うんだな」
「よし、相撲でもするか? 私、得意だぞ!」
さっそく、ことちゃんが腕まくりをし始めたので、大上君は慌てて首を横に振りました。
「せめて、室内ではなく外で! それに今日は発表の打ち上げなんだから、荒事は無しにしようよ!」
大上君もことちゃんには勝てないと覚っているようで、分かりやすい程に話の方向を変えて行きました。
でも、その様子は少しだけ必死に見えて可愛かったです。