前奏1
「あいたたっ」
先程まで華麗に舞っていた舞姫が、突然舞を中断しうずくまる。
「どうしたの?」
「大丈夫?」
「動かしちゃだめよ!」
「薬草師を呼んでくるわ!」
共に舞っていた先輩巫女たちが心配して駆け寄ってきた。
そのうちのひとりが薬草殿の方角へ駈けだしてゆく。
「ごめんなさい、お姉さま方。
タイミングがずれて着地に失敗してしまいましたの…」
うずくまる舞姫は腫れ上がり始めた足首を見つめ、申し訳なさそうな声で謝罪の言葉を口にする。
そのうち痛みにこらえきれなくなったのか、大粒の滴がぽたりぽたりと衣服をぬらし始めた。
「あらあら、まだ治っていないのねえ…涙病は」
「薬草師がくるまでもう少しの辛抱ですからね」
「いたいのいたいのとんでいけー!!」
まわりを取り囲む先輩巫女達の視線は慈愛にみちており、心から心配しているようだ。
「ミレナお姉さまったら、わたくし、もうこどもではありませんわ」
涙目ではあるものの、笑顔ではにかむように微笑む顔は見つめるものを虜にしてやまない極上のもの。
この月神殿に置き去りにされていた自分を慈しんで育ててくれた姉巫女達に子供扱いされるのは日常茶飯事とはいえ、もうそろそろ一人前扱いしてほしいと願う今日この頃である。
「薬草師をつれてきたわ!」
思考を中断され、声のした方を振り返ると思いもよらない女性の姿までが。
「巫女長様!」
駆けつけた薬草師とともにやってきたそのひとは、自分の名付け親でもある。
「リリア、具合はどうですか?」
そう優しく語りかけてくれたこのひとこそ、月神祭の舞手として史上最高と言われた本人なのであった。