10月20日――オフィーの墓地③
二対の黒翼を跳ね上げて、邪悪な鴉は咆哮する。空気が揺れ、墓場の薄い紫色の霧が迅風によって払われた。煌々と光るマガツガラスの瞳は眼前のジュリエットを見て、嫌らしく笑っているように見えた。
「マガツガラスの能力、神隠し(3)を発動。手札を三枚捨て、相手の山札の上から三枚をゲームから除外!」
「うわお!随分と嫌な能力ですね。僕のジュリエットの楽呪とどっこいどっこいな能力じゃないですか。ま、ちょっとだけ運要素がありますけどねぇ」
能力に従い、蛍助は山札の上から三枚を開帳する。表れたのはレベル2のカードが二枚、レベル3のカードが一枚。レベル2を見た時は別に感慨もなさそうに見つめていたが、レベル3のカードが落ちた時は初めて蛍助の眼光が見開かれた。
「お、何かあったか?」
『ケヶケヶケヶケヶ。こいつが必要としてたユニットが落ちちゃったのよ』
「黙っていてくれませんか?僕の愛しのジュリエット。ねぇ、君は僕を負けにしたいの?僕の願いを……」
『黙っててやるさ。あたしを……』
やや険悪なムードの二人を放置して、湯人はそのまま攻撃に入る。招集ができない以上、こうする他彼にはやることがなかった。
「マガツガラスでジュリエットにアタック!」
「ん……」
そこで蛍助は少し考える。このままマガツガラスの攻撃を受けていいものか、と。先のターンにラビットくんで手札を補充しているとはいえ、次のユニットの進化に必要なコストの確保のためには……。追撃はないにしろ、これでは次のターンの動きを阻害する可能性があった。それに……
「コインを貯めるのも得策、ですね。――ノーガード!」
『ケヶケヶケヶケヶケヶケヶ!そいつぁ、失敗さ!……げへぉ!』
マガツガラスの三本の鉤爪がジュリエットの腹をクリーンヒットした。ジュリエットの体がカードの上から吹き飛び、シールゾーン一歩手前までそのボロボロの体が転がった。
『おおぉ、痛ー。ちょっとちょっと、あたしの扱い酷くなーい?蛍ちゃんもちゃんとガードしてよ!』
「うるさいですよ?手札を無駄に使うわけには行かないんです。レベル3ともなればレベル4がない限り、カード一枚では防げませんよ。ここはノーガードが得策なんですよ」
『ブーブー!』
存外、ジュリエットは饒舌だった。あるいは見た目通り、と言うべきなのかもしれない。とにかく、かなりおしゃべりなユニットだった。
「マガツガラスの能力発動。このユニットのアタックがヒットした時、手札の枚数ドロップゾーンからブラックユニットのカードを回収」
「つ、やっぱりガードしておけば……」
『哀れだねー。ケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶケヶ!』
「死んで下さい」
手札の枚数、つまり六枚までブラックユニットカードを回収して湯人はターンを終了した。続いて蛍助のターンになるが、正直かなり迷っていた。
ドローし起床させるが、ここからが問題だった。手札は五枚。しかも、その中にレベル4のユニットはなかった。
組み合わせれば総合値はレベル4になる。手札が三枚に減る、というリスクに目を瞑れば実行してもいい。ガードユニットも残さなければならない。実行すれば能力を使うことはできない……。少なくとも手札を消費するタイプの能力は。
「コストを払って、進化!見えず喋らずのロンド!」
・レベル4
・コストアイコン4
・――1)楽呪(2)、手札(4)捨ててもよい。その場合、相手はバトルゾーンのブラックユニットをすべて退却させ、次のあなたのターンの初めまでブラックユニットを招集できない。
・――2)コイン(1)、セーブゾーンよりコインをこのユニットの上に置いてもよい。その場合、相手の手札の半分をドロップゾーンに置く。
・見えず喋らずのロンド 『ダンシングテディース』、ワークドール
ジュリエットの体が膨らみ、爆ぜる。アーティクルドールの体はすでになく、無数の陶器の破片が転がっていた。そしてその中から黒いゼリー状の塊が表れた。
その塊はジュリエット同様に膨らむと、限界点で決壊した。墨汁の様な黒い液体が流れ出し、バトルゾーンに溢れていく。黒い光沢のあるその液体はドロドロとバトルゾーンを覆っていき、直に止まった。
その中から黒いドレスに身を包んだ貴婦人の人形が現れる。顔はジュリエットや、それよりも前のエーデルワイスなんかと同じ作り、ただしボタンの目玉だけはない。黒い髪の毛で目のある箇所は覆われ、裂けた口だけが見えた。ドレスは豪奢なもので、エーデルワイスのそれに+αといったところだ。
「招集、コアラオブコアラ」
・レベル3
・――アタック時、あなたのバトルゾーンにレベル4以上のシルバーユニットがいれば、レベル+1。
・コアラオブコアラ 『ダンシングテディース』、ジャイアントドール
ピンク色のコアラのぬいぐるみ、それもかなり可愛らしいぬいぐるみが出現した。目玉は相変わらずボタンだが、愛らしいまでの愛くるしさを持っている。SUPERキュート!!などと言ってもいい。
「さぁ、ここから僕のダンスの始まりさ。レベル4の恐ろしさを見せてやる。コイン、コール!」
セーブゾーンに置いてあったコインを一枚、蛍助はロンドの上に置いた。
「コインがコールされたので、レベル4の能力が発動させてもらう。湯人さん、貴方は手札を半分、捨てて下さい」
さっきまでは十二枚だった手札は一瞬で六枚にまで減った。マガツガラスの能力は無駄になった、だけではない。回収できるカードが手札の枚数よりも少なかったので、状況はさらに悪くなった。
でも、まだ大丈夫。
捨てるカードが選べる以上、あまり価値のないレベル1や2のカードを捨てていく。結果、彼の手札にはレベル2とレベル3のユニットばかりになった。
「どうだ?これが僕のロンドのコインアビリティー!貴方は一瞬で手札を半分なくす!これがレベル4!さぁ、蹂躙です。まずはコアラオブコアラでアタック時。アタック時、自分のシルバーユニットのレベルが4以上なので、レベル+1!」
「ノーガード!」
コアラオブコアラの豪腕がマガツガラスの右頬にいいジャブをかました。ゲホ、と吐き捨てるように血反吐をこぼした。
「さらに、ロンドでアタック!」
「結界術師 凰ナでガード!」
・レベル3
・――ガード時、このユニットのレベルを+3してもよい。
・結界術師 凰ナ 『八咫烏』、ヒューマン
手札からレベル3のカードを捨て、ロンドの攻撃を湯人はガードした。黒い、黒曜石のような鮮やかな水晶の障壁がロンドの歪なオーラによる攻撃を防いだ。
「ちっ、……ターンエンド……」
「ドロー。起床」
「じゃぁ、俺も使わせてもらうぞ。レベル4をな」
手札からレベル4のユニットを捨て、湯人はシールゾーンのカードを一枚、開帳する。
「黒翼をなびかせ、眼下を畏れさせよ。黒司 ヤギョウガラス!」




