10月24日某所
「グラガナッツォで、あなたのシルバーユニットにアタック」
彩音のグラガナッツォの攻撃は対戦相手のシルバーユニットを完膚なきまでに破壊した。シルバーユニットはやられる演出をしながら、その姿を消していく。
だが、それ以上にそのシルバーユニットを操っているプレイヤーが動揺していた。彼は恐怖のあまり、自分の唇を釣り上げながら、キスの形をしている。目は細められた目がへの字になっていて、鼻の穴はありえないくらいに大きく広がっている。汗が全身を駆け巡り、着ていたスーツを通り過ぎてパンツまでをも放尿したかのように濡らした。
ドカリと自分の体ごとゲームテーブルに突っ伏して男は崩れ落ちる。それでもさっきの変な表情は崩さない。現実が受け入れられず、またこれから起こる審判を否定したい、と心の底から願っていて、思っていて、祈っていて、感じていて切なく切なく切なく切なく切なく切なく切なく切なく切なく切なく切なく心から心から心から心から心から感じていて心から心から切望していた。
男は五回、負けた。
自分の望みを叶えるための戦いで、五回の負けを重ねたのだ。それはすなわち、ペナルティーが発生することを差していた。
男の望み、それは出世すること。彼が努めている会社で、彼はプロジェクトリーダーのような仕事をやっている。しかし、彼の同期はすでに課長や部長、あるいはそれに近しい役職に就いていた。はたや彼はプロジェクトリーダー。とあるプロジェクトではリーダーではあるが、そのプロジェクトだって今や彼の部下のミスで中止寸前だ。
そして会社で彼を査問したのは、彼の同期の人事副部長だ。その時の同期の目、それは決して憐れみとか哀れみとかではなく、いつでもどこでも道ですれ違うYou don't know who を見る目だった。副部長は彼のことなどまるで考えていない。数ある人事査問の一件に過ぎない、と捉えていた。
それが彼には許せなかった。自分をもっと見てくれ。もっと自分を肯定してくれ。もっと自分を評価してくれ。そういったある種の、少し頭の逝ったかまってちゃんな人間が彼だ。
自分を評価しなかった連中、自分を否定した連中、自分を見なかった連中を見下したい。その願いが篭ったのが、彼の努めている会社で出世し続けること、だ。ゆくゆくは社長、会長となってやる、そんな子供脳みそで考えたような願望が彼にはあった。
だが、それは幻想だった。
UnUniteのバトルに参加する資格を得た彼は浮かれていた。所詮相手は子供や、大人であっても自分と同じ初心者だと考えていた。だからこんなのヌルゲーじゃないか、と高をくくっていた。
しかし、そんなことはなかった。
彼は弱かった。
初陣であっさりと負け、その後は何度か勝ちはしたが辛い勝利だった。結果、気がついたときには彼の黒星は四つにまでなっていた。これ以上負ければ自分は挑戦権を失ってしまう。そればかりか自分の人生がなくなってしまう。
最初に負けたときに自分のゲートユニットから聞かされた三つのペナルティーが頭のなかで鬼ごっこを始まる。当然鬼は三つのペナルティー。追われるのは男だ。負けられない、これからはもう負けられない。そのプレッシャーが男を支配していた。
男が彩音に声を掛けたのも彩音が弱い、と考えたからだ。彩音がプレイヤーとわかるや否や、男はすぐにナンパまがいにバトルをシよう、と彩音に持ちかけた。当然彩音はその持ちかけに応じる。
そして『夢幻魔術学院』の圧倒的能力で男を叩きのめした。
「いやだ、いやだ、いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ!」
地球に戻ってその男は泣きじゃくる子供のように同じ言葉を連呼する。幼稚園で叱られてる子供みたいだな、と彩音は微笑を浮かべながらその光景を見ていた。
彼女にとって男はとても弱い。それこそ、グラガナッツォを出さなくても別に構わないほどに弱かった。なのに彼女がグラガナッツォを出したのは、圧倒的力で弱者を踏み潰す快感がたまらないからだ。ピキュっという音を立てて相手のユニットがやられたときは本当に最高だった。どんなシルバーユニットだって私にかなわない、そんな強者たる自覚からの快感だった。
泣き崩れてしばらくしてだ。男は何かブツブツと言い初め、幽鬼の様にゆらりと立ち上がった。顔も、ここ百年何も食っていないかのように豹変している。醜悪に頬を紅葉させて、ゆっくりゆっくり彩音に近づいていく。
男の目は彼女足首から、太ももへ、そして腰回り、胸元、うなじ、耳たぶ、顔、濡羽色の髪へと写っていく。ハリのいい太ももや、引き締まった腰回り、さらには高校生にはあるまじきDカップ、愛らしく可愛らしいその無垢そうな顔、美しく色艶のいいミディアムの濡羽色の髪、のすべてを、
「犯す」
「犯す侵す冒す奸す陵辱す挿す舐す抜す絶倫す噛す掘す愚息握す揉す吸す孕す。
犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯すおか犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す犯す
侵させらろろー!」
感情を暴走させ、男は自分の下半身を露出させながら、勢い良く彩音の柔らかな体へと覆いかぶさる。彩音はまるで抵抗することなく、男の前に大の字なって押し倒された。
「どうせhs,廃人になるなだあだ、こっここで抱いてやる!あいあしちゃるgへ」
もはや興奮のあまり呂律は回っていない。
「ねぇ、おじさん」
「んんんあんあんだぁい?だいっっじょうぶ、ここは使われてない倉庫っっだからッサ。誰もbぉkらの愛はじゃまぁdしなあぁいよっっぉ」
「そうじゃなくてね?」
彩音は首だけを前に突き出すと男の耳元に囁いた。
「時間切れだよ」
「gへ?」
途端、男の瞳から精気が失せる。男の彩音を抑える手の力が抜け、男の体が彩音にのしかかってきた。ぐぎゅ、という可愛らしい音を立てて、彩音の腹の中の空気が抜けた。
「もー邪魔!」
男の腹を蹴り上げ、男を右へと押しのけると、彩音はさっと立ち上がった。そして自分の制服についたホコリや汚れなどを落として、自分を押し倒した男を一瞥した。
「残念だったね。もうあと、うーん。十秒くらい?あれば、私の処女膜、貫けたかもね?」
ただし、そんな未来はないけれど、と心の中で呟いて彩音は男が彩音を連れ込んだ倉庫から出ていった。男は放置だ。三つのペナルティーの結果として、廃人となっているから、自分では何もできない。このまま放置して、誰も見つけなければ死ぬだろう。
しかし、それがなんだ?
自分には関係がない。
それだけのことだ。
「うーん、明日はどうしようかなー。あ、司馬君と一緒にいた後輩君もいいかもな。名前……あー聴き逃してた。うーん、明日学校に行った時に休み時間を見計らって声でも掛けてみよっかなー」
彩音は明日の登校に文字通り胸を弾ませて、帰路についた。
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