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赤月さん、図書館でバイトする。

 

 入学した当初、私はアルバイトを探していました。

 実家からある程度は支援してもらっているのですが、学費を出してもらっている以上、自分の生活費くらいは自分で賄いたいと思ったからです。


 すると、幸運なことに大学の図書館でアルバイトを募集していたので、すぐに履歴書を持って臨んだところ、嬉しいことに雇ってもらえたのです。


 講義が終わったあと、すぐにお仕事出来ますし、給料はそれなりに良いですし、上司である司書さん達もとても優しくお仕事を教えてくれるのでありがたい環境です。


 何より、私は図書館独特の空気と本が好きなので、ここはまさに最高の職場とも呼べます。


 仕事内容としては、返却された本を本棚に配架したり、本の貸し出しや返却作業を行ったり、本を保護するためのブックフィルムを貼ったりと、様々です。


 司書さんのお手伝いで他にも色んな仕事をします。細かい作業は得意な方なので、ここでの仕事はまさに天職です。


「えっと、心理学の本だから、これは哲学の本棚で……」


 私は一冊の本を手に取りつつ、首が痛くなりそうな程に高い本棚を見上げます。


 図書館の本は日本十進分類法という方法で細かく分類されています。本の背には「請求番号」と呼ばれる数字によって、内容や本の住所を示しているのです。


 その請求番号を見ながら、返却された本を本棚へと配架する作業をしているのですが、まるで抜けたパズルを埋めていくようで、とても楽しいのです。


 しかし、本棚の一番上の本は図書館の至るところに配置してある踏み台を使っても、ぎりぎり手が届く高さなのでかなりの強敵です。


「ふむむむ……」


 こういう時、自身の身長の低さが恨めしくなります。まだまだ成長期と言い続けて、数年経ちましたが全く伸びておりません。

 一応、背が高くなるための方法を実践してきましたが、効果はありませんでした。


「くぅ……」


 持っていた本を何とか本棚の本と本の隙間に差し込むように入れることが出来ました。


 ですが、踏み台の上で背伸びをしていたことで、バランスを崩してしまい、私の右足は踏み台を踏み外してしまいます。


「ひゃ……」


 図書館の床は分厚いカーペットが敷いてあるので、きっと転んでしまってもそれほど痛くはないでしょう。

 本棚の方に身体の向きが動かなかっただけでもましです。


 それでも衝撃が来るのが怖い私は斜めになっていく身体を起こす(すべ)がないまま、倒れて行きます。

 ──と思った時でした。


「おっと、危ない」


 聞き慣れた声が耳元で聞こえたと同時に、私の身体は柔らかいもので包み込まれていきます。鈍い衝撃は全く伝わってはきません。

 それどころか床の上には倒れておらず、足も床にちゃんと付いたままです。


 おや、と思って目を開けてみれば、私の視界には灰色のジャケットが広がっていました。どうやら、抱き留めてもらったことで、私の身体は無事だったようです。


「っ!」


 これは誰かの衣服……というよりも、先程見かけた衣服ですね。

 目の前に広がるジャケットが誰の服なのか、気付いた私はすぐに自分の足に力を入れてから、数歩飛び下がり、私の身体を支えてくれた人物から距離を取ります。


 顔を見上げた先には予想通り、大上君が居ました。怖い。


「危なかったね、赤月さん。怪我はしていない?」


 爽やかな笑顔で首を少しだけ傾げる大上君ですが、私の警戒心は最大値です。


 というか先程、自然を装って、私に触れてきましたよね? 確かに彼のおかげで助かったと言えば、助かったのかもしれませんが、正直なところ微妙な気持ちです。


「して、いません……けれど」


 本を読んでいたり、勉強をしている学生はここから距離がある席に座っていますが、周囲の迷惑にならないように小声で話しかけることにしました。


「でも、どうして、ここに大上君が居るんですか」


 私が図書館でアルバイトをしているのは、幼馴染二人と図書館の司書さん達しか知らないはずです。


「図書館に来る理由なんて、一つだよ」


 それはそうですよね、だって図書館ですから。

 もちろん、本を読みに来たんですよね。


「赤月さんがバイトをする姿をこっそりと見に来たに決まっているじゃないか」


「……」


 私は叫ぶのを我慢しました。

 ここは図書館です。静かにするべき場所です。


 それよりもどうして私が図書館でアルバイトをしているって知っているんですか。彼の情報網が、幼馴染の白ちゃんと互角のような気がして恐ろしいです。

 

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