赤月さん、先輩に詰め寄られる。
「ま、まあ、私のことはどうでもいいのよ。それよりも、赤月ちゃんと大上君のことよ」
まだ私が中心のお話は終わっていなかったようですね。そのまま、忘れていても良かったのですよ、とは口にはしませんでした。
「赤月ちゃんは大上君と付き合っていないの? よく一緒に話しているところを見るし、その時の大上君は他では見られない程に笑顔なのだけれど」
「うぐ……。ほ、本当にただの友達ですよ……。確かに大上君とはよく話をしますけれど」
大学に入学してから半月が経ちましたが、同じ学部で友達と呼べるような人はまだいません。なので、私に近寄ってくる大上君と話すことが一番多い気がします。
助けを求めるためにちらりと倉吉先輩の方に視線を向ければ、彼は「女子って恋愛の話が好きだよなぁ」と言いながら、お弁当を食べていました。
私の視線には気付いていないようです。
「そうなの……。ほら、大上君って凄くモテるでしょう? 噂によれば、すでに四人の女の子から告白されたらしいわ。でも、いつも上手い感じに女の子をあしらっているから、不思議に思っていたのよね」
「……」
「それに赤月ちゃんと一緒に居る時は素の表情を浮かべているように見えたの。だから、大上君は赤月ちゃんが好きなのね、と思ったのよ」
桜木先輩、本当によく人を見ているお方のようです。
「赤月ちゃんは大上君のこと、好き?」
「はいぃっ!?」
自分で思っていたよりも大きな声で返事を返してしまいました。しかも裏返っていたので恥ずかしい限りです。
「赤月ちゃんは、大上君のこと、恋愛的な意味で、好き?」
どうして二度も言うのですか。ゆっくり告げても言葉の意味は変わっていませんよ、桜木先輩。
そして、これは一体どういう拷問なのでしょうか。
「な、な、な、なんで、そのようなことを、聞かれるのですかぁっ……!」
「だって、気になっちゃって!」
悪意も害意も全くない、爽やかな表情で桜木先輩は言い切りました。
彼女の背後からは、倉吉先輩が「ごめんな」と言った表情で私に謝ってきます。謝るくらいならば、止めて欲しかったです。
「わ、私は別に……。今は、勉強することが楽しくて、恋愛とかには興味がないと言いますか……。それに恋愛感情というものがよく分からないのです……」
「あらあら、そうなのね。ふふっ」
大した返事が出来ていないというのに、桜木先輩は楽しそうに笑っています。どうか、この返事だけで満足して欲しいです。
「いいわねぇ。可愛いわぁ……。はぁ、青春。青春がここに展開されていく……。リアル少女漫画を見ている気分……」
ぼそりと桜木先輩が何かを告げましたが私には聞き取れませんでした。
ですが、隣に座っている倉吉先輩には聞こえていたようで、桜木先輩は左肘で小突かれていました。
「七緒。人の恋路の邪魔をするんじゃない。……他人が手を加えて、面倒なことになったらどうするんだ」
「いやぁねぇ。私は専ら見る専よ? 手も口も出さないわ! 恋という名の過程を影ながら、ずっと見守るのが楽しいのよ!」
宣言するようにそう告げてから、桜木先輩は再び私の方に視線を向けてきます。
「とにかく、何か困ったことがあったら相談に乗るわ。ぜひ、頼って頂戴!」
「へっ? は、はぁ……ありがとうございます……?」
私は首を傾げながらもとりあえず、返事をすることにしました。困ったことは特にはありませんが、後で今度の発表についての仕方を教えてもらうことになるかもしれませんね。
大上君と私についての話題は終わったようなので、私達は再びお弁当を食べる手を進めました。
ちらりと背後に視線を向ければ、困った表情のまま、同級生の女の子達を相手にしている大上君の姿がありました。
お昼の時間、大上君は結局、女の子達から逃げることは出来なかったようで、私のところへ来ることはありませんでした。