赤月さん、幼馴染達に謝る。
大上君と一緒に先程の空き教室へと戻ると、白ちゃんとことちゃんがどこか泣きそうな表情で待っていてくれました。
この二人には本当に心配ばかりかけてしまって申し訳ない限りです。
「あの……」
「──千穂ぉぉっ」
私が声をかけるよりも早く、突撃してきたのはことちゃんでした。
顔を見た瞬間に遠慮なく抱きしめて来たので、一瞬で言葉は掻き消され、ついでにことちゃんの胸で私の顔は覆われました。
「ごふっ……。こ、ことちゃん……」
強く抱きしめられると胸がかなり押しつけられて呼吸がしにくいです。ことちゃんは胸が大きいことをあまり自覚していないようですね。
「心配したんだぞぉっ。良かったぁぁっ。うああぁぁっ」
ことちゃんは泣いているわけではないようですが、大音量が身体中に直接、響いてきます。さすが、体育会系なので声が大きいようです。
そこへ白ちゃんもやってきました。
「ほら、小虎。それ以上、千穂を締め付けると窒息するぞ」
「うぐぐ……」
白ちゃんは呆れたような声色でことちゃんを止めてくれました。正直、息がしにくい状態だったのでことちゃんを止めてくれた白ちゃんには感謝です。
お礼を言おうと思って白ちゃんの方を見上げると、彼は薄っすらと笑ってから、私の頭を優しく撫でてきます。
その視線はまるで妹を見ているような感情が含まれて見えました。
「良かった。大上に見つけてもらえたんだな。……顔色もそんなに悪くはないようだし、安心したよ」
「白ちゃん……」
二人には心配をかけ過ぎてしまったようです。
ことちゃんから解放された私は二人に向かって勢いよく頭を下げました。
「心配と迷惑をかけてごめんなさいっ」
「千穂……?」
頭上からは二人の戸惑う声が漏れ聞こえました。
私は二人に話そうと思っていた決意を思い切って告げることにします。一年分の勇気をこの瞬間につぎ込んだような気分です。
「でも、でもね……。あの……これからはちゃんと自分のトラウマに立ち向かっていきたいと思うの」
「何?」
「え?」
幼馴染二人は同時に驚いた表情を浮かべて、目を見開いていきます。
「私は……いつも逃げてばかりで、そして二人に守られてばかりだった。けれど、もうそんな自分は嫌なの。ちゃんと……ちゃんと、トラウマを克服して、二人に心配しなくていいよって、言えるようになりたいの……!」
「千穂……」
私は頭を上げて、視界の端に映っていた大上君の方に一瞬だけ視線を向けます。大上君は私を見守るように優しげな笑みを浮かべ返してくれました。
その笑顔がどれ程の勇気になっているのか、きっと大上君は知らないのでしょう。
「……トラウマを克服すると、自分で決めたんだな?」
確認するように白ちゃんが訊ねてきたので私はこくり、と強く頷いてから言葉を続けます。
「トラウマから立ち直るまで、時間がかかるかもしれないけれど、それでももう逃げないって決めたんです。まだ、首を触られることは怖いけれど……でも、頑張るから」
大上君と一緒に、とはさすがに言いませんでした。この場で言ってしまえば、大上君が二人から集中砲火を食らってしまうので。
せっかく、一歩を踏み出す手伝いをしてくれた大上君にそんな目に遭って欲しくはないので。
私がはっきりとそう告げると、何故かことちゃんが両手で顔を覆いました。突然の行動に私もつい、驚いてしまいます。
「こ、ことちゃん!?」
「うぅぅっ……。自分でトラウマを克服するって、決めるなんて……。いつのまに千穂はこんなにも大きくなって……。いや、身長に変わりはないけれど」
「身長は今、関係ないでしょうっ!?」
確かにことちゃん達に比べたら低身長ですが、それでも毎年、伸びてはいるのですよ。数ミリ単位で。
私が頬を膨らませて訴えると、両手から顔を上げたことちゃんは何故か泣き出しそうな表情で笑っていました。