10月20日――オフィーの墓地④
・レベル4
・コストアイコン4
・――1)神隠し(6)手札(4)を捨ててもよい。その場合、相手の山札の上から六枚を表向きでゲームから除外する。
――2)コイン(1)、セーブゾーンのコインをこのユニットの上に乗せてもよい。その場合、相手のシルバーユニットのレベル分、山札の上からカードを表向きのままゲームから除外する。
・黒司 ヤギョウガラス 『八咫烏』、エルダーレイブン
さらに一対の黒翼がマガツガラスから出現する。体は二回りも巨大化し、胸元の毛もより分厚さを増した。イラストを遥かに超えるそのインパクト、紫色の首飾りは怪しげな光を帯び、三本の足の鉤爪は鋼鉄と化した。赤く、血を求める邪な瞳はゴルゴーンの視線の様に視界に入れたものをすくませる。口元に歪な笑みを浮かべ、その鴉は耳障りな鳴き声を上げた。
『ケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶ!!出たわぁ!ついに出たわぁ!禍津神の代行者がぁ!』
ここぞとばかりにヤギョウガラスの出現を喜んで、ジュリエットの声が木霊した。彼女の姿こそ存在しないが、意識ははっきりと湯人と蛍助の脳に介入していた。その異常なテンションに蛍助は少し驚くが、すぐに眼前の禍々しいまでのオーラを発している鴉への警戒を強めた。
「招集、黒将」
続けて湯人は手札からブラックユニットを招集する。
・レベル4
・――1)このユニットのアタックがヒットした時、あなたのシルバーユニットがレベル4以上ならシルバーユニットのレベル+1。
――2)このユニットが相手ユニットの能力あるいは攻撃で退却した時、このユニット以外のドロップゾーンのカードをすべて山札に加え、シャッフルしてもよい。その後、五枚ドローする。
・黒将 『八咫烏』、アークヒューマン
招集されたのは黒鎧を着た、瞳のない武将。腰には大太刀を履き、隣に立つヤギョウガラスにも負けないだけの圧を放っている。同格のレベル4というユニットだけのことはある。
しかも、湯人の手札はまだ四枚残っている。それはつまり、ヤギョウガラスの能力を発動することができる、ということだ。
「まず、ヤギョウガラスの神隠しを発動!手札を四枚捨て、神隠し(6)の能力、蛍助君の山札の上から六枚をゲームから除外しろ」
奥歯を噛みながら言われたとおりに蛍助は山札の上から六枚、カードを除外する。レベル4やレベル2など色々なレベルのユニットがデッキから除外されていく。その光景を見ながら、蛍助は改めてこの能力の厄介さを痛感していた。
ドロップゾーンからカードを回収するユニットはざらにいる。しかし、ゲームから除外されたカードはどうあがいても回収できない。例え、すべてのゾーンのブラックユニットを山札に入れシャッフルする、などというカードがあっても無駄だ。
除外されたカードはさらに増えるかもしれない。……怖い、と思った。
泥沼にハマったかのようだ。
「そして。ここで俺のヤギョウガラスのコインアビリティーを使わせてもらう」
その言葉に蛍助は息を呑む。通常時の能力でも十分強力なヤギョウガラスの能力、そのコインアビリティーともなれば警戒し、また畏怖するのはプレイヤーとしては当然だった。
「コインコール、だったか?ヤギョウガラスによるこれが報復だ。相手のシルバーユニットのレベル分、デッキからカードを除外させてもらう」
「レベル分!?」
流石に瞳孔を見開いて驚いてしまう。デッキ破壊なら似たような効果を持ってカードはあるが、レベル分デッキからカードをゲームから除外する、というのははっきり言えばかなりの反則技だ。後攻なら、ほぼ確実に四枚消せるし、先行でも三枚消すことができる。本来の能力と組み合わせれば、1ターンで九枚、下手をすれば十枚のカードを消すことができる。
「さぁ!」
「クソ……手札がほぼないってのに……」
デッキから四枚除外され、すでにデッキから、ゲームから除外されたカードの枚数は十六枚に及ぶ。その中にはレベル4のカードまであった。
「黒鎧でそっちのコアラオブコアラにアタック」
「は?……ノーガード」
黒将から抜き放たれた大太刀でコアラオブコアラの柔らかい体は一刀両断された。絶叫も上げずに紫色の粒子になってコアラオブコアラの体が消えていく。
「黒将の能力発動。このユニットのアタックがヒットしたので、自分のシルバーユニットのレベル+1」
「それがどうした?どうせ防御する気なんてないんです。むしろ、そちらが手の内を明かしてくれて感謝ですよ!」
ターンエンドを宣言されて蛍助はほくそ笑む。今、彼の手札は二枚だ。ロンドの一つ目の能力を発動させてることはできない。しかしそのアテくらいはある。だから手札を使わなかったんだ。ここで楽呪を発動させてしまえば相手は打つ手をなくす。しかも、能力が少しウザいあの黒将とかいうユニットさえ退却させてしまえば、あとはただ防御に徹すればいいだけ。幸い、向こうは防御の手段をすべて失ってくれた。馬鹿め、と笑いながら蛍助はドローと起床をさせる。
「もう一度、コアラオブコアラを招集」
・レベル3
・――アタック時、あなたのバトルゾーンにレベル4以上のシルバーユニットがいれば、レベル+1。
・コアラオブコアラ 『ダンシングテディース』、ジャイアントドール
「そしてハッピーマネキンドールもついでに招集」
・レベル3
・――1)自分のブラックユニットがアタックする時、あなたのシルバーユニットがレベル3以上ならアタックしているブラックユニットのレベル+1。
・――2)登場時、あなたの手札が一枚以下なら、山札の上から一枚を表向きにしてそのユニットのレベル分山札の上から引く。
・ハッピーマネキンドール 『ダンシングテディース』、リビングドール
コアラオブコアラの後ろに立ったのはもうまんまマネキンのカクカクとした動きをするユニットだ。身に何も付けていない上に、女性のマネキンなのだからなお質が悪い。乳首や下腹部などがないからまだいいが、健康な成人男性には少し刺激的にすぎる。
ハッピーマネキンドールの能力によって山札の上から見えたのはレベル3のユニット。よって蛍助は四枚回収することができた。
「さぁ、始めよう!楽呪(2)発動!石川さん、貴方のユニットをすべて退却、そして次の僕のターンの初めまで、貴方はブラックユニットをバトルゾーンに出すことができない!」
勢い良く溢れた黒い鎖で湯人のブラックユニットたちが蹴散らされていく。そして鎖は止まらずに湯人の右手に巻き付いた。今、彼は手札を一枚しか持っていないが、ひょっとしたら脅威かもしれないから縛っておく。
「ここでコインアビリティーを使ってもいいんですけど……ま、僕もそこまで鬼じゃありません。それに、手札が一枚もないんじゃ、割り切れないから能力使っても無駄なんですよね」
「ふーん。……いいこと聞いたなぁ」
冷静に、湯人は返す。楽呪の効果などまるで意に返さない、と言っているようだった。その態度が若干、腹立たしかった。もっと慌てさせてやる。そう思って蛍助がロンドで攻撃しようとした時だった。
「黒将の退却時の能力発動。黒将以外のドロップゾーンのカードをすべて山札に加えて、シャッフル。シャッフル終わったところで、五枚ドロー」
「……つ!、まぁいいですよ。ロンドでアタック!」
「ガード」
「コアラオブコアラでアタック!アタック時、自身の能力とハッピーマネキンドールの能力でレベル+2!」
「ノーガード」
守って削って。湯人の残りコインは一枚。セーブゾーンにはまだ三枚あるが、手札の状況を見てもこれ以上の攻防は不可能に思えた。
「ターンエンド」
対して蛍助には手札がない。手札をすべて使い切っての行動だ。防御用のカードはない。しかし、総攻撃をしたのは相手の手札が一枚しかないことを前提とした強行策だ。まさか、あの土壇場で手札補充の作戦があるなんて思いもよらなかった。
「俺のターン。ドロー、起床」
「進化……」
耳を疑った。
進化、と湯人が言ったからだ。
「まさか、レベル5!?」
状況として、ギャンブルに頼るのはわかる。でも、ここで、ありえない。
手札をすべて破棄することを前提として、進化することができるおよそプレイヤーの切り札、あるいは自爆覚悟の大技と言える。
蛍助もただの遊びとしてUnUniteでならよく使うが、こと本気で自分の望みを叶えたいこのバトルでは可能な限り避けていた。
それを使う?
「正気……ですか?」
『正気?ケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶ!!こんなバトルに参加している時点で正気なんて倫理は理解の外、さ』
茶化すようにジュリエットが笑う。
「黒皇 キンウ・コクギョウ」
その鴉の登場で、ジュリエットの笑い声は掻き消え、蛍助は無様に敗北を思い知らされた。
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