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赤月さん、フィールドワークを楽しむ。

 

「あ、そういえば、今度のオープンキャンパスの時に二人も発表するって聞いたわ」


 やっと倉吉先輩の腕から解放された桜木先輩が嬉しそうな表情で訊ねてきました。


「そうなんです。梶原教授に誘われまして」


「梶原教授も色んな一年生に発表に興味がないかと誘っていたから、二人が参加することになって、さぞかし喜んでいるだろうな」


「二人にとっては初めての発表だろうし、良かったら発表の仕方を教えてあげるわ」


「ありがとうございます、先輩」


 私がぺこりと頭を下げると、桜木先輩が再び両手を広げてきたので、それをすかさず倉吉先輩が押さえ込んでいました。


 しばらく四人で今度の発表についての話をしていると、今回のフィールドワークを担当する梶原教授が集合場所へとやってきました。


「やあ、おはよう。倉吉、桜木。今日の引率、宜しく頼む」


「おはようございます、梶原教授」


「はい、こちらこそ宜しくお願いします」


 倉吉先輩達が挨拶したあと、私と大上君も先輩達の陰からひょっこりと出てから梶原教授へと挨拶をしました。


「おはようございます」


「今日のフィールドワーク、宜しくお願い致します」


「二人とも、おはよう。このフィールドワークで二人にとって、扱いたいと思えるテーマが見つかるように私も気合を入れて講義をしていくから、宜しくな」


「はい」


「宜しくお願いします」


 お互いに挨拶をしていると、他の学生達も集合場所へと集まって来ました。


 倉吉先輩達は参加する一年生に名前を訊ねては名簿のようなものにペンでチェックを入れて行きます。恐らく、参加している学生の名前と人数を確認しているのでしょう。


「それじゃあ、出発しようか」


 梶原教授は倉吉先輩達に参加している学生の人数の報告を受けた後、皆に聞こえるように声を張ってから、先頭を歩き始めます。


「はーい、道路を歩く際には出来るだけ一列に並んで、他の歩行者や自動車の迷惑にならないように歩いて下さいね~」


「白い線の内側から外に出ないようになー。車が後ろから来たら、声をかけて注意するぞー」


 背後からは桜木先輩と倉吉先輩の注意する声が聞こえてきます。

 私は他の学生が歩く速さに遅れないように気を付けながら歩き始めました。



・・・・・・・・・・



「──ということがあって、今はこの城跡には石垣しか残っていないんだ。だが、当時、城内にあった甲冑や茶碗といったものは、現在は現物史料としてすぐ近くに建てられている資料館に寄贈されて、展示されている。あとで、この資料館にも寄るぞ」


 梶原教授の話を聞きながら、講義を受けている学生達は立ちっぱなしで手に持った手帳にメモをしていきます。


 どうやら、このフィールドワークの授業は学期末に提出するレポートのテーマとしても使うことが出来るようです。

 そのため、少しでも講義で教わったことをメモしようと必死にペンを走らせる人もいれば、石垣をカメラやスマートフォンで撮っている人もいます。


「赤月さんは字がとても綺麗だよね」


 ぼそり、と大上君が他の人に聞こえなくらいの声量で話しかけてきました。


「そうでしょうか? ……自分に分かりやすく書いているだけなので」


「けれど、立ちっぱなしで文字を書くのは大変だろう? それでも、君の文字はいつもと同じで綺麗なままだから、読みやすいなと思って」


 何となく、大上君が言いたいことが分かった私は一つ深い溜息を吐いてから、視線を向けます。


「……この手帳に書いたメモを見たいんですか」


「よく分かったね」


「別に無理に褒めようとしなくても、頼まれれば貸しますよ」


「ありがとう、赤月さん。でも、君の字が綺麗だなと思ったのは本音だよ? ……今度の発表のテーマは『城』か『石垣』にしようかなと思って。だから、赤月さんがメモに取ったことを確認として見ておきたいなと思ったんだ」


「え、もうテーマを決めたんですか」


 大上君、決定するのが早いですね。私はどれにしようかと迷っている最中だというのに。


「うん。赤月さんも、気になったテーマが見つかると良いね」


「そうですね……。資料館に行った後は、かつて城下町だった場所を巡る予定らしいので……」


 城下町だった場所には、歴史的建造物が建っている他に、教科書に名前が載っているような人物と縁のある場所がいくつかあるそうです。


 やはり、自分の足で歩いて、現物を見たり、聞き取りしたりして、得たいものを一つずつ得て行くのがフィールドワークの醍醐味というものでしょう。


「ふふっ。赤月さん、この前の飲み会よりも楽しそうだ」


「そ、そうでしょうか……」


 そんなに表情に出ていたでしょうか。

 確かにフィールドワークを楽しみにしていたことは認めましょう。


 ですが、大上君。あなた、いつまで私の顔を覗き込んでいるつもりですか。

 ほら、梶原教授を先頭にした列は再び歩き始めましたよ。


「い、行きますよ、大上君」


「うん」


 まるでお散歩に出かける飼い犬のように嬉しそうな表情で付いて来るの、止めてくれませんかね。何だか耳と尻尾が見えてきそうです。

 

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