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赤月さん、大上君に叫ぶ。

 

 今、何と仰ったのでしょう。ちょっと、いいえ、かなり理解不能な言葉が出て来た気がします。

 言葉は分かるのですが、意味が分かりません。


「……た、べる?」


 大上君が言った言葉を何とか思い出しつつ、声に出してみると大上君は満面の笑みでこくりと頷きます。


「そう、君を食べたいんだ、赤月さん。……もちろん、その意味は分かるよね?」


「ひぃっ……!」


 大上君は優しげな表情で微笑んでいますが私にとっては悪魔の微笑みにしか見えません。


 これは絶対逃走案件です!

 この人、本当に危ない人でした!


 大学には色んな人間が集まるから気をつけてと、入学前に両親に諭されたことを今、思い出しました!


 男性は獣──。


 まさにその通りです。大学は想像以上の魔窟だったのですね……!

 せめて防犯ブザーでも持っていれば……。


「今なら、誰もいないし、チャンスだと思ったんだ。君も俺も、普段は友達が傍にいるからね。中々、一対一で顔を合わせる機会はなかったし」


 大上君に掴まれている手は全く緩みそうにありません。本当は大声を出すことは得意ではありませんが、貞操の危機と言うならば心の底から叫びます。


「だから、赤月さん──」


 ぐいっと更に大上君の顔が近づき、私を真っすぐに見下ろして来ます。


 イケメンだからと言って、何をやっても許されると思っているんですか!

 そう叫びたくても、やっぱり恐怖によって、声がかすれてしまいそうです。


「一口! 一口でいいから、君の耳をはむはむさせてくれないか!?」


「ひぇ……。……はい?」


 ──はむはむ?


 初めて聞く単語ですね。一体、どういう意味なのでしょうか。

 思わず、思考が一旦停止してしまいました。


「君のその耳を甘噛みしたくて仕方がないんだ! あっ、頬っぺたでもいい。もしくは二の腕! 一口だけ! 一口だけでいいから、はむはむさせてくれ! 出来るだけ健全に、噛み痕を残さないようにするから!」


「へ……」


 私は空気を吸い込むことを忘れていました。忘れていましたが、それでも心に一つだけ思い浮かんだ単語がありました。


「変態だぁーっ!!」


 つい叫んでしまいます。だって、大上君の言っている行為が、それ以外に当てはまる言葉が見つからなかったので。


「違う! 俺は変態じゃない! ただ純粋に君を食べたいんだよ! もちろん、君の身体を隅々まで頂きたいという意味もあるけれど! 二重の意味で君を食べたいんだ、赤月さん!」


 それは追い討ちとなる言葉でした。


 つまり、彼は私のことを物理的にも……そ、そして、そういう意味でも食べたいと言うことですね!?


 私、大人向けの甘い小説はあまり読めませんが、少しくらいの知識は知っていますよ!

 保健体育の知識程度ですが!


「うわぁぁっ! 本当に変態だ! 怖いよぉぉ! 誰かぁ! 誰か、助けてぇ!」


 これは明らかに貞操の危機です。私は涙を流しながら、泣き叫びます。


 せめて、教室の扉が開いていれば廊下に声が届いたのに、ちゃっかり大上君が閉めて来ていたようです。


「あ、言っておくのを忘れていたけれど、この部屋は防音になっているよ?」


 だから、今までそれほど強気と言いますか、余裕の表情だったんですね。


「ううっ……。私を食べても美味しくないですよぉ……。こんな魚の干物みたいに肉付きが悪い小娘を相手にしなくていいじゃないですかぁ。もっと美人で、スレンダーで、豊満なお胸をしている方が周りにはいるじゃないですかぁ……!」


 私は再び、左腕をぶんぶん振りますが、大上君は離してはくれません。


 せめて、私が護身術でも習っていたならば、ここで大上君を振り切って、逃げることが出来たでしょう。

 ですが、筋肉どころか脂肪さえも付いていない私には到底、無理な話です。


 すると、大上君は少しだけ、むっとしたような表情をしました。


「他の人は嫌だ! 俺は赤月さんがいいんだ!」


 それまでは余裕そうな表情を浮かべていた大上君でしたが、何故か急に黙り込んで、頬を赤く染めていきます。様子が先程とは違っておかしいです。


「だって、俺は……赤月千穂さんのことを今すぐにでも食べたいくらいに好きなんだから」


「……」


 大上君から出て来た言葉は、今までのどこか腹黒そうな言葉とは違って「素直」と呼べるようなものでした。

 そして今、確かに彼は言いました。


 「赤月千穂」、それは私のことです。

 彼は頬を赤らめながら、私のことが好きだとはっきりと言い切ったのです。


 そう、まるで年頃の少年が好きな相手に告白する時と同じように。

 

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