前奏30
ぱちぱちぱち。
薪のはぜる音とはなをくゆる嗅ぎ慣れた薬草の香り。
閉じた瞼を開こうにも、少し力が必要なくらい眠りへの魅力に抗えない。
それでも、無理してひらくと見慣れた背中がぼんやりと視界に写り込む。
「・・・おば、ば、なの?」
背中をむけたまま、声だけで応える。
「バカ娘、お帰り」
やっと帰ってきた安堵感からか、
薬草が目にしみたのか、
涙が一筋こぼれ落ちた。
「あたい、どうやってここに?」
「へたれ長にむかえにいかせた」
「おとしゃまが?なんで知ってたの?」
ふん、と鼻で笑いおばばは答えた。
「あたしの情報網に不可能はないのさ」
そうだった。おばばには何の隠し事も出来ない。まるで、過去も未来もわかるかのように。
小さい頃は、絶対“精霊の御使い”だと想っていた。
昔は普通に存在した精霊の力をかり人々のため奇跡を起こした希有な存在。
「ばかばかしい。冗談はお伽話の中だけにおし!」
そう言いながらも、おばばにはたくさん教えてもらい、たくさん愛をもらった。
おとしゃまのつぎに、大切な存在。
ぐううううきゅるきゅるきゅる。
「腹へったああ~」
「まったく、その物言いはだれのせいやら・・・
待ってな、今何か食いもん持ってくるから」
ーおばばさまみたいにかっこよくなりたくて、
物言いをまねしていたのが、いちのまにか普通になったなんて
ずっとナイショだね
そうして、去っていく背中を最後まで見送ることなく深い眠りへと落ちていく。
その日から、ルルカは目覚めることはなかった。




