10月21日トニー&トニー②
ボックスを開けると、左右それぞれに十三個ずつのパックが入っていた。その内片方を湯人に手渡し、かなえはビリビリと破いていく。それに習ってパックをビリビリ破いていくが、すぐにその作業がひどくめんどくさいことに気付かされた。
かなえにレアリティー順に重ねろ、と言われるわ、カードに傷がつかないようにしろ、と言われるわで最初にこの作業をする人間はひどくストレスになることは間違いないだろう。すべて振り分けてからは達成感がなくもなかったが、その直後に使えるカード使えないカードで分けろ、と言われたからはもう勘弁してくれ、と言いたくなった。
二人が今回あ変えたボックスはエクストラパックのボックスで、『ドゥネージェオーケストラ』の軍団に属しているカードのみが入っている。こういったエクストラパックで発売されるカードはゲットしにくかったり、デッキを組むのが楽、というのが属性ではなく、軍団やクランといったカテゴリーでカード同士が分類されているゲームの特徴だ。
『ドゥネージェオーケストラ』は惑星アクセスにおいて、最も名前を轟かせている巨大オーケストラだ。構成人員は一軍だけで300名。二軍も入れれば1000名を超える。さらに、その人間離れした技術やセンスは多くの他の軍団からお呼ばれするほどで、常に中立を保っている珍しい軍団だ。
曲そのもので相手を魅了し、精神の奥底へと誘う。それが彼らの音楽の特性であり、一軍メンバーが行うとなればそれはもはや一種の催眠、あるいは鎮魂歌だ。知らず知らずのうちに演奏を聞いていたものがいつのまにか天に召されていました、など『ドゥネージェオーケストラ』の演奏を聞いた後では珍しい話ではない。しかし、責めることもできないので、『ドゥネージェオーケストラ』の面々はお呼ばれこそすれ、演奏するのはよくて一人か二人だ。ちょうどアミリュナの様に。
「おー、ラッシモン!」
適当にカードを仕分ける湯人をよそにかなえは大声で当てたカードを自慢する。彼女はとてもうれしそうで、早速自分のデッキを取り出していらないカードと仕分けしはじめた。たちまちテーブルクロスの上はカードで埋め尽くされ、ものの置き場がなくなった。
「ねぇ、ミサさん。ラッシモン、あと二枚ない?」
「その辺のショーケース覗いてみたら?『ドゥネージェオーケストラ』の枠にあるかもね。『ドゥネージェオーケストラ』ってあんまり人気ないし」
「そうなんですか?」
その言葉に湯人は反応する。見た目もきれいで荘厳な軍団なのに、なんで人気がないのか不思議で仕方がなかった。
「んー、いや。この軍団って使い方がちょっとね」
「使い方?」
「カードテキスト読めばわかると思うんだけど、その軍団ってて固有能力がとにかく多いのよ。他の軍団は一つか二つじゃん、対して『ドゥネージェオーケストラ』は軽く十は超えるから。いやいや扱いきれないって」
それを聞いて湯人はますます首を傾げた。固有能力が多いのは喜ばしいことなんじゃないのか?そもそも湯人はこれまで一つ以上の固有能力を持っている軍団を見たことがないので、多ければもっとゲームの幅が広がるんじゃないか、程度の認識しかなかった。
「『ドゥネージェオーケストラ』の固有能力は、『合唱』、『狂想曲』、『鎮魂歌』、『二重奏』、『四重奏』、エトセトラエトセトラ。もう運営どんだけ、とか言いたいくらいに多いわけよ。その中から幾つか選択しろ、とかレパートリー多すぎて困るわ!」
『ドゥネージェオーケストラ』に何か嫌な思い出でもあるのか、徐々にミサさんの語気が荒くなっていった。ので、これ以上の詮索はよそうと湯人は話題を変える。
「そういえば、俺の軍団を見たことないとか、鈴鹿さん言ってたよね。それってどういうこと?」
「ん?あ、そうそう!ねぇ、ミサさんこのユニットの軍団見たことある?」
入れ替えていたカードをテーブルクロスの上に放置して湯人の手にあったヤギョウガラスのカードをミサさんに見せた。ミサさんは物珍しいそうに覗き込むと、全然、と言って首を振った。
「最新のパックにもこんなカードが入ってるなんて情報ないんだよなー」
「ひょっとしてまだ開発中のテストカードとか?」
「えー?それってよくある陰謀説みたいなんだけど。ていうか、それならそこの石川くんがテストプレイヤーってことになるじゃん。彼、つい最近はじめたばっかみたいだよ?」
「ま、もともと俺のカードでもないしな」
その言葉に二人の視線が湯人に向く。
「そうなの?」
意外だ、とばかりに聞いてくるかなえに湯人は若干めんどくさそうに答える、
「それ、俺の兄貴がネットで買ったとか言ってた気がする。ひょっとしたら兄貴に元は送られたのかもね」
「で、なーんでそれを君が持ってるわけ?」
「押し付けられたから」
「わー、嘘くさ」
呆れて鼻で笑うかなえに湯人は反論する。そんなわけあるか、と若干語気を強めて反論すると、もう話の鮮度が落ちて飽きたのか、それ以上かなえやミサさんが言及してくることはなかった。
「ミサさーん。お会計おねが~い」
「ほいほい。えっと……ボックス一つ、ラッテ一つ、紅茶一つ、ラッシモンが一枚で、合計六千百二十円ね」
「うげ、あ、でもその中から引かれるよね、ボックス代」
「そうだね、それでもほれ野口よこせ、野口」
「はいはい」
嫌そうにかなえはレジ台に野口英世とその他を置いた。
*
「それじゃぁ、ここでバイバイね」
「そうだな。あ、そうだ」
思い出したように湯人はポケットからスマホを取り出す。そして自分の電話番号を表示させると、かなえに見せた。
「これ、俺の電話番号。なんかあったら連絡してきて。ま、俺は俺で忙しいから電話に出るかはわからんけど」
「あんがと。じゃ、メモらせてもらうわ」
かなえは嫌な顔ひとつせず、湯人の電話番号を登録する。これは双方の利害として、ある程度信用できる仲間ができた、ということだ。
「こねくとにも登録していい?」
「ご勝手に。既読を付けるかは別の話だけどな」
「あんた友達いないでしょ?」
「失礼だな、今日会ったときにいただろ」
「あれ、友達?どっちかって言うとあんたが舎弟ってイメージが……っとこれは言わぬが吉か」
失言、失言とかなえは軽く咳き込む。言葉遣いとかが多少アレな彼女でも他人のことを思いやる気持ちがあるのだなぁ、と湯人は思った。
「お、ちゃんと通じてるね」
試し掛けが成功したところでかなえはスマホをしまうと、バイバイと口にして駅のホームへと走っていった。
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