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赤月さん、大上君と交換する。

 

 写真を撮ったことで満足した大上君はふっと、突然こちらに視線を向けてきました。


「そういえば、赤月さんとはまだ連絡先を交換していなかったね」


「……大上君のことなので、勝手に私の連絡先を知っているかと思っていました」


「しないよ、そんな犯罪みたいなこと! ちゃんと相手に許可を取ってからでないと、失礼だろう?」


 わぁ、大上君から「失礼」という言葉が出てくるなんて、想像していませんでした。

 そのまま、あなたに返したいですね、その言葉。


「教えたら、特に用事もないのにメールや電話をしてきそうだから嫌です」


「大丈夫っ。本当に用事がある時にしか、連絡はしないし、赤月さんの活動時間は把握しているつもりだから、寝ている時には絶対に連絡しないし」


「それはそれで怖いですよ!? というか、時間を把握されているのは正直、気持ち悪いです! 何者なんですか、大上君!」


 大上君に対して、何度も気持ち悪いと告げている気がするのですが、彼はにこにこと楽しそうに笑っているだけです。

 この人、本当に色んな意味で大丈夫なのでしょうか。


「ねえ、駄目かな? 迷惑にならないようにするから」


「うぐ……」


「お願い、赤月さんっ!」


 大上君は両手を合わせながら、うるうるの瞳を私へと向けてきます。

 しかし、これ以上、大上君と会話を続けることで周囲から視線を送られるのも、また面倒なことになりますし……。


「し、仕方ないですね……。でも、メールは一日に5通までにして下さい。送ってくる内容も私が困らないものにして欲しいです。電話は絶対的な用事がない限り、かけて来ないで下さい。それが約束出来るならば、連絡先を交換しましょう」


「やった! ありがとう、赤月さん!」


 やはり、何かしら制限を設けた方が大上君を制御出来そうですね。大上君には悪いですが、私も自己防衛をしなくてはいけないので、この手の方法を取らせて頂きましょう。


 鞄から、朱色のカバーで覆っているスマートフォンを取り出して、さっそく大上君と連絡先を交換することにしました。


「えっへへ……」


「……」


 この際、気持ち悪い声で笑っている大上君は無視をしましょう。


「はい、交換完了ですよ」


 連絡先を交換し終えてから、しっかりと大上君の名前が電話帳に入っているか確認してみます。どうやら、ちゃんと交換出来ているようですね。


 ふと、顔を上げてみると緩み切った表情の大上君がいました。


「電話帳の一番上に赤月さんの名前……。えへへ……」


 この人の幸福感度は割と低いようですね。まあ、約束さえ守っていただけるのであれば、一日に数度のメールのやり取りくらいは許すとしましょう。


 私は大上君に渡していたメモを今のうちに回収してから、筆箱の中へと片付けます。


「あっ。赤月さん、確かこの後に講義は入っていないよね? 時間はある?」


「いえ、この後は……」


 この後は大学の図書館で司書さんのお手伝いのアルバイトがありますと答えようとした時でした。


「──大上君」


 声色が華やかな女性によって呼びかけられたため、大上君はそちらへと振り返ります。


「何かな」


 この人、先程までは溶けそうな程ににやけた表情をしていましたが、名前を呼ばれた瞬間、営業用スマイルのような表情に戻りましたね。

 表情筋が柔らかいのは、ある意味便利かもしれません。


「ねぇ、大上君。この後に講義、入ってる?」


「学内のカフェ、行かない? 春の新作パフェが出たって学部の先輩に聞いたの~」


 きゃぴきゃぴという擬音が似合うほどに、楽しげな会話が聞こえてきました。どうやら数人の女の子達が大上君をお茶に誘っているようですね。

 教室の壁にかかっている時計を見上げれば、お茶をするにはちょうど良い時間でした。


「一緒に行こうよ、大上君~」


「暇なら、遊んでよー」


 大上君のことしか見えていないようなので、今のうちに私はこの場を去るとしましょう。影を薄めるのは割と得意なのです。


 大上君が後ろから声をかけてきた女の子達に対応している間、私は素早く筆箱やルーズリーフを鞄の中へと片付けてから、すっと立ち上がります。


 私がその場を去るつもりだと大上君も気付いたようですが、声をかけられる前に早足で立ち去ることにしました。


 後ろからは女の子達に話しかけられて、返事をどう返そうかと迷っている大上君の声が聞こえていましたが、もちろん無視です。


 それにしても、やはり大上君は色んな方にモテるのですね。確かにあの爽やかな雰囲気と二枚目とも言える顔は女性からすれば、ついうっとりと眺めてしまう色香を持っている気がします。

 私はそんな罠には引っかかりませんけれどね!


 やっと大上君から逃れることが出来たので、先程、大上君に話しかけてくれていた女の子達には感謝です。


 さらば、大上君。

 講義が終わった今日はもうきっと会わないと思うので、また明日。


 私は心の中で、「ふふ……」と笑いながら、身軽になったような気分で教室から出て行きました。

 

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