10月21日――久城彩音②
そして三人は呆けているかなえを放って、彩音に押されるまま食堂に連れてこられた。折角学校を出たちうのにまた学校に戻ってきてしまったわけだ。
「それじゃ、本題に入ろっか?」
「本題って?」
しらばっくれる柊真に瞳孔を大きく開いて遊波は小首を傾げてみせる。その仕草が彼女の見た目と相まって可愛く見えなくもなかったが、異質だと思っている湯人からすればただそう振る舞っているだけにしか見えなかった。
「もちろん、キミらのどっちがぁ私とバトルしてくれるか、ということだよ。私はどっちでもいいんだけどさー」
「ふざけているのか?少なくともさっきのかなえとかいうのを見る限り、お前とバトルするのは不味いだろ。俺の相棒もお前とは戦うな、とか言ってるしな」
即断で彩音の提案を柊真は断った。別にクロードは戦うな、とは言ってはいないが、ここは敢えてダシに使おうと柊真は考えてその名前を出した。ユニットが反対している、と言えば向こうも鉾を収めてくれるかもしれない、という淡い希望があったのことだ。
しかし、そんな物分りのよい相手ならばそもそもバトルしようなどという話は持ち込まないはずだ。
「そんなの、どうでもいいじゃん。私はただぁ、バトルしようって言ってるだけだよ?キミがバトルするかどうかはキミのゲートユニットのさじ加減なわけ?それってただの奴隷よりもヤバイよ?自由意志のある奴隷とか矛盾していてほんとウケるんですけど……くぅ」
「上げ足でも取ったつもりか?俺自身もお前と戦うべきじゃない、とその前に言ったはずだ。お前のゲートユニットがどんなものかは知らないが、やばいことは理解できるからな」
それだけじゃない。
ここで負ければ、柊真は黒星を一つ作ることになる。それも二つ目の黒星だ。まだ三つチャンスが残されているとはいえ、ペナルティーに近づくことは避けたい。
「キミは?」
柊真の主張は崩せないな、と判断した彩音は今度は湯人に攻撃先を変更した。後輩なら先輩に少しは気を遣うだろう、と思ってちょっとだけ色目も使ってみる。
しかし、湯人はいつもの調子で……
「お断りします。俺は純粋に黒星を作ることが嫌なので……」
「おやおやー。初心者君だけどもうペナルティーについてくらいは知っていた、か。これは困ったな。私としては早く願いを叶えたいんだけどなー」
「なー、と言われてもバトルをやるやらないは個人の自由で……」
「個人の自由?」
湯人が何気なく呟いたその一言に彩音は反応した。これまでのほんわかぽわぽわしていた雰囲気が掻き消え、彼女を取り巻く空気が冷たくなった。
「個人の自由なんてもの、この世界には存在しないよ。自由っていうのは責任が伴わないふざけたものなんだからね」
どこか語気が荒くなり、彼女の目の色が変わった。よほど自由というフレーズに良い思い入れがないのだろう、ということはなんとなくだが湯人にも察することができた。
「それにさ、ここから無事に帰れると思ってるの?」
「は?どういう……」
柊真が聞くより先に彩音はスマホを取り出し、パシャパシャと三人の写真を撮る。それ自体もかなり問題だったが、それよりもさらに不味かったのは次に彼女がした行動だった。
『この三人のうち、真ん中の人と右隣の人はプレイヤー』
というフレーズ付きの写真を三人に見せるようにして彩音はかざしてみせる。
「この写真、ネットの掲示板とかに流したらどうなるんだろうね?」
当然、ただ個人情報が流出するだけでは済まされない。プレイヤーという言葉の意味を知っている人間からすれば、探す手間が省けた、ということになる。
「俺らを不特定多数のプレイヤーに売りつけるつもりか?」
「それが嫌ならバトルしようよ?簡単でしょ?ただ、キミは私と戦ってくれればそれでいいんだよ」
完全なブラックメールだが、今ここでそのことを糾弾しても意味なんて存在しない。むしろ、彩音の増長を誘って、彼女が送信ボタンを押してしまうかもしれない。
「じゃぁ、俺がやろう。その代わり、俺が勝ったら写真とか消せよ?」
「うーん、そうだねー。うーん……オーケー。もし、キミが私勝てたら、ね」
「「フィールド・コール。ラン・ナウ」」
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