10月20日――オフィーの墓地②
「僕のターンですね。ドロー。お、ちょい早、かな」
意味ありげに笑いながら蛍助はシールゾーンからシルバーユニットを一枚、バトルゾーンのシルバーユニットの上に重ねた。
「進化、踊り狂え!僕の美の結晶!サクラ人形 ジュリエット!」
・レベル3
・コストアイコン3
・――1)楽呪(1)、手札(3)を捨ててもよい。その場合、次のあなたのターンの初めまで、自分のブラックユニットを招集できない。
――2)このユニットがアタックされた時、山札の上から二枚引いてもよい。
・サクラ人形 ジュリエット 『ダンシングテディース』、リビングドール
エーデルワイスの体が小刻みに震え始める。そして、整えられた髪の毛がいきなり暴発し始めた。ケラケラと不気味な雄叫びを上げ、イラストとは似ても似つかない、ひどい姿へと変貌した。足は足首までなくなり、イラストではドレスはすでにボロボロだったが、実際にその場にあってはもはや比べるまでもない。より一層ほつれや汚れが目立ち、人形の本体も傷がつき、剥がれていた。
見るも無残なその姿に、湯人は少なからず恐怖を憶えたあんな汚らしい人形、彼は見たことがない。服が治されているからかなり大事にされていたことは伺えるが、それでもあんな形になった、ということは、結局捨てられたのだろう。その時の人形の恨みはいかばかりだっただろうか?当然、その持ち主を憎んだ、と思った。
『ケヶケヶケヶケヶケヶケヶ。おいやぁ、こりゃ、おやおやおやおやおや!まさかまさかまーさーかー!なんて珍しい軍団なんでしょうかねーぇ?』
突然、湯人の脳裏にささやき声が聞こえた。それは脳みそをヤツメウナギが掘り進めているような、そんな声で、無性に悪寒を感じた。
「なんだ……?誰の声?」
突然の声に湯人は困惑していた。確かにヤギョウガラスが話しかけてくる時の感覚と似ていたが、これはその時のものではない。もっと、異質な感覚だ。
『ジュリエット……!貴様!』
そしてその脳裏のささやき声を跳ね返すようにしてヤギョウガラスの声が飛び込んできた。その声は明らかに驚きが表れている。
「ん?ひょっとしてジュリエットの知り合い?僕の知らないユニットなのに?」
『ケヶケヶケヶケヶケヶケヶ。なぁに?ヤギョウガラスのこと知りたいん?もー、せっかちー。でもんね、蛍ちゃんにはまだ教えられないかなぁ』
「はぁ?……ま、じゃぁ僕があのユニットに勝ったら教えて下さいよ」
『……勝てればね?』
「言ってろ……。招集、煌く星のラビットくん」
・レベル3
・――1)登場時、手札を一枚公開することで、相手のブラックユニットを一体退却できる。
――2)登場時、自分のバトルゾーンのブラックユニットが三枚以下の時、山札の上から三枚を引いても良い。
・煌く星のラビットくん 『ダンシングテディース』、ジャイアントドール
苛立ちのまま、招集されたのはフランソワーズと同じくらいの大きさのうさぎの人形。お約束のピンクに、よく整ったほつれもない新品同然の体を持っている。これまでの『ダンシングテディース』のユニットとは打って変わって恨みなんて一つも抱いていなさそうな人形だ。
「まずはラビットくんの登場時の能力、手札を公開!そしてあなたの異ヅンを退却!」
公開されたのはレベル1の雑魚ユニット。見せても別に問題はないユニットだ。それに、邪魔なブラックユニットを消すこともできる。つまり、ほぼノーリスクで相手の戦力を削れるわけだ。
「さらに、バトルゾーンのブラックユニットが三枚以下なので、三枚ドロー」
条件緩めの鬼畜な能力だ。登場時、ということもあって即座に手札補充ができる。お陰で蛍助の手札は一気に枚にまで増えた。
「じゃ、ここから僕のジュリエットの能力を見せてあげるよ!手札を三枚捨て、能力発動!楽呪!」
突如、ジュリエットの周りから灰色の鎖が出現した。鎖は無限の長さまで伸び、湯人の手札にがんじがらめになっていく。あまりの出来事に湯人は目の前の出来事を疑った。
この状況はまるで手札の使用を封じているようではないか、と思った。
「楽呪の能力によって、次の僕のターンの初めまで、貴方はブラックユニットを招集することはできない!」
「そんなの……あり?」
「そういう効果なんですよ。それに、僕のターンはまだ続いていますよ?まずはラビットくんでアタック!」
ノーガードを宣言し、湯人は攻撃を受ける。アカメメイゲツの体を柔らかそうなラビットくんの拳が貫いた。コインゾーンのコインが一枚、セーブゾーンへと移動した。
「さらに、僕の麗しのジュリエット!あの鳥を潰せ!」
続けてジュリエットが攻撃を開始する。今回もノーガード。ユニットで手札を増やすことができない以上、今ある手札が八枚とはいえ、節約することは重要だ。
1ターンで湯人のコインは三枚にまで減り、アカメメイゲツは苦悶――そもそも鳥だから顔の表情がわからないが――の表情を浮かべた。
「ドロー。起床」
とりあえず進化前までの動作をして、湯人は考えた。このままただアカメメイゲツをマガツガラスに進化させていいものか、と。マガツガラスの能力を使えば一気に手札が六枚に減ってしまう。それに、あのデッキとしてはたった三枚のデッキアウトなど苦ともしないだろう。
初回ドロー以外で手札を補充する手段はない以上、ここは相手が親切に手札の消費を気にしてノーガードを宣言してもらうしかなかった。
「進化、黒公卿 マガツガラス!」
・レベル3
・コストアイコン3
・――1)神隠し(3)自分の手札(3)を捨てた場合、相手の山札の上から三枚をゲーム上から除外する。
――2)このユニットがアタックがヒットした時、自分の手札の枚数分ドロップゾーンのブラックユニットを回収できる。
・黒公卿 マガツガラス 『八咫烏』、アークレイブン




