赤月さん、大上君とご飯を食べる。
大上君に連れて来られたハンバーガー店で、私達はそれぞれ注文します。
店員さんに作って頂いたハンバーガーが載ったプレートを両手で持ち、店内の二階に当たる飲食スペースへと移動して、二人席へと座ることにしました。
「……凄い、今、赤月さんとデートしているみたいだ。最高の時間……永遠に続け……」
「変なことは想像しないで下さい、大上君」
「赤月さんっ、お願い! このフライドポテトを一本だけ、俺に向けて『あーん』ってやってくれないかな!」
「やりませんっ! どうして、スマートフォンを準備するのですか! 動画なんて、撮らせませんよ! ほら、冷めないうちに食べますよっ!」
これ以上、大上君の妄言には付き合っていられません。私はふいっとわざとらしく視線を外します。
手を合わせて「いただきます」と一言告げてからハンバーガーを手に取って、ぱくりと一口食べました。サラダしか食べていなかったので、それなりにお腹は空いていたのです。
口いっぱいに広がる濃い味を噛み締めるように食べていると、何故か目の前に座っている大上君が嬉しそうな笑みを浮かべました。
また、変なことを考えているようですね。
「……何ですか」
「ううん。ただ、赤月さんと同じ時間が過ごせて、幸せだなって思っただけだよ」
「大げさですね……」
「大げさなんかじゃないよ。俺にとっては赤月さんと過ごす一秒は何よりも代え難いものだからね」
まるでどこかの恋愛小説に登場する台詞のようです。彼は少女漫画や少女小説を読んで、台詞の勉強でもしているのでしょうか。
せっかく、程よい味付けのハンバーガーなのに、大上君のせいで甘くなってしまいそうです。
大上君もお腹が空いていたのか、ハンバーガーをがぶりと大きな口を開けて食べ始めます。
確かに先程の飲み会の際には女性に囲まれてばかりで気が休まらなかったでしょう。顔が良い方は色々と心労が絶えませんね。
目の前で大上君がハンバーガーを食べ始めますが、見目がいいことからまるでドラマのワンシーンのように見えます。
私はある程度、免疫が付いたようですが、この顔を見ながら食事をするとなると何だか胸焼けしそうになりますね。
「赤月さん……」
「何ですか」
「このフライドポテトの端と端をお互いの口で……」
「そんな破廉恥なことはやりませんっ!!」
たとえ却下しても、彼の頭の中で妄想が繰り広げられているのでしょう。物好きな上に変態だなんて、手の施しようがありません。
「……でも、誰かと一緒に食べるのは賑やかでいいですね」
私がぽつりとそう呟けば、大上君はにこりと笑みを返します。
「俺も、実家に居る時は皆が揃ってから食事が始まるんだ。だから、一人でご飯を食べるのにまだ慣れていなくって」
「あ、私の実家も同じ感じです。……なので一人暮らしをしている今は、たまにことちゃんと白ちゃんを家に呼んでから、一緒に夕飯を食べたりしています」
ちょっぴり家が恋しい時があることは秘密にして、私がはにかみながらそう答えると大上君は、ふっと小さく笑いました。
「三人は本当に仲がいいんだね」
「はい。家が近所同士で小さい頃から見知っている、ということもありますがお互いに気が合うんです」
比較的にまったりな性格をしている私と、脳筋で進みまくることちゃん、そして冷静に判断しつつ導いてくれる白ちゃん。
お互いの性格はばらばらですが、何故かパズルを埋めるように気が合うのです。
「それに赤月さんは二人から凄く大切にされているみたいだし。うーん、まだ二人から赤月さんの友達公認の許可は貰えそうにないなぁ」
「……必要なんですか、許可」
「うん。だって、俺の未来の恋人の友人達だからね。ぜひ、仲良くしておきたいんだ。ほら、結婚式に呼ぶかもしれないだろう?」
「ちょっと待って下さい。今、意味の分からない言葉が羅列したように聞こえたのですが気のせいですよね? 気のせいだと仰って欲しいです」
「赤月さんにはふわっとしたドレスが似合うと思うけれど、うちの家系だと神前式になりそうなんだよねぇ。うーん、迷うなぁ……」
「待って! 勝手に話を進めないで下さいぃぃっ!」
大上君に声をかけても、どうやら脳内はお花畑状態らしいので、現実には戻って来てくれません。
彼の中でどんな想像が広がっているのか理解はしたくはありませんが、私は最早、彼を現実に引き戻すことは諦めて、食事を続行することにしました。