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My dear  作者: 塩ウサギ
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安全地帯

今回はだいぶ暗めの話です。なので次に書くとしたらその反動でバカみたいに明るい話になると思います。

僕には三人のきょうだいがいる。皆の中で一番年上のみゆき姉ちゃん、二番目に年上のひとし(にい)に、僕の一つ下のサエ。僕は三番目だ。特に誰と仲が良いとかは全く無い。みんな大事なきょうだいだ。血が繋がっていないことを除けば、僕らは普通のきょうだいだった。

僕らにも血の繋がった家族はいる。ただ、みゆき姉ちゃんの本当のお父さんは僕も生まれていない時に離婚して、ひとし兄の本当のお兄ちゃんはひとし兄を苛めていて、サエの本当の家族はみんなサエのことを邪魔者扱いしている。僕の本当のお母さんも物心ついた時にはいなくなっていて、今は叔母さんが保護者代わりなのだが彼女は仕事第一でここ数年はほとんど顔も合わせていない。周りの人はそんな僕らを可哀想だと口々に言ったが、そんなものは余計なお世話だった。血の繋がりよりもよっぽど深い絆が僕ら四人を繋いでいたから。

幽霊が出る、なんて近所の子供達から噂されている、前までは工場だった廃墟が僕らの秘密基地だった。僕が初めて三人に会ったのもそこだ。テストで100点を取ったのに叔母さんは全く見てもくれなくて、それに腹が立って家出した日にたまたまそこを訪れてみんなと知り合ったのだ。

「ユウスケっていうのか。俺はひとし。あっちにいる大きいのがみゆきで、こっちでクッキー食べてるのがサエ。よろしくな」

その時のひとし兄はとても嬉しそうだった。後から聞いたが、ひとし兄はずっと弟が欲しかったらしい。俺に弟が出来ても絶対アニキと同じことはしない、と傷だらけの身体で自分に言い聞かせるようにずっと言っていたのを覚えている。

「へえ、ユウスケ君かぁ。これからよろしく!」

「ユウスケ兄ちゃん、よろしくね!」

みゆき姉ちゃんとサエもひとし兄に続いて僕に挨拶した。当時の僕は小学四年生なのでそれぞれみゆき姉ちゃんが小六、ひとし兄が小五、サエが小三だったはずなのだが、みんな小柄なせいで僕と同い年かそれより年下に見えた。

「……よ、よろしく」

みんなは大事なきょうだいであると同時に、僕の初めての友達だった。人との接し方が分からない僕を、みんなは受け入れてくれた。もし叶うのなら僕はずっとみんなといたかった。僕にとってのみんなは叔母さんよりもずっと家族に近い存在で、そしてそれはみゆき姉ちゃんやひとし兄やサエも同じだった。

「サエが中学を卒業したら、家を出てみんなで暮らそう」

僕らが大きくなり、誰からともなくそんな話が出てきた。そして誰もそれに反対しなかった。みんなと一緒にいたいから、という理由だけではない。僕らはみんな本当の家族と仲が良くないが、サエのところの家族仲は他の三人の誰よりも険悪だったからだ。正確にはサエ以外の家族は仲が良いのだが、みんなサエにだけは冷たいらしい。彼女曰く、「私だけお母さんが違うから」だそうだ。浮気相手と自分の夫の間に出来た娘を、サエの母親や他の兄姉は快く思わなかったのだという。

僕らは一刻も早くサエを救いたかった。大切なきょうだいが辛い思いをするのは嫌だ。その気持ちだけが、高校生の僕らの原動力だった。みゆき姉ちゃんはコンビニ、ひとし兄と僕は工事現場でのバイトを始めた。みゆき姉ちゃんと僕に至ってはバイト禁止という校則を破っていたが、四人みんなで幸せに暮らせるのならそんなことは大した問題じゃなかった。どんな重労働だって、明るい未来を思えば耐えられた。

それなのに、神様はその未来すらも奪った。


「……ただいま」

立入禁止、と書かれたテープをくぐり、あともう少しで取り壊されてしまう僕らの秘密基地だった場所に足を踏み入れる。前まではみんなが「おかえり」と返してくれたのに、完全なる廃墟と化したその場所には僕の声しか響かなかった。

一年前、サエの中学校の卒業式前日のことだった。みんなは事故で死んだ。僕だけを残して、居眠り運転の車に轢かれて死んだのだ。その日は僕の誕生日で、みんなは僕に内緒でケーキを買いに行っていたらしい。慌てて事故現場に駆けつけると、みんなの遺体の近くには潰れたケーキの箱があった。

みんなが搬送された病院まで自転車をとばして行ったが、そこで僕を待っていたのはみんなの顔ではなく辛い現実だった。

「えっと……キミ、あの子達の家族?」

「えっと、家族じゃなくて……でも、みんな大事な友達なんです。会わせてくれませんか」

看護師さんは、申し訳なさそうな顔で僕に言った。

「ごめんね。君の友達は今意識不明の重体で、家族以外の人を入れられない状態なの」

僕は気を失いそうになった。みんなが意識不明の重体ということにではない。

──どうして僕がみんなの最期に立ち会えないんだ。ただ血が繋がっていない、それだけで。

「そこの待ち合い室なら大丈夫だから。待っててあげて」

看護師さんにそう言われ、僕は渋々待ち合い室に行った。みゆき姉ちゃんやひとし兄やサエの家族らしき人は見当たらなかった。朝起きてすぐあの看護師さんから伝えられたのは、みんなの訃報だった。

あれから一年間、僕はずっと考えている。どうしてみんなは独りぼっちで死なないといけなかったのか。どうして僕には与えられなかったみんなとの最期の時間を過ごす権利を、ただ血が繋がっているだけでみんなの家族は当たり前に享受しているのだろうか。家族って一体何なのだろうか。

全部まだ分からない。きっとこれからも分からないままだ。

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