赤月さん、飲み会に参加する。
こんばんは、赤月千穂です。私は今、少々困った状況に陥っています。
只今、歴史学部に属している学生による、「新入生歓迎会」という名の飲み会がとある居酒屋で行われていまして、私もせっかくなので先輩方や他の同学年の人と交流出来る場に参加することにしてみました。
いまだに同じ学部には友人と呼べる人もいないので、この機会に仲良くなれる人が出来ればいいなと思っています。
あ、いま一瞬だけとある人が脳内に浮かんできましたが、新しい友人は別の人でお願いします。
もちろん、私は未成年なのでお酒を飲むようなことをするつもりはないですし、勧められたら丁寧に断ろうと思っています。
ですが、気を付けるべきはそれだけではなかったようです。
「へいへーい! 赤月ちゃん、飲んでる~? 食べてる~? 細いんだから、いっぱい食べないと駄目だよ~」
「えっと、あの、先輩……」
「はぁぁ~……。赤月ちゃんは小さくて可愛いなぁ。お持ち帰りして、妹にしたーいっ! ぐはははっ……」
「……」
そう言って、私に寄りかかってくるのは一つ上の学年の桜木七緒先輩です。
長い髪をお団子にしているお姉さんらしい先輩なのですが、どうやらお酒をたくさん飲んでいらっしゃるようです。
普段は凄く陽気で、優しい方なのですがお酒を飲んだら更に陽気になり、密接に絡んでくるようになりました。
絡まれるのは構わないのですが、豊かな胸を押し付けられるとどうすればいいのか分かりません。少しだけ、いえ、かなり羨ましい胸をお持ちなので。
「おい、七緒! お前、酒が飲める歳になったからって、調子に乗っているんじゃねぇよ! 赤月が困っているだろうが!」
おっと、助け船が入ってきました。
この方は桜木先輩の彼氏でもあり、幼馴染でもある倉吉悠一先輩です。
ちょっと身長が低めなことを気にしていらっしゃるようですが、もはやこれ以上の成長期は諦めたとこの前、仰っていました。
「うえーん、悠ちゃんの意地悪~! やーい、万年低身長~!」
「こ、のっ……」
倉吉先輩は額に青筋を浮かせつつも、私に抱き着いていた桜木先輩を引きはがすように抱き上げました。
「きゃーっ! 悠ちゃん、大胆ーっ! 私をどこに連れて行く気なのぉ! はっ! ベッドに連れて行く気なのねー! どこかの同人誌みたいにーっ!」
「うるせぇ、酔っぱらい! 水を飲め! そして、二度と酒を手にするな! 余計なことは喋るな!」
倉吉先輩は桜木先輩を引きずりつつも、私の方へと振り返ります。
「赤月、悪かったな。こいつ、素面でも場に酔う奴だからさ……。まさか、酒を飲んだらその面倒臭さが倍増するとは思っていなくって……」
「い、いえ……」
桜木先輩の酔い方には少々驚きましたが、特に実害はありませんでした。せいぜい、抱き着かれて、頭をたくさん撫でられたくらいです。
「それじゃあ、こいつは借りていくから」
「い~や~。私、まだ飲めるもーん。酔ってないもーん。にゃはははっ……!」
「はいはい、話は俺が聞いてやるから、後輩に迷惑かけるんじゃねぇよ」
桜木先輩が持っている空になったグラスを倉吉先輩は取り上げてから、座布団が積んである壁際まで運んで行きます。
よく見渡せば、何人か顔を赤らめて眠っている先輩もいるようです。そういえば、お手洗いにも駆け込んでいく人が数人程いましたね。
これがお酒の力なのですね、怖い……。
私も成人したら、お酒を飲んでみたいとは思っているのですが、その際には潰れない程にしておきたいと思います。
しかし、飲み会というものは凄いですね。ところどころで話している内容は全くの別物なのに凄い盛り上がりようです。
私はどちらかと言えば聞く方が得意なので、誰かが話していることに対して、こっそりと耳を傾けたりしています。
視線を何となく大上君に向けてみると案の定、女の子達に囲まれた姿が目に入ってきます。本当にモテモテですね、大上君。
綺麗な方や可愛い方に囲まれていますが、大上君本人のその表情はどこか困っているようにも見えます。
女性からすれば、その表情が更に構いたくなってしまうのでしょうか、私にはよく分かりませんけれど。
飲み物をグラスに注がれつつ、料理を口元へと運ばれつつ、本当に両手に花と言うべき状態の大上君です。
皆さん、顔で騙されてはいけませんよ、その方はただの変態です。
そう思いつつも、忠告する気なんて更々ないので、私は自分のお皿に盛っているサラダをぱくぱくと食べ始めます。
先輩達に遠慮して、先程からサラダしか食べていませんけれど、美味しいです。
健康的でいいですが、卵焼きや唐揚げも実は食べたかったりします。手は出しませんけれど。