前奏15
案内されたのは、巫女長様の執務室だった。
執務室といっても小さい神殿のため、客間もかねておりこじんまりとした部屋だった。
そこに少し広めの机がおかれ、イスが6きゃくほどの規模だ。
イスの一つを引き、リリアを座らせるように促された。
そっとおろすと、隣に座るように進められた。
「しばらく他の人は席をはずして下さい。
そして、食事の準備とお客様の泊まる部屋の準備を」
「「はい。巫女長様」」
レキシアとミスカが下がると、巫女長様はほーっとひと息ついた。
「遠い所まで足をお運びいただき、ありがとうございます。
私はこの神殿の長でエレツィアと申します。
あの二人がご迷惑をおかけしませんでしたでしょうか?」
「迷惑というより、面倒かな?常識ぐらい教えておきなよ」
「ふふっ、そうですわね。
神殿の巫女は世間の常識に疎いものですから。
リリア、もちろんあなたもですよ。
怪我をして無理しないようにといわれたばかりでしょう?」
「申し訳ございません」
しゅうんとうなだれるリリアに、ルルカの表情も緩む。
「あんた、怒られてばっかしだね。
まあ、あたいもさっき怒鳴っちまってすまなかったね。
だけど、もう少し飯食わなきゃ健康にならないよ。
好き嫌いでもあるんだろう?」
「・・・・・・・・・」
どうやら図星をさされたようで、何も答えられなかった。
(とてもたくましくお育ちになったのね。
兄様も、ご苦労なさったのかしら?
ただ、言葉遣いはいたいわね)
心の中でため息をつき、本題にはいることにした。
「ルルカさん、リリアに代わり“月刀の舞”を舞っていただけませんか?」
「いいよ」
「えっ!!」
あまりの即答に一瞬場が止まる。
「その代わり、条件があるけど」
「条件?」
グウウグルルギュウウン。
とても大きな腹の虫が鳴った。
「腹いっぱい食わしておくれ!!」
とても残念な乙女の言動に、兄への罵詈雑言を心の中でさんざん唱えながら
顔をひきつらせる巫女長さまなのだった。
「ぶふぁっくしょい!!」
「おや、長、風邪でもひんたんですかい?」
「ちがわい!!きれいどころが俺の噂でもしてるんだろう」
身元を引き受けにきてくれた仲間にそう返しながら、
帰ったらお説教すると心に決めた。
しかし、それはかなわなかった。
なぜならその日を境にルルカが忽然と姿を消したのである。




