10月21日トニー&トニー
「……それくらいかな」
「情報量少な。んー、それじゃぁあんたのゲートユニットを紹介してよ。あたしのも紹介するからさ。ほい、ミリぽん!」
湯人が話を切り上げると、すぐにかなえは女子高生ならではの状況対応能力で話題をさらっと変えた。その鮮やかさたるやコミュ障、友達ゼロの湯人には輝かしく見えた。
「これが私のゲートユニット、ミリぽんだ!」
威勢良く出されたのは華やかなロングドレスを着たダイヤモンド色の長髪を結った麗人だ。純白のドレスを着ていて、同じ色の手袋を付けている。ウェディングドレススタイルに結われた髪型は彼女の今の見た目ともベストマッチしていて、カードそれ自体にも発光塗料が塗られているのでよりきらびやかだった。
背景である洋館の大きな窓には夜空が輝き、ピアノを弾いている女性が写っている。麗人はまるで何かを歌っているかのようなポーズを取っていて、目がどこか遠くを眺めているように見える。さながらオペラ歌手のソロリサイタルを見ているかのようなイラストだ。
レベル4のユニット、黄昏夜空のアミリュナ。所属している軍団は『ドゥネージェオーケストラ』。種族はアークヒューマン。ただのオペラ歌手かと思いきや、その真の姿は人類の到達点とも言えるアークヒューマンだったのだ。
「どうだ、このきらめき!ドゥネージェオーケストラの名オペラ歌手だぞ!」
「すっげー、キラキラしてますね。それに、これまで見てきた色んなカードよりもイラストがすごくおとなしい」
この異様なキラキラさえなければすごくキレイなカードなんだけどなー、と湯人は心の中でぼやく。アミリュナはかなえの様な可愛らしい女子高生が持っていて然るべきカードだとは思うし、何よりもニックネームを付けるあたりがかなりカードのことを気に入っていることが伺えた。
「それじゃぁ、えっと……そういや名前なんだっけ?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?石川湯人です。夏ヶ原高校の一年ですよ」
「てことはあたしと同い年じゃん。へー、驚いた。あ、そういやあたしも名前言ってなかったっけ。鈴鹿かなえ、よろしく」
おそすぎる自己紹介を終わらせると、ほぼ同時にミサさんがカフェラテと紅茶を運んできた。失礼しまーすなどと口では言っているが、心の中では青春してるわねー、と全く見当違いの想像をしていた。
運ばれてきたカフェラテを口に運びつつ、かなえは話を進める。
「それで、石川くんのゲートユニットってのは?」
「ああ、こいつだよ。黒司 ヤギョウガラス」
湯人がポケットから取り出した黒い鴉のイラストを見て、かなえは少し驚いてみせた。
「『八咫烏』なんて軍団聞いたことないな。――ねぇ、ミサさん。ちょっと今月発売したボックス見せてくれない?」
カウンターから顔を出したミサさんはほいほい、と適当な返事をしつつ、在庫部屋から今月発売されたUnUniteのボックスを持ってきた。
「なに、買うの?」
「うーん、このボックス『ドゥネージェオーケストラ』入っていないんだよね。『ドゥネージェオーケストラ』が入ってるパックとかない?」
「出させといて何言ってんの、この子は。――うーん、そもそも『ドゥネージェオーケストラ』ってエクストラパックのカードでしょ?そいうのってあんまり残って……あー、あったあった!」
文句を言いつつもカウンターに下がったミサさんは目当てのパックが見つかったのか、ミサさんは大きな声を上げて、ボックスを持って二人が座っているテーブルに駆けてきた。
「これでしょ?最新の『ドゥネージェオーケストラ』が入ったエクストラパック!まだ在庫あってよかったー」
「おー、さすがカード喫茶。こういう掘り出し物もあるなー」
目を輝かしてかなえは喜んでみせる。早速ボックスを開けようとしたが、すかさずミサさんが彼女の手からボックスを取り上げた。
「お買上げになりますかー?」
「ぐぅ」
こぉの外道め、とばかりにかなえはミサさんを睨む。ミサさんは商売人である以上、ごく自然の対応しているだけなのだが、期待させておいて引っ掛けるというのは流石に湯人から見てもズルい気がしなくもなかった。
「石川くん、共同出資をする気はないかい?」
「生憎と俺にはないな。鈴鹿さんが自分の金で買えば?」
「男の君と違って、女は色々なものに金を使うから月末はいつも金欠なの!そりゃ、バイトだってしてるけど、それじゃぁ足りないんだよ!」
「知らねぇよ」と湯人は心の中でつぶやく。彼には女性の友達はいないし、女性の金使いなど全く知らない。ただ、今かなえから金使いのことを聞いて、将来結婚したくねー、と思ったのは確かだ。
「んふふふふ。そんなあなたにいいお話がありますよー」
「うぇ、なんか嫌な顔」
「うちでバイトしてくれれば、バイト代から差し引いときますよー。そうだね、ボックスひとつ4890円くらいで、バイト代を時給七百円くらいにするとして、学校が終わってから9時まで働いてもらうとして、一日3500円くらいの儲けかな?そこから七百円ずつ引くとして、ワオ!驚きの一週間で借金が返済できるぜー」
意地悪な大人の顔でミサさんは笑う。その顔を見て湯人もかなえもゲンナリとした。こういう大人に捕まってロクなことはない、と子供ならではの感覚が教えてくれていた。
「時給七百って結構高くない?ここってそんなに儲かってたっけ?」
「うーん?かなえちゃんくらいしかアルバイトいないし、特に問題はないんじゃない。ていうか、他の店のアルバイトがどんくらいもらってるとか私知らないし」
それを聞いて湯人は大丈夫なのこの店、と思った。駅ビルに居を構えているのだからそれなりに儲かっているのかもしれないが、財政がこんなにガバガバでは店の経営はあっという間に赤字になってしまうはずだ。未だに店が潰れていないことがおかしい。
「ま、強制じゃないけどね」
「うーん、今のバイトが金曜だから、火、木に入れる?別に部活とかやってないし、お金も増えるし借金も帳消しにできるからなー」
少しの時間、カフェラテが覚めるのに十分な時間を考えに費やして、かなえは決断した。
「わかった、やる」
「まいどー。というわけでボックスをどうぞー」
「どーもー」
「じゃー、来週の火曜日からよろしくー」
「へーい」
「4時から9時の時間帯だからねー」
「両親に言っとくー」
話半分にミサさんの話を聞いて、かなえは早速買ったばかりのボックスを開け始めた。




