赤月さん、断られる。
女の子達の対応をしている大上君には悪いですが、私は米沢さんと話をしたいと思います。あまり顔を合わせる機会はないので、会えた時に話を通しておいた方がいいでしょう。
本当は少しだけ怖いのですが、勇気を出して声をかけてみることにしました。
「あのっ、米沢さん」
「……」
米沢さんには声が確かに届いているはずなのに、無視をしたままです。ですが、声をかけたのに言葉の続きを話さないわけにはいきませんので、私はそのまま言葉を続けました。
「明日の三限目、空いていますか? 班分けされた古文書学での発表準備を来栖さん達と一緒に、図書館で行うつもりなのですが、良かったら……」
「行くわけがないでしょ」
言葉の途中で、米沢さんは私だけに聞こえる声量でぴしゃりと言い放ちました。
うぅっ、冷めた瞳がこちらへと降り注がれていますが、あまり睨まれると縮んでしまいそうです。
ですが、めげるわけにはいきません。私は一度、鍔を飲み込んでから、気合を入れ直します。
「え、えっと……。それなら、明後日の……」
「だから、行かないって。どうして私があんたと一緒に、協力しながら班作業をしなきゃいけないのよ。時間の無駄だわ」
来栖さんは私の言葉を途中で遮り、吐き捨てるように呟きました。かなり機嫌が悪いようです。いえ、機嫌を悪くさせてしまったのは私のせいなのでしょう。
「で、でも……発表の準備をしないと、評価や単位に関わりますし……」
「それなら、あんたが私の代わりに発表準備をやっておいてよ。この前のオープンキャンパスで教授達に褒められていたし、発表はさぞ得意なんでしょう?」
「……」
まさか、本人から丸投げされるとは思っていなかったので、私は思わず絶句してしまいました。
いえ、別に米沢さんの分を担当することが嫌というわけではありません。一応、やっておこうとは思っていたので。
ですが、本人から直接やっておくようにと言われるなんて思っていなかったので、つい驚いてしまいました。
すると、米沢さんはどこか、してやったりと少々意地悪な表情を浮かべます。
「あの講義の私への評価はあんたに懸かっているんだから、手抜きしたら許さないわよ」
「……」
「それじゃあ、宜しくね──優等生さん」
嫌味ったらしくそう告げると、米沢さんはすぐに私に興味がなくなったと言わんばかりに顔を背けてから、他の女の子達へと声をかけます。
「ねぇ、そろそろチャイムが鳴っちゃうし、行かない?」
「あっ、そういえば……」
「えー? もう、そんな時間?」
「それじゃあ、またね、大上君」
女の子達は大上君の方に手を振ってから、その場を去って行きます。米沢さんもそのまま背を向けて、歩いて行ってしまいました。
「はぁ……。やっと解放された……。……それよりも赤月さん」
女の子達の相手をしていた大上君はどこか疲れ切った様子でしたが、すぐに私の方へと振り返りました。
「赤月さん、米沢さんと何を話していたの?」
こてん、と首を傾げつつ訊ねてきますが、本当ことを言えるわけがありません。
私は出来るだけ、覚られないようにと表情を作りながら答えました。
「いえ、発表準備についての相談です」
「……そう?」
「ほら、大上君。早く教室に行かないと遅れてしまいますよ」
「え? ……うん、そうだね。行こうか」
大上君からは、あまり訝しがるような様子は見受けられなかったので、私はこっそりと安堵の溜息を吐きました。
この件を大上君だけでなく、同じ班である来栖さんと奥村君にも伝えるか迷うところです。
でも、米沢さんの分の発表準備をしっかりとしておかないと彼女の単位にも影響が出てしまいますし、そうなってしまえば責められるのは私でしょう。
気が重すぎて、深い溜息を吐きそうになりましたが、何とか抑えるしかありませんでした。
いつも読んで下さり、ありがとうございます!
おかげさまで「大赤」、100話に到達しました!
これからもどうぞ宜しくお願い致します。