10月19日放課後
言われたとおり、湯人は放課後、ホームルームが終わってすぐ校門前へと走った。反故にしてもよかったのだが、断ると明日になって自分の教室に乗り込んできそうだったからさっさと用事を済ませるために走ったにすぎない。それに、彼と会っておきたい理由もあった。
それは柊真が自分と同じく、喋るカードを持っているかもしれないからだ。同じような人間がいるのなら、その人間と会いたくなる、というのは人間という生物の性であるわけで、その性には湯人も逆らうことができなかった。何より、自分以上にこのカードゲームのことを知っていそうな人間と接点を持つことはゲームの流れを掴む上で重要な事だ、と理解していた。
校門前では例によって柊真がカバンを肩にかけて待っていた。その周りにもう一人、こちらも長身の男子生徒がいるが、湯人の知らない顔だった。陽気に柊真に話しかけている当たり、彼とは随分と親しいのだろうが、その話しかけられている柊真が若干うざそうだった。
まぁ、あんな風にマシンガンみたいに話しかけられていたらなぁ。
そう思いながら湯人が柊真に近づくと、彼の方も気づいたらしく、その友人を振りほどいて、湯人に近づいた。話しかけられていた時は機嫌が悪そうだったが、湯人を見つけると、妙に上機嫌な素振りを見せていた。いわゆる、同族意識、という奴だろうか、と湯人は勝手に結論づけて、よぉ、と挨拶してきたので、どうも、と返した。
「よぉ、湯人。今回はちゃんとデッキを持ってきたよな?」
「え、あ、うん」
「よしよし。――ああ、そうだ。俺の後ろにいるのは同じクラスの三ヶ谷すずき。あいつは、まぁ、あんんていうかな。うん、歩きながら説明した方がいいか」
すずき、と呼ばれた生徒は短髪の茶髪に、柊真よりは若干低いものの、日本人男子としてはやや高めの178センチ以上、人懐っこい笑みを浮かべていて、笑顔で湯人に手を振っていた。
そのどこか何にでも手を付けてしまいそうな危うさを持った少年を見て、湯人は少しだけ不安を覚えていた。この人は柊真と同じ程度に信用していいものか?
「まず、俺たちのこのカードについて説明してやろう」
歩きながら、柊真は黒革のデッキケースから一枚のカードを取り出した。
そのカードは湯人のヤギョウガラスと同じく、レベル4と書かれたアイコンがあり、コストアイコンも同じ数だった。
書かれているイラストは全身武装の騎士のようで、唯一兜だけを付けていなかった。プラチナ色の長髪をたなびかせ、その精悍な顔立ちはまるで勇者の様だった。右手には茶色の柄の蒼い刀身の両刃剣を持ち、戦いへと赴かん、と言っているかのように高々と掲げている。
ユニット名は『目覚めし勇者 クロード』、所属軍団は『星海騎士団』、そして種族はアークヒューマン。俗に言う、勇者のような見た目、と言えるカードだった。
「こいつが俺のパートナー。ま、いわば俺に話しかけてくるカードだな。能力自体もそれなりに強いが、それ以上にこのカード、かっこいいだろ?」
確かにかっこいい。騎士のカードなんてどこに出したって恥ずかしくない、まさに選ばれたもののカードみたいだ。自分のヤギョウガラスと比べて、若干気後れしてしまいそうだ、と湯人はポケットの中のヤギョウガラスを取り出して表情を曇らせた。
「お、それが湯人クンのカード?へー、ん?――なにこれ?なぁ、柊真!ちょっと来てくれ」
後ろから覗き込んできたすずきは湯人のヤギョウガラスを見るなり、ちょっとだけ驚いて前を歩く柊真を呼び止めた。急に話しの腰を折られて、若干不機嫌そうだったが、湯人のカードを覗き込むなり、そんなものは一蹴された。
「なんだ、この軍団。こんなの聞いたことないぞ?」
「だろ?『八咫烏』なんて軍団これまでなかっただろ。ひょっとして新しく発売された軍団なのか?」
「いや、それはないと思うけどな。ほら、UnUniteのカード作ってるとこのホームページにもない」
「てことは、向こうの世界から?」
「かもな。どちらにしろこの『ヤギョウガラス』だけってことはないだろ、『八咫烏』のユニットは。こいつだけが持ってる特別な軍団なのか、それとも開発途中のものが闇ルートに流れたか」
「いや、でもなー。それd……」
「あのちょっと待って下さい!」
話についていけなくなって、ついに湯人は二人の会話を静止した。その声で二人は湯人がいたことを思い出して向き直った。
「お二人の話を聞いていると、このカードの軍団?が存在していない、ということになるんですけど、それって何か不味いことなんですか?」
今、ヤギョウガラスの声は聞こえないが、湯人には知っておきたいことだった。ここでヤギョウガラスが声の一つでも発して説明してくれたら楽なのだが、生憎とだんまりを決め込んでいる。
「問題はないんじゃね?これから湯人クンと柊真がやるバトルに限れば、ね。――公式の大会とかだと、まぁ、なんと言いますか。使えるの?」
「知るか。基本的には審査さえ通ればどんなデッキ構成だろうと、大会では使えるからな」
「へー知らなかった」
つまり、二人の話を要約すれば、特に不味いことはないらしい。それなら、このカードやデッキも大事に使うべきなのだろうな、と湯人は納得した。
「疑問も解消できたことで、話を元に戻すぞ?――お前の『八咫烏』や俺の『星海騎士団』みたいな軍団を率いて、俺たちはバトルをする。互いの望みを叶えるためにな。ちなみに軍団っていうのはユニットが属している集団のことだ。設定だと、俺の『星海騎士団』は聖なる光をその身に宿した、正義の騎士団ってことになってる」
ここで設定とか雰囲気ぶち壊しだ、と湯人は思ったが、口に出すようなことはしない。それは野暮というものだ。
「そして、バトルとか言ったけど、そのバトルがちょい特殊でね。お、ついたついた」
気がつけば、湯人たちは今は使われていない廃ビルの前に到着していた。
鍵がかかっていないのか、ドアノブを柊真が回すとドアはすんなり開いて、中は完全に無人だった。若干暗かったが、外の光が窓を取り外した穴から差し込んできていて、全く見えない、ということはなかった。
「よし、人はいないな」
改めて無人を確認すると、柊真はデッキケースを取り出し、湯人に向けた。
「とりあえず、今回は模擬戦としてカウントしてやる。俺にとってはメリットなんてないけど、お前は初心者だからな。ほんじゃ、ローディング!」
直後、光が空間を包み、三人を覆った。
そして次の瞬間、彼らの姿は冷風吹きすさぶどこまでも青い草原だった。




