10月21日――廃海領域
出現したのは古い文明の廃墟が立ち並ぶ樹海の中だ。樹海の中のひときわ開けた位置、ぽっかりと樹海の樹木に穴が空いて、太陽の光が照らされている場所に湯人、柊真、すずき、そして彩音の四人の影が現れた。柊真と彩音が相対するように離れた位置に出現し、観客のように湯人とすずきが二人から離れた位置にその姿を現した。
「ここで、私とヤッてくれるんだ。楽しいなぁー」
「巫山戯ろよ。俺はシたくないっつてるだろ!」
「でも、しょうがないよね。だって、私とヤッてくれなかったらキミらの情報ぜーんぶネットに拡散されちゃうけどねー」
悔しげに柊真は舌打ちをする。せめてあのスマホさえぶち壊すことができればと思いつつも今の彼女に手を出すことができない以上、この下らないゲームを受けるしかなかった。
「それじゃぁ、始めよっか」
自分のシルバーユニットを裏向きのままバトルゾーンにセットして彩音が笑う。
「ウォースタート、平凡な魔術使い ラッテ」
「旅立ちの勇者 クロード」
・レベル1
・コストアイコン0
・――このユニットが進化した時、山札の上から二枚引く。
・平凡な魔術使い ラッテ 『夢幻魔術学院』、ヒューマン
・レベル1
・コストアイコン0
・――このユニットが進化した時、山札の上から二枚引く。
・旅立ちの勇者 クロード 『星海騎士団』、ヒューマン
出現したのはとんがり帽子を被ったクリーム色の長髪の少女。紫色の宝石がはめ込まれた魔法杖を右手に持ち、ブカブカのローブを着込んでいる。
湯人からすれば初めて見る軍団に所属していたが、柊真やすずきはその軍団を見て、別に驚きもしなければ、警戒の色も見せなかった。
『夢幻魔術学院』
惑星アクセスに存在している、魔法という物理現象を意図的に発生させられる魔術師、と呼ばれる人間が多く所属している軍団だ。学院と銘打っているだけあり、彼らの組織図は学校組織のそれによく似ていた。首魁を学院長とし、その下に教師陣、弟子、生徒、といった風に他の軍団と比べて比較的簡易的な組織図ではあるが。
ただ、魔術師になるものが人間だけとは限らない。どちらかと言えば人間以外で魔術師として大成する存在の方が多い。そして、学院に所属している魔術師の多くもまた、人以外の種族が多くいる。中には伝説の獣、と呼ばれている種族まで存在するくらいだ。
そんな魔術師たちの一大勢力、『夢幻魔術学院』が、彩音の駆使する軍団だ。
*
「進化、蛙蛇博士 アビグリオン」
ターンが進み、彩音は自分のレベル2のシルバーユニットをレベル3に進化させる。この時点で、先攻の彩音の手札が八枚、後攻の柊真の手札は六枚だった。両者のシルバーユニットのレベルは同じく2。コインゾーンのコインは彩音が4。柊真が5だ。先攻は攻撃できないため、彩音の方が少ない。
彩音のバトルゾーンにはシルバーユニットの他にレベル2のユニットが一体。対して柊真のバトルゾーンにはシルバーユニット以外のユニットは存在していなかった。
・レベル3
・コストアイコン3
・――1)詠唱(3)、手札(2)を捨ててもよい。その場合、自分の山札の上から四枚見て、一枚を手札に、一枚をドロップゾーンに、一枚をバトルゾーンに置いてもよい(ただし招集できるユニットはレベル3以下)。残りは山札の下に置く。
――2)このユニットがアタックされた時、山札の上から一枚を公開してもよい。そのユニットがレベル3以上であれば、相手は手札を一枚捨てる。
・蛙蛇博士 アグビリオン 『夢幻魔術学院』、トードネイク
出現したのはとんがり帽子を被った顔がカエル、胴体が蛇の気色悪い生物だ。研究者なのか、白衣を肩に掛け――そもそも肩があるのかは知らないが――単眼鏡を右目に付けている。黄色の目の中には黒い点があり、白目はない。カエルだと言うのに蛇のようなシューシューという音を出しながら先が二つに分かれた舌を時折出し入れしている。
「そして招集。ダミアンを退却させて考察者 フギンを招集」
・レベル3
・――1)登場時、バトルゾーンのブラックユニットがこのユニットだけなら山札の上から二枚引いてもよい。
――2)詠唱(1)、手札(1)を捨ててもよい。その場合、自分の山札の上から四枚を見て、一枚を手札に加えても良い。残りは山札の下に置く。
・考察者 フギン 『夢幻魔術学院』、クロウマン
ダミアンと呼ばれたとんがり帽子を被った魔術師が消え、代わりに中折れ帽子を被ったカラス人間が出現した。頭部だけはカラスで、それ以外は完全に人のそれだ。黒いトレンチコートを来ているのもその見た目からか、よく似合っている。
しかし、『八咫烏』の鴉の様な威圧感などはなく、その辺で見かけるカラス程度の親近感くらいしか柊真は覚えなかった。
「まず、フギンの登場時の能力を解決。フギン以外のブラックユニットがいないので、山札の上から二枚ドロー」
カードを二枚引き、さらに彩音は続ける。
「そして!アグビリオンの詠唱。手札を二枚捨て、山札の上から四枚を見る。そして一枚を手札、一枚をドロップゾーン、一枚をバトルゾーンへそれぞれ移動。残った一枚は山札の下へ。バトルゾーンにを招集」
今さっき引いたばかりのカードをもう捨て、綾音はアグビリオンの能力を発動させる。アグビリオンの双眸が青白い光を放ち、空色の円形の魔法陣を三つ、生成する。
そしてその中の一つから中国の官僚が着ているかのような少し腹部が強調された服を着た、面を被った人影がその姿を現した。
・レベル2
・――あなたのブラックユニットがアタックする時、そのブラックユニットのレベル+1。
・巫術師 シュライク 『夢幻魔術学院』、アークヒューマン
「どーお?『夢幻魔術学院』の固有能力、詠唱!この能力ってすごく便利だよねー。手札二枚消費するだけで色々できちゃうんだもん。手札も増えるし、ユニットも招集できる。それに、ドロップゾーンも肥やせるしね」
ニタリと微笑を浮かべて、彩音はさらに次の行動に入る。再び手札を捨て、彼女は今度はフギンの詠唱の能力を使った。フギンの能力はアビグリオンのものと比べれば比べるまでもない脆弱なものだが、手札を交換できる、と思えばかなりの有用性がある能力だと言えた。
しかし、能力を使われても柊真の目には焦りはなかった。今綾音が行っているのは『夢幻魔術学院』という軍団の常套戦術だし、使っているカードもショップで購入できるものばかりだからだ。
つまり、まだ彩音がゲートユニットを使っていないこの状況が彼にとっての気がかりなのだ。いくら彩音がユニットを展開しようが、防御に特化した『星海騎士団』ならば、いくらでも返し手はあるのだから。
「さてさて、それじゃぁ、そろそろ攻撃に移ろっかな。まずはフギンでアタック。同時にシュライクの能力発動。フギンのレベルを+1。やっちゃえ、フギン!」
フギンの手の平から炎の塊が生成され、勢い良く柊真のシルバーユニットに向かって放たれた。その攻撃を湯人はノーガードと宣言してそのまま通す。
「ふーん?じゃ、アビグリオンもやっちゃえ!」
「ノーガードだ」
「おやー?手札が充実してないのはわかるけど、そこまでかなー?そんなんじゃ私の次のターンの猛攻を防ぎきれないぞー?」
神経を逆撫でするような言葉を綾音は投げつけるが、柊真はどこ吹く風、とばかりに平然とスルーする。ただ自分のプレイを実行する当たり、長年このゲームを行ってきたものの貫禄がなくもない。
コインゾーンからコインが二枚消され、セーブゾーンへと移動した。その二枚のコインを冷たい目で眺めつつ、柊真は山札の上から一枚引く。
「ドロー。そして起床。進化、勇敢なる勇者 クロード』




