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赤月さん、大上君になめられる。

 

 しかし、大上君に告げられた言葉のその意味が理解出来なかった私は首をかしげつつ、訊ね返します。


「……はい?」


「だからっ! 俺が、好きなのは……君なんだよ。赤月さんが好きなんだ。君が好きだから、こうやって(せま)っているし、食べたいと思っているの! 話しかけたり、追いかけていたのも、全部そういう理由だったの!」


「え、ちょっと待って下さい」


 頭の中が混乱し始めました。

 一度、整理をしましょう。


「え? えっ? どういうことですか? 私、大上君に好かれるようなことをしていませんよ? 何で好きなんですか?」


 生まれて初めて、好意の告白というものを受けましたが、脳と感情が追いつきません。


 そもそも、私達は友達にさえなっていない関係で、深く会話をしたことすらありません。

 お互いに大学に入学したばかりの初対面で、ただの挨拶程度を交わす関係です。


 むしろ私は大上君を避けていたので、嫌われているならば理解出来るのですがその逆は考えたことはありませんでした。

 それ故に混乱しているのです。


「一目惚れです! だから俺と付き合って、食べられて下さい!」


「不足過ぎる説明ぃぃっ! そして、話が飛躍しすぎですー!」


「俺のことを説明すると長くなるんだけれど、それを抜きにしても俺は赤月さんのことが大好きだよ! 好き! 結婚しよう、養うから! あと一口だけ食べさせて!」


「駄目だ、この人、人間の言葉が通じないっー!」


 へたへたと私は気が抜けたようにその場に座り込みます。すると、それに合わせて大上君も目の前に座り込みました。


「赤月さんは俺のこと、嫌い?」


「嫌う以前に、私はあなたのことを何も知りません。……あなただって、私のことをそんなに知らないでしょう」


「えっと、それなら誕生日、血液型、出身地、小中高の出身校、好きな食べ物と嫌いな食べ物、得意教科と苦手教科、趣味、身長とスリーサイズを言えば、俺が君のことを知っているって定義に当てはまるかな?」


「怖っ……! 何でそんな情報を知っているんですか、怖いですよ!」


「好きな子のことはたくさん知りたいと思うのは普通じゃない? 俺もこのくらいだけじゃ満足出来ないから、もっと赤月さんのことを知りたいと思っているけれど」


「大上君が言うと凄く偏執的に聞こえるんですが!?」


 私が涙をぽろぽろと零しながら、訴えるようにそう告げると大上君はにこりと笑ってから、顔を近づけてきます。


 ──ちゅっ。


 と、乾いた音が間近で聞こえたと思えば、何故か大上君が私の目元に口付けているではありませんか。


「ひぃぃっ!」


 思わず、座ったまま後ろへ下がっていくと大上君は自身の口元を左手の親指で軽く拭ってから、どこか納得するように頷きました。


「うん、やっぱり赤月さんは想像以上に美味しいね」


「なっ、なっ……! い、今、私の涙を舐めとったんですかっ!?」


「そうだよ? ねえ、もう少しだけ舐めてもいい?」


「嫌ですーっ!」


 私は素早く服の袖で、涙を拭いました。これで舐められる涙はありません。


 というか、それほど親しくはない相手の涙を舐めるなんて、彼は一体どういう神経をしていらっしゃるのでしょうか。


「き、気持ち悪いですよ!」


 人に指を向けてはいけないとよく言いますが、そんなことを忘れた私は自分の感情に従うように、大上君に人差し指を向けました。


「意味が分からないです! なんで……! 私、あなたに……」


「好かれるところがないって思っているのは君だけだよ?」


 大上君は笑顔のまま、私が指差した腕を手に取りつつ、身体を引き寄せてしまいます。あっという間に距離は縮まってしまいました。


「俺は君が好きなんだ。初めて会った時から──いや、きっと初めて会う前から」


 あまり意味の分からないことを言っていますが、私はただどうにか大上君から逃げようともがくしかありません。


「やっと手に入るんだ。……絶対に逃がさないし、逃がす気もない。それぐらいに君のことが好きなんだ。ねえ、この気持ち、信じてくれる?」


「うぅ……」


 純粋に輝くような瞳を私に向けないで欲しいです。


 分かりました。とりあえず彼が私のことを本当に好きだと思っていることは理解しましょう。


 ですが、だからと言ってむやみやたらに相手の許可なく、食べようとすることは認められません。

 あと涙を舐めとる行為もちょっぴり許せません、恥ずかしかったので。

 

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