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赤月さん、先輩に訊ねられる。

 

 午前中のフィールドワークを終えた後は梶原教授の奢りで、地域の特産物が詰め込まれているお弁当を買って頂きました。


 それを城跡近くの公園で食べることになり、私は出来るだけ他の学生達から離れた場所で食べることにしました。


 何故かというと、昼食の時間になった途端に、同学年の女の子達が一斉に大上君のもとへと向かったからです。


 いやはや、おモテになる方は大変ですね、と言った意味を含めた視線を大上君に向ければ、彼はまるで捨てられた子犬のような潤んだ瞳を向けてきました。

 もちろん、無視です。


 絶対的に独りが好き、というわけではありませんが、女の子達がたくさんいる中で大上君と一緒に食事をしたいだなんて、一ミリたりとも思いません。恐ろしい限りです。


 そんな事情もあり、私が皆から離れたベンチで、一人で食事をしているとその隣に人影が座ってきました。


 まさか、大上君があの女の子の壁を突破してきたのかと思って振り返ると、そこにはなんと桜木先輩と倉吉先輩が並んで座っていました。


「お隣、座らせてもらうわね」


「は、はい……」


「邪魔するぞ、赤月」


 私は二人が座れるように出来るだけ端っこに寄って、場所を空けます。


「ここは静かでいいわねぇ。……いただきまーす」


「そうだな。いただきます」


 二人は同時にお弁当を食べ始めます。

 もぐもぐと食べながらも桜木先輩は私の方に、興味深そうな視線を向けてきました。


「それで、赤月ちゃんと大上君は付き合っているの?」


「んごぉっ!?」


 私は飲もうとしていた水筒に入ったお茶を思わず喉に詰めてしまいました。


「おい、七緒。あまりにも唐突過ぎるだろう。いくら気になったからって、せめてタイミングというものを考えろよな。……すまない、赤月。七緒が気になるから本人に聞きたいと言っていてな……。言いたくなければ無視してくれて構わないから」


 倉吉先輩はそう言いますが、先輩の話を無視するなんてことは出来るわけがありません。私は呼吸を整えてから、桜木先輩の方へと振り返りました。


「い、一体何を……。私と大上君は……ただの、同級生ですよ」


「あら、違うの?」


「うっ……。と、ともだち、です、よー……?」


 私はゆっくりと視線を動かしていきます。


「でも、大上君の赤月ちゃんを見ている視線って、とっても情熱的よね」


「……はい?」


「それに他の男子が赤月に近づこうとするのを防ぐように、お前の背後から威圧しているからな」


「……んん?」


 何だか自分の知らないことを聞かされた気分ですが、大上君、全く自重していないではありませんか。先輩達に知られていますよ!


「見ていれば、大上君がいかに赤月ちゃんに好意を寄せているのかくらい分かるわ。……こっちが呆れる程に分かりやすいもの」


「この前の飲み会の時も、久藤のくそ野郎──じゃなかった、久藤先輩から赤月を遠ざけようとしていたからな。……そう言えば、赤月に一つ、謝らなければならないことがあったんだった」


 倉吉先輩はお弁当を食べる手を止めてから、こちらに視線を向けてきます。


「飲み会の時は久藤先輩が出来るだけ新入生に近づかないように見張っていたんだが、七緒の介抱で目を離した隙に赤月が目を付けられていたのをすぐに助けられなくて悪かったな」


「い、いえ……。そんな……。私も不注意でしたし……」


「……私も成人したからって、つい調子に乗ってお酒を飲み過ぎてしまって申し訳ないわ。ああ、なんて醜態を晒してしまったの……!」


「大丈夫だ、七緒。お前、素面も酒を飲んだ時もそんなに変わらないから」


「それは慰めの言葉になっていないわ!」


 少し頬を赤らめながら反論する桜木先輩を倉吉先輩はどこか呆れたようにも見える瞳で見つめています。


 倉吉先輩は恐らく苦労人なのでしょう。表情からは彼の人知れぬ苦労がにじみ出ている気がしました。

 

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