幼馴染達、大上君を警戒する。
このままでは、埒が明きませんね。仕方ありませんが、私が口出しするとしましょう。
「確かに大上君はかなり積極的で、自己解釈の幅が広い人ですが、多分……きっと、いえ、恐らく……悪い人ではないので」
「随分と言い淀んでいるね、赤月さん!? 俺、君に悪いことなんてしていないのに!」
「どの口が言っているんですかっ! ……えーっと、それでお互いに和解と言いますが、約束をしまして、まずはお友達として接することにしたんです。さすがに会ったばかりで恋慕の感情なんて抱けませんので。……それに彼を避けていたのは私が、ただ人見知りが激しかったという理由もありますし……」
出来るだけ言葉を選んでいるつもりですが、あまり大上君に良い印象がないため、つい昨日起きた本当のことを言ってしまいそうになります。
「……ふーん?」
あ、白ちゃんの方は私の話を信じていませんね。
私は嘘を吐くのが苦手なので、出来るだけ本当のことを入り混ぜつつ話したつもりでしたが、どうやら白ちゃんは何かに気付いているようです。
「まあ、千穂に危害を加えないというなら、いいんじゃないか?」
「おい、真白っ」
ことちゃんが眉を中央に寄せながら、握っていた割り箸を右手で再び折りました。もはや、ただの木片と化しています。
「せっかく大学に入ったんだ。交友関係を広げることは大事だと思うよ? それは千穂だけでなく僕達の成長に繋がると思わないか?」
「うぐっ……。それは、そうかもしれないが……」
ことちゃんがたじろいでいます。
実は、ことちゃんと白ちゃんはお付き合いをしている恋人同士なので、諭されるように言われると強く出られないのです。
意外と押しに弱い部分も、ことちゃんの可愛いところなのですが。
「でも、まぁ……。僕達の大事な大事な千穂を傷付けるようなことをすれば……社会的に抹殺するけれどね? そこのところは、覚悟しておいてね、大上君」
どうしてでしょう。にこりと笑っているのに、全く目が笑っていません。
さすが、冷笑の王子と女の子達から呼ばれていただけの貫禄がありますね。怖いです。
それよりも、社会的に抹殺するって、一体どういう意味なのでしょうか。きっと訊ねても、「千穂は知らなくてもいいんだよ」と笑って返されそうですね。
「……千穂!」
「ふぁいっ!?」
ことちゃんに名前を呼ばれた私はハンバーグを食べていた手を止めてから、必死に飲み込んで返事を返します。
「いいか、千穂! 大上に変なことをされそうになったら、すぐに私達を呼ぶんだぞ! 駆けつけて、ぼこぼこにして、このイケメンな顔を二度と拝めないようにしてやるからな!」
「い、いや、そこまでやらなくても……」
親友が傷害罪で捕まるところなんて見たくはないですし、大上君が血まみれになるのも絶対に嫌です。血とか怪我とか、見るのも苦手なので。
「わぁい、赤月さんが俺を庇ってくれているなんて、嬉しい……! 優しいね、赤月さんっ!」
「うるせぇぞ、大上ぃっ!」
やはり、ことちゃんと大上君の相性は悪いようですね。
というよりも、大上君は私しか見ていないようですね。私を見ながらかつ丼を食べるのをやめて欲しいです。何だか妙な気分になるので。
「まあ、まあ……。ほら、ことちゃん。確か次の講義は実習だって言っていたでしょう? そろそろ準備しに行かないと。白ちゃんも教授に呼ばれているって言っていたし、早く行かないとお昼休みの時間が終わっちゃうよ?」
私はキャッツファイトを抑えるために、強制的にですがこの三人を引き離すことにしました。
恐らく、まだ二人は大上君のことを警戒しているでしょうが、私も彼と約束をしているので、そう簡単には手を出しては来ないと思います。
しかも、ここは昼間の大学内ですからね。
昨日の夕方は人が少なかったので、大上君としては好条件だったのでしょう。次からは夕方に、一人歩きをしないように気を付けたいと思います。