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赤月さん、秘密にしたい。

 

 お昼休みの時間となり、ことちゃんと白ちゃんといつものように合流した私達は、昼食を摂りながら大学祭について話しました。

 同じ席には大上君だけでなく、共に昼食を誘った来栖さんと奥村君もいます。


「へぇ。古今東西怪談会か。面白そうなことをやるね」


「白ちゃんのところは何をやるの?」


「こっちの学科は模擬店が多いかな。ちなみに僕が参加するのは『大正風浪漫喫茶』。……言っておくけれど、僕の発案じゃないからね」


 どこか遠くを見るような瞳で、白ちゃんはお茶を飲みました。


「大正風……?」


「ふむ、浪漫喫茶……。興味あるな」


 奥村君と来栖さんは昼食を食べながらも、大正風浪漫喫茶とは、いかなるものなのかと考え始めました。確かにあまり聞かない単語ですね。


「衣装とか揃えるの?」


 大上君が訊ねると白ちゃんは燃え尽きたように、ふっと微かに笑いました。それは恐らく、同意の意味で、でしょう。


「それじゃあ、模擬店に遊びに行った時に、写真とかたくさん撮った方がいいかな?」


「……伊織、僕が嫌がると分かっていて言っているだろう」


「へへっ」


 呆れたように白ちゃんは溜息を吐きました。

 最初の出会いこそ、火花が散っていた二人ですが今はもうすっかり気安い関係に収まったようで、私は嬉しく思います。


「ことちゃんは? 大学祭、何か参加するの?」


 大盛カレーを食べていたことちゃんへ話しかけると、彼女はお皿から顔を上げました。


「ん、私か? 体育館と武道場がライブとか催し物用に貸し出されるから、そこのスタッフとして手伝いをする予定だぞ。あっ、オリジナルTシャツとか、作るらしい!」


 ことちゃんは楽しみだと言わんばかりに、ふふん、と鼻を鳴らします。

 そういえば、ことちゃんは昔からお祭りごとが大好きでしたね。きっと、初めての大学祭も心から楽しむつもりなのでしょう。


「ライブ……って何をするんでしょう?」


 私が首を傾げていると、隣で唐揚げ定食を食べていた大上君が教えてくれました。


「ああ、先輩達からこの前、聞いたんだけれど毎年、外部からアーティストの方を招いているんだって。あとは漫才師とか」


「それは楽しそうですね!」


 思っていたよりも、大学祭での催し物は賑やかそうです。

 きっと、催し物や模擬店がはっきりと決まったならばパンフレットなども作られるのでしょう。パンフレットを見るのが楽しみです。


「……ねぇ、赤月さん。良かったら……大学祭、一緒に見て回らない?」


「え?」


「もちろん、時間が合えば、だけれど」


 これはもしや、デートのお誘いでしょうか。顔を窺うようにしながら、大上君は私を見つめてきたので、胸がどきっと跳ねてしまいました。


「じ、時間が合えば、いいですよ……」


 少し声が小さくなってしまいましたが、何とか返事を返せば、大上君はぱぁっと笑顔になっていきます。本当に感情が分かりやすい方です。


「ありがとうっ! 楽しみにしておくね! 後で桜木先輩に、俺と赤月さんの休憩時間が被るようにスケジュールの調整をお願いしておくよ!」


「ど、どうか、桜木先輩に無茶なことを言わないようにしてくださいね……」


 ですが、恋のお話が大好きな桜木先輩のことです。大上君がお願いすれば、嬉々として受け入れそうですね……。


「ああっ、楽しみだなぁ~……。へへっ、大学祭デート……ふへへっ……。赤月さんと何をしようかなぁ~」


 大上君は何かを想像しているのか、にんまりと笑っています。


「はい、そこー。真っ昼間から、いちゃいちゃしなーい」


 目を細めた白ちゃんから、抑揚のない声が降ってきました。


「私はいちゃいちゃした覚え、全くないんですけど!?」


「やったね、赤月さん! 俺達、傍から見たら、いちゃいちゃしているように見えるんだって! これはもう、周囲公認らぶらぶカップルだね!」


「大上君は黙っていてくれます??」


 はしゃぐ大上君をぴしゃり、と注意しました。過去の経験から、大上君をあまり調子に乗らせてはいけないと分かっているからです。


「しかし、本当に仲が良くなったな、君達は」


 どこか感慨深げに来栖さんは言いました。


「確かに。夏休みに入る前よりも、距離が近くなった気がするな」


 来栖さんに同意するように、奥村君も頷いています。周囲から見ると、私と大上君の仲良し度が上がったように見えるのでしょうか。


「そ、そう、ですか、ねぇ……?」


「うむ。以前よりも気安い関係に見えるぞ。……もしや、夏休み中に何かあったのか?」


 じぃっと来栖さんが私を見つめてきました。


 夏休み中、大上君との間にどのようなことがあったのか、私は誰にも言っていません。

 気恥ずかしさがあるのはもちろんですが、誰にも告げず、秘密にしておきたいのです。


 なので、来栖さんに何と答えようかと迷っていると、隣に座っている大上君に腰をぐいっと引かれました。


「駄目だよ、来栖さん。俺と赤月さんだけの秘密だから」


 どこか自慢げに大上君は来栖さんに私達の仲の良さを見せつけています。ですが、当事者としては、この状況は穴に入りたいくらいに恥ずかしいです。


 ほら、幼馴染の二人が「まぁた、いちゃついてるよ……。やれやれ……」みたいな、白けた目で見ているじゃないですか。

 一方で唯一、同情した視線を送ってくれたのは奥村君だけでした。


 大上君が見せつけたことで、来栖さんは面白いものを見るように目を細め、それから穏やかな表情を浮かべました。


「そうか。それは残念だ。……私もこう見えて、人の色恋には興味があってね。後学のために、君達がどのように関係を深めたのか聞いてみたかったのだよ」


 口元をほんのわずかに緩めながら、来栖さんは柔らかな視線を私達へと向けてきます。

 それ以上、追究してくることはなかったので、本当に興味本位で聞いてみただけだったのでしょう。


「……大上君」


「何かな、赤月さん」


「いつまで、腰に手を当てているんですかっ」


「心身ともに赤月さんを支え続けたいと思って、行動で示しているだけだよ」


「ご飯を食べているのに、お行儀が悪いですよ!」


 今だけに限らず、大上君は何かにつけて、私に触れてこようとするのです。

 そんなに触って、楽しいのでしょうか。私はちょっぴり嬉しさと恥ずかしさが半々と言ったところなので、出来るならば人前では避けて欲しいです。


 私はぺしっと大上君の手を叩き落としました。


「うっ、痛い……。でも、これは赤月さんから与えられた愛の痛み……!」


 そんなことを言う大上君を周囲の友人達は「もう、こいつ駄目だな……」みたいな目で見ていたので、私はとてもいたたまれない気持ちになりました。


   

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