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UnUnite  作者: 賀田 希道
Player/Prayer RuNs
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10月18日放課後②

 湯人は部屋を飛び出して自分の部屋、ではなく、玄関へと走った。そしてそのまま家から飛び出してしまう。どこか目的地があったわけじゃない。ただ、やるせない気持ちで湯人の心の中は溢れていた。自分がこれまで専念してきたことのすべてを否定された気がして、自分の兄が許せなかった。


 「俺のことなんて知らないくせに……。あんたの代役を努めようとして俺は、したくもない勉強をさせられたんだ。県立なんて本当は行きたくなかった。あんたが行っていた高校だろ、あそこは。両親はあんたを放置して、あんたはその才能で食っていけて、俺を気遣って。俺が馬鹿みたいじゃないか」


 両親の期待とかを向けていないようで、変なところで向けているあの変な目線を耐えて来たのに!カードゲームでもしろ、だと?

 冗談じゃない。俺はそういう子供らしいものから遠ざけたのはあんたじゃないか!あんたが就職もしないで自宅警備なんてしているからじゃないか!


 理不尽な怒りだとは理解していても、湯人にはこの衝動を止めることがどうしてもできなかった。なんで、なんで、なんで。

 そんな衝動を抱えながら歩いていると、バッタリ、と誰かにぶつかった。とっさに謝ろう、と湯人は頭を下げた。自分の不注意が招いたことなのだから当然だ。


 「すいませんでした、ちょっと考え事をしていて!」

 言い訳にしか過ぎなかったが、ここで謝らないのはもっと失礼だった。そして恐る恐る自分がぶつかってしまった誰かの顔を伺う。


 そこにいたのはパリッとしたビジネスマン風のスーツを着た青年だった。着ているスーツは素人目の湯人が見ても高級品、とわかるシワ一つないもの。ネクタイや着けている時計、どれを取っても彼が金持ちであり、また才能があることは明らかだった。


 加えて自分とは大きく違ってのイケメン。自分もそれなりだ、と湯人は思っていたが、こうもキザなセリフが似合いそうなイケメンビジネスマン風の男と声を失ってしまう。

 「君、その制服を見る限り、夏ヶ原の生徒、かな?」

 男はやや低い声で湯人に話しかけた。


 ギョッとして湯人は自分の今の服装に目を向けた。彼が今着ているのは紺色を基調とした夏ヶ原の指定制服だ。紅蓮の袖口や内ポケットが多いことで、デザイン性や機能性に優れている、ということで彼の住んでいる県内ではそれなりに人気が高い制服の一つだ。ブレザー&ネクタイorリボンで、男女共にこの制服を好んでいる生徒は多い。ちなみにな続くは灰色のシャツだ。


 「えっと……はい」

 しかし、そんなことは今の湯人にはどうでも良かった。今彼が怖かったのは、このことが学校に何か言われることや、難癖を付けられることだ。汚れが付いた、などと言われても湯人にはどうすることもできない。それどころか、彼の両親すら巻き込んでしまう。色んな思惑が湯人の頭の中を渦巻いていた。


 「ふーん、じゃぁ君。久城彩音って()、知ってる?」

 「はい?」

 とっさに湯人は自分の記憶を辿る。そして一つの結論に至った。


 久城彩音は彼の通っている高校のある種有名人だ。生徒会副会長にして、校内でも優秀な成績を誇っている彼の先輩。直接の接点はないが、時々図書室で自主勉をしているのを見たことがある程度だ。そのどこか人間離れした雰囲気を醸し出している様を見て、こう思っていた。まるで褒姒(ほうじ)のようだ、と。


 彼女は褒姒の様に笑わないわけじゃない。むしろ、交友関係は広くてよく笑う方だ。でも、そうじゃなくて、何か異質なんだ、と考えている。まるで関わった人間を全員地獄にでも堕としてしまうかのような、そんな嫌な雰囲気だった。


 「そりゃぁ、うちの高校では有名人ですから。……彼女がどうかしましたか?」

 「いや?ちょっと探していてね。――そうか、やっぱりこの街にいたか」

 「どういうことですか?」

 「なんでもないさ。そうだ、君の名前を聞いてなかったね。俺は西園寺(れん)。君は?」


 「俺は、石川……湯人です」

 差し出された手を湯人は握る。それなりに鍛えているのか、廉の手は力強かった。その柔らかな笑みや、どこか一緒にいて気分がいい、などから信用できる人物、と湯人の中で廉はインプットされていた。


 「石川君。協力、ありがとう。あ、それと俺にぶつかったことなら別に気にする必要はないよ?俺の方もちょっと考えごとをしてたからさ」

 「え、あの、ありがとうございます」

 「気にすることないさ。じゃぁ、またどこかで」


 そう言い残して、廉はその場から去っていった。その背中を見送った湯人もまた、どこか宛もなく歩き始めた。



 湯人が去った頃、廉は道を戻って彼の背中を見送った。

 「さっきの少年……面白いね。まるで疑心暗鬼、汚物、何より劣等感の塊じゃぁないか。ま、だから彼のことを『禍津神』の連中が好くのかもしれないけどね」

 『それってヤバくないか?伊佐と成ったら吾輩では止められないぞ?』


 その声はどこからか、廉の脳みその中に直接語り掛けてきていた。どこかジジ臭く、また頭の悪い貴族風の喋り方だ。しかし、廉は突っ込まず、その声に応える。


 「たしかにね。老公の力は俺もよく知っているさ。でもね、最悪を考えても、だ。見てみたくないかい?あの少年が世界から堕ちる様をさ」

 『悪趣味だな。吾輩も人のことを言えた義理ではないが、貴様も大概だな』

 「あの少年は近いうちにこちら側へと入ってくる。それも『禍津神』に(いざな)われて。それは、とても、面白いと思わないかい?」


 先程、湯人に向けた笑みとはだいぶ違う、酷く下卑た笑みを浮かべる廉に老公、と呼ばれた存在はただ苦笑するくらいしかできなかった。彼が廉と付き合ってすでに二年。人間が人間を理解してすでに余りある時間だ。その時間の中、彼が廉について知ったことは、ひどい理想家、という全くの見当ハズレの理解だった。



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