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UnUnite  作者: 賀田 希道
Player/Prayer RuNs
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10月19日登校前

 その日は湯人は素晴らしく、気分が良かった。一昨日の兄の一件なんて忘れるくらいに、だ。それは廉と名乗ったビジネスマン風の男との邂逅だ。あの男といるとすごく気分がよくなれた。これが擬似的なものなのか、あるいはあの男の特異な雰囲気によるものなのかは湯人にはわからなかったが、それを差し引いても、余りある心地よさだった。


 自分からぶつかってきた自分をやんわりとした物腰で許してくれる度量の深さ、そして近代日本の大人にはあるまじき、年下に対する謙虚な物言い。まるで将来の目標を見つけたかのような、そんな気分だった。もちろん、湯人自身は別にビジネスマンになろう、などとは思っていない。もっと堅実に生きたい、と考えている。もっとストレスが少なくて、クビにならない仕事に就きたい、と考えていた。


 だから、気づきようもなかった。こっそり自分のカバンの中に兄がダンボール箱の中身を忍ばせたことも知る由もなかった。

 修がこんなことをしたのにはやはり理由があって、自分の弟に友達を作って欲しい、という望みがあったからだ。


 修と湯人は五歳も年が離れている。最近では兄弟自体がいることも珍しいが、五歳も年が離れていては尚更、兄弟の溝は深くなりやすい。まして兄が自分よりも優秀なのに、全く働かなければより一層弟は兄を軽蔑するはずだ。あと、修の接し方にも問題があったのかもしれない。


 彼が高校生一年生の頃だ。当時まだ小学校四年生だった湯人に修はかなり辛く当たったことが当たったことがあった。湯人が修の部屋に入って来て、それがうざかったから、というのが理由なのだが、到底認められる理由ではなかった。彼からすれば無邪気で、自分にいつも擦り寄ってくるあの弟がひどくうざかったのだ。


 その思いが薄れたのは大学生になってすぐのことだ。

 大学に入って、いい成績を取って、それから友人関係も気にして。色々と疲れたのだ。その頃になってようやく気分転換に自分の弟に目を向けることができるようになった。兄を敵視して、冷たい目を向けてくる哀れな弟の姿がそこにはあった。


 自分が突き放さなければ、と思った時にはすでに手遅れで、また引き戻そうとしたら今度は手で触れることもできなかった。どうしようもなかった。

 大学を中退して、弟と関わる時間をもっと確保しようと思ったが、それも愚行だった。自分でデイトレードを始めたのが湯人の癇に障ったのだ。結果、より一層険悪な関係になってしまった。


 その弟に近づこうと、面白いと話題のカードゲームに手を出してみたが、湯人は激しく修を拒絶した。友達を作れ、と言ったのがより一層あいつを苦しめたのか?と思いもしたが、ただ彼は自分を責めるしかなかった。大学を中退して、デイトレードを始めて、弟に嫌われて、散々だ。それもこれも自分が原因なんだから、他人を責められない。すごく、窮屈だった。


 彼が湯人のカバンの中にカードのデッキを入れたのは単純に、期待していたからだ。

 例えば、学校に行って、デッキが中に入っていることに気づいた湯人がそのデッキを持ち上げてみる。それを見た他のクラスメートが湯人に話しかける、そんな期待だ。期待というよりも希望的観測、と言った方がいいかもしれない。


 今の湯人にとって、友情が育まれる未来なんて、それこそMクラフトでポータルが開いているレベルの確率なのだから。

 だが、事実はなんとやら、で。湯人は投稿してすぐに自分のカバンの中にデッキが入っていることに気がついた。そして、その実行犯が兄であろうことも理解していた。


 その時どう思ったかは言うに難くない。普通におせっかいな、と思った。彼にとってこんなカードゲーム、どうでも良かった。周りでこのカードゲームの名前を囁き合っている連中は何人かいたが、そいつらにバレないようにデッキを元の場所に戻す。が、その前に一つ、気になるカードがあったので、そのカードだけを湯人は引き抜いた。


 別にそのカードがかっこよかった、とか、カードから声が聞こえた、などと言うことではない。なんとなく、このカードの見た目が自分に似ていたからだ。

 裏が銀のそのカードは絶対に兄に慣れない、兄を追い越せない自分の様だった。銀賞。そんな嫌なフレーズが脳裏を微かによぎった。



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