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UnUnite  作者: 賀田 希道
Player/Prayer RuNs
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10月25日、ドォル・リシュナの異空間

 一瞬にして三人の周囲の景色が変わる。そして次の瞬間、三人がいたのは喫茶店ではなく果てしなく広がる草原にポツンと立つ黒塗りの椅子が3つとテーブルが置かれていた。その3つの椅子にそれぞれ座る形になっており、急激な景色の変化に湯人とかなえは目を丸くしていた。

 彩音はその二人の反応に対し満足気に胸を這っている。ここでノーリアクションとかだったらさすがの彼女でも少しだけ傷心してしまう。


 『なるほど、これは惑星アクセスに接続するのと同じ現象ね?さすが龍皇。バトルコールもなくこのようなことができるとは』

 沈黙の中、第一声を発したのはこれまで聞いたことのない流麗な声。流れる聖水のような、一点のにごりを感じさせない声。しかし、そこには深海のような歪な深みがあり、ささやかな威圧感があった。


 「ミリぽん!久しぶりに喋ったね!てか、今言ったことってどういうこと」

 かなえはアミリュナを取り出すと喜々として話しかけた。そこから彼女がアミリュナを絶対的に信用している、あるいは頼っていることがわかった。

 湯人はその関係性にどこかしら憧れのようなものを覚えた。今の彼は確かにかなえなどを信用しているが、心から頼れるか、というと疑問が残る。ヤギョウガラスとは片棒担ぎ、共犯者的関係だから一方的に頼る関係にはなれない。それは依存であり、共犯者関係とは言えないからだ。


 『つーまーりぃ。ドォル・リシュナはあんたらがバトルコールをしなくても自前の魔法かなんかでアクセスに私らの意識を飛ばせるってわーけ。ま、そんだけ内在している力が強いってことなんだけどねー。あたしらみたいなただのアークヒューマンと違ってねー』

 簡単に言うが、本来の正規のルートを通らずにアクセスに意識を持ってくるというのはすごいことだ。まず大前提としてアクセスと地球とでは数十光年では収まりきらないほど、途方もない距離がある。その距離をなくすための正規ルートであるプレイヤー同士のバトルもなしに、アクセスにプレイヤーの精神を飛ばすのだから裏技もいいところだ。


 「でも、それってそこまで驚くことなの?いや、すごいっていうことはわかるけどさ。でも、それがなんのメリットになるわけ?精神だけを飛ばすだけだろ?」

 湯人の言っていることは当然だ。だが、間違った当然だ。

 『我が主よ。精神を飛ばす、という行為はつまり地球にいる汝の体は空になる、ということ。例えば、自分では決して勝てないプレイヤーなどがいた場合強制的にアクセスに飛ばし、空となった肉体を処分することも可能ということだ』


 ヤギョウガラスはこともなげに言うが、湯人にしてみればこれが恐ろしいの一言であったのは間違いないだろう。今ヤギョウガラスが言った方法以外にも嫌いなやつを処分することにだって使えるし、暗殺に用いようと思えば痕跡すら残さない。

 いつか彩音が自分にもするんじゃないか、と疑心暗鬼の目を湯人は向ける。すると彩音は心外だ、とでも言うように少し顔をしかめた。


 「もぉ、私はそんなことのために使わないって。大体、そんなつまらないことをしてもおもしろっくないじゃん。やっぱバトルだよ、バトル。こんなスリルが味わえるゲームしてるのに暗殺とかアホらしいでしょ?」

 そうい言われれば納得してしまう、と二人は思った。直接戦ったかなえは元より、柊真が敗北する瞬間を間近で見ていた湯人も同じだった。彩音はかなりのジャンキーであり、実際それが彼女の素なんだろうな、と心の中で合点していた。


 「で?話が戻るんだけど、なーんであんたと湯人のゲートユニットって仲悪そーなわけ?嫉妬?怨恨?」

 『お嬢さん、ほぼ確実に私怨だよ。別に僕の話を聞くよりもお宅のゲートユニットにでも聞けば概要はわかるんじゃないか?当事者ではないにしろ、口伝としては伝わっているだろう?』

 『まぁ、ね。でも当事者の方が詳しいんじゃない?あたしの説明だと重要なパーツが抜けてる可能性があるんじゃなくて?』


 むぅ、とドォル・リシュナは唸る。彼としては面倒事をこの場でもっとも発言権がなさそうなアミリュナに押し付けてしまいたかったのだが、そのアミリュナにもっともなことを言われてしまってはぐぅの音も出ない。

 一応、やれ、と威圧する態度で命令することはできるがそれをすると関係性が悪化する以外にない、と彼は理解していた。ゆえに、大きくため息を吐くとドォル・リシュナは千年前の出来事をぽつりぽつりと話しだした。



 ――千年前、そう僕らのアクセスでの出来事さ。ああ、もちろん誇張なし脚色なしに話させてもらうよ?

 単刀直入に言って、星のすべてを巻き込んだ戦争があったんだ。そう、君たちの世界で言うところの世界大戦に近いかな?規模は段違いだけれど。

 その戦争には僕も参加していた。当時からエンシェントドラゴンであったしね。

 戦争の発端、は省くとして、その戦争では二つの陣営が存在していた。わかるだろうけど、僕の属する陣営とヤギョウガラスが属する陣営だ。何度も何度も殺し合ったよ。でも決着はつかなかった。

 やがて、ヤギョウガラスの属する陣営は押され始めた。そして最終的に僕らの勝利、というわけだね。


 ――それは大いなる間違いだぞ、ドォル・リシュナよ。我らは負けたのではない敢えて封印される未来を選んだのみ。貴様らが悦に浸る仲、天上の神々を再び降臨せしむるためにな。


 ――なにを言うんだい?あれをまた降臨させる?冗談じゃない。再び、アクセスを焦土に……いや今度こそ滅ぼすつもりか?『天蝗無塵(てんこうむじんの)禍津神(まがつかみ)』なんてものをまた……


 ――よいか、我が主よ。共犯者よ。こやつの語る言は大方まやかし。なにより、汝の大いなる力となると我は確約しよう、我のお仕えする神は。そうだ、この眼前の龍を喰ろうた暁にはそのために十分な力が回収できるやもしれん。



 二体の超獣はしきりに口論を繰り返す。そしてその内容を初めまでは湯人たちは理解していたが、後半になるにつれてよくわからなくなってきた。というのも彼らからすればドォル・リシュナがなにを恐れているのか知る由もなく、またどちらの言葉がただしいかの判別なんてつくわけがない。ドォル・リシュナのパートナーである彩音ですら頭痛を覚えたのか眉間に手を当てていた。

 「とにかく、だ。二人が仲が悪い理由はわかったよ。それでヤギョウガラス。その『天蝗無塵禍津神』っていうのはそんなに強いのか?」

 「あの御方々の強さは我を超える。そして今の『八咫烏』の首領すらもな』


 首領というのはキンウ・コクジョウのことだろうと湯人は考えた。あのカードよりも強いとヤギョウガラスが断言するのならばそう考えてもいい。ただ、あくまでもヤギョウガラスが言っているだけにすぎない、ということを湯人は念頭に置いていた。最終手段としてヤギョウガラスに同調しよう、と。

 「その天なんとかっていうのちょっと面白そうじゃない?できればもうちょっと聞きたいかな~」

 『かなえ、やめたほうがいいわ。聞いても手に入れることなんてできないし、アレと寝屋を共にするとか勘弁もいいところよ。体中からじんましんが出てきちゃう』


 心底ごめんだ、とばかりにアミリュナはげんなりして見せた。もし彼女が今実体を持っていればうげぇ、と舌を出していたことだろう。

 「久城先輩、ひとつ提案があるんです」

 「ふぅん、なにかな。私にできることなら受けてあげるけど?」

 「ここは一つ、不戦協定を結びませんか?」


 その言葉に彩音は眉をひそめる。今の話からどうやってそこに行きつのかがわからないからだ。なによりすでに結んでるじゃないか、と言いたげだった。それを察したのか湯人は初めて微笑を浮かべて彼女の疑問に答えた。

 「そちらのゲートユニットの反応を見る限り、俺のヤギョウガラスの悲願みたいなものは阻止したい。そのためにドォル・リシュナはこの俺を狙う可能性があります。ていうか、多分狙う。しかし、当然ですがそれはそちらにとっても負けるというリスクを負います。


 こちらもそのリスクは同じだ。たった一度の敗北と言ってしまえばそれまでですが、今回の場合、一度の敗北ですら後々の自分の首をしめる可能性があります。なにせ、一度の敗北がコンプレックスとなる、というのはよく聞く話ですからね。

 だからですよ。俺も、久城先輩も、もちろんかなえも黒星は稼ぎたくない。ですが見知った仲になってしまった以上そのプレイヤーをカモにする、なんていうこともできるはずです。――まぁ、邪推かもしれませんがね。とにかくです。そういうわけで不戦協定結びませんか?」


 「言いたいことがあんだけどさー。それってうまく機能するわけ?不戦協定ってことは、破ったらなんかペナルティーとか設けんでしょ?でもそれもかんけーねーってくらい破ったやつが強かったら?」

 すぐに湯人はかなえが彩音のことを言っているのだと察したが、あえて口に出すことなく飲み込んだ。そして数秒後、その問いに答えるように口を開いた。

 「そうなったら、ネットにでも個人情報を拡散するかな。てか、それをペナにしてもいいかもな。ひょっとしたらプレイヤー以外の人間もよってくるかm……なに?」


 気がつくと二人の冷たい視線が湯人を射抜いていた。そうまるでゴミを見るような目だ。すぐに湯人は自分が何か失言をしてしまったか、と自らの発言を振り返るが全く思い当たるフシがない。合理的に考えた結果のはずだが、何がお気に召さなかったのだろうか?

 「ゆひとってさー、ちょーっとアレだよね。あー、KY?」

 「え、なんで?そっちがどーすんのーって聞いてきたから代替案を出したのに」

 「いや、まーそうなんだけどね」


 真顔で返す湯人に対してかなえは苦笑いを浮かべる。

 こいつ変なところで天然だな、と心中では完全に呆れていた。

 「とまぁ、だ。これこれこういう理由でいかがでしょうかね?不戦協定」

 向かい直って湯人は彩音に問う。ここで彼女がイエスと言えば湯人にとってはほくほくだし、ノーと言ってもそうですか、の一言です。そもそも、ここでの湯人の目的は自分と彩音の不戦協定の枠組みにかなえを入れる、という彼らしからぬ理由からだ。


 あとはゴマすりだろう。

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