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赤月さん、大上君に把握される。

 

「くそっ……。時間ならば仕方ない……。だが、私は! お前と千穂が友達だなんて、絶対に認めないからなぁ! この優男風情のなんちゃって二枚目め!」


 今のことちゃんの暴言らしきものは罵倒に入る言葉なのでしょうか。


 とりあえず、何を言いたいのかは何となく分かります。きっと、胡散臭いとかそういうことを言いたかったんですよね。


「千穂、今日の夕方は僕達と帰ろうね。あとで待ち合わせ場所を指定したメールを送るから、そいつは連れて来ないように。それじゃあ、お先に失礼するよ」


 白ちゃんは二人分の空の器をトレイに載せてから、ぎゃんぎゃんと文句を言っていることちゃんを連れて、その場から去っていきます。


 なんとか、ひと悶着は避けられたようで、私は思わず安堵の溜息を吐いてしまいました。


「ふふっ。随分と警戒されていたなぁ。さすが、赤月さんの幼馴染と言ったところかな」


「……もしかして、二人がどういう人間なのかを知っていて、わざとここに座りましたね?」


 私が小さく大上君を睨むと、彼は肩を竦めながら苦笑を返してきます。


「だって、これから赤月さんと接するならば、彼らとも顔を合わせる機会は増えるだろうからね。挨拶をしておこうと思って」


「もう少し、穏やかな挨拶があってもいいと思いますが」


 どちらかと言えば、宣戦布告のようにも見えたくらいです。


「でも、今の二人から、赤月さんはとても大切にされているんだね」


「……小さい頃から一緒にいるので、親友と言うよりも姉弟に近いのかもしれません」


「俺から見れば、二人は赤月さんの保護者みたいに見えたよ。大事で可愛い娘を他人に取られたくはない、みたいな」


 くすくすと楽しそうに大上君は笑っています。


 ですが、私の後にお昼ご飯を食べ始めたというのに、器の中身はもう残り少なくなっています。皆、食べるのが早いですね。

 私も少しだけ食べるスピードを上げなければ、次の講義の時間に間に合わなくなってしまいます。


「──ごちそうさま。……赤月さん、この後の講義って確か同じ東洋史だったよね? 一緒に行こうよ」


 私は口の中に含んでいたものをごくりと飲み込んでから、目を細めつつ大上君を見上げます。


「……もしかして、私が受けている講義の時間割……全部、把握したりしています?」


 本当は訊ねるのが怖いですが、私は恐る恐る聞いてみることにしました。


「……えへっ」


 大上君はお茶目な感じにウィンクを返してきましたが、それは私の質問を肯定しているという紛れもない証拠でした。


「怖いーっ! 怖すぎますよ! どうして知っているんですか! 私、ことちゃん達にしか伝えていないのにっ!」


 一気に鳥肌が立ってきました。この人のやっていること、犯罪一歩手前どころか、両足突っ込んでいませんか。


「ほら、好きな子のことを深く知りたいって思うのは……」


「それは昨日、聞きましたっ! ……うぅ、私の平穏キャンパスライフが……」


「あ、大丈夫だよ? 講義中は邪魔をしないようにするから」


「……そう言って、講義を聞かずに私の方ばかり見る気でいるんでしょう」


「えっ、どうして分かったの? 赤月さんとついに心の中での意思疎通が出来るなんて、感激だよ!」


「もう、嫌だ、この人ぉー!」


 何を言っても上手いこと解釈されてしまうのは分かっているのですが、大上君の拡大解釈の幅の広さは無限だということを改めて理解しました。


 きっと、この後の講義には私の隣の席で出席する気、満々なのでしょう。せめて、私の気が散らないようなことはしないで欲しいとお願いするしかありません。


 ああ、何だか疲れましたね。甘い物が食べたいです。


「あっ。赤月さん、甘い物とか食べたくない? 俺、買ってこようか? 食堂のチーズケーキ、美味しいって評判なんだよ」


「……」


 この人、私の心の中でも読んでいるのでしょうか。もしくは、表情から読み取っているのでしょうか。

 どちらにしても怖いです。どういう能力をお持ちなのですか。


 隣を見れば、にこにこと楽しそうに笑う大上君がいるだけです。そんな子犬のような笑顔を見れば、何かを言う気力もすっかり削げてしまいます。


 私は今日、何度目か分からない溜息を吐くしかありませんでした。

 

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