10月20日――オフィーの墓地
光が二人の中心で弾け、一瞬して景色を一変させていく。
現れたのは古びた墓場の近く。紫色の雲が宙を漂い、天上には金色の三日月が浮かんでいる。墓場の近くではモヤが這いずり回り、ケタケタと怪しげな笑い声が絶えず耳に入ってくる。墓場に生えている木は顔があるように見え、墓石の文字はすり減って見ることができない。
そんな陰湿、不吉な場所が今回のバトルの舞台だ。
「どうですか?結構いいフィールドを引き当てたでしょう?」
「そうかもな」
適当に返して湯人は改めてフィールドを見渡す。そして気づいたのが、二人の中間地点にこの前の柊真とのバトルでは存在しなかった、巨大な天秤があることだった。天秤はゆっくりと左右の秤を揺らし、少年の側へと傾いた。
「お、僕が先行ですか。じゃ、遠慮なく……」
「ちょっと待て」
スタートの合図として裏向きにしてあったシルバーユニットをめくろうとする少年に湯人はストップをかける。出鼻をくじかれて少年は見た目不機嫌そうな顔をするが、湯人は気にしないで話を続ける。
「まだ俺は君の名前を聞いていないんだけど」
それは人が人と接するときにすることとして、極々当たり前のことだったが今の少年にはそんなアタリマエのことが酷くアホらしく感じられた。
「っふ、そんなことで……。――蜜萩蛍助です」
「俺は、石川湯人だ。出鼻をくじいて悪かったな。じゃ、始めよう。ウォースタート、黒鴉 アカメ」
「ウォースタート、関節壊れのグリム」
・レベル1
・コストアイコンなし
・――このユニットが進化した時、山札の上から二枚引く。
・黒鴉 アカメ 『八咫烏』、アニマル
・レベル1
・コストアイコンなし
・――このユニットが進化した時、山札の上から二枚引く。
・関節壊れのグリム 『ダンシングテディース』、ワークドール
アカメは機能も見せた縮こまった姿、対してグリムは糸人形の様な体をしてユニットだった。体中の糸が力なく垂れ、関節は丸まって緩くなっている。顔はピノキオなどにそっくりで、さっき蛍助が見せたジュリエットと同じボタンの目玉を持っていた。
「まずは僕のターン、ドロー。そして進化。肩上がりのエーデルワイス」
互いのユニットが現れたことを確認して蛍助は自分の行動を始める。そして早速コストを払って進化させた。
・レベル2
・コストアイコン2
・――自分のターン、このユニットが攻撃しなかった場合、手札のレベル3以下のユニットを招集してもよい。
・肩上がりのエーデルワイス 『ダンシングテディース』、ワークドール
グリムの姿がカタカタと音を上げて変わっていく。坊主頭だった頭部から急激に金髪の長髪が湧き出て、だらりと下げていた頭がスイッチでも入ったかのように持ち上がる。隠すものもなく、関節などが丸見えだった体を覆う豪奢なドレスが現れ、その身を包んだ。あっという間にグリムの寂れた姿は消え、そこには一体の姫様人形が登場した。
ただ、関節が緩いので立ち上がれないのか、肩から上だけが囚人の様に持ち上げられていた。
肩上がりとは面白いな、と湯人はほくそ笑む。見ていて何か面白いユニットだし、能力がわからないからその能力を予測する楽しみもある。端的に表せば、ワクワクしていた。
「先行は攻撃できないませんからね。ターンエンドです」
エンドコールを聞いて湯人はゆっくりと山札の上に手を伸ばそうとした。その時、
「エーデルワイスのエンド時の能力発動!このユニットがこのターン、攻撃しなかったので、手札からレベル3以下のユニットを一体、招集することができます!」
「マジかよ」
目を見開いて湯人は驚く。そんな招集の仕方もあるのか、と警戒するよりも先に好奇心が勝った。警戒しよう、と思ったのは当のレベル3以下のユニットが招集された後だ。
「僕が招集するのはこいつ、片目がほつれたフランソワーズ。レベル3ユニットです」
・レベル3
・――このユニットがアタックした時、山札の上から一枚めくる。そのユニットがレベル3以下であれば、相手のユニットを一体退却させる。
・片目がほつれたフランソワーズ 『ダンシングテディース』、ジャイアントドール
巨大なくまの人形がエーデルワイスの隣に現れた。片目のボタンがほつれ、細い糸がギリギリボタンと人形をつなぎとめている。茶色の柔らかそうな外見といい、小さい頃に子供が親に買ってとせがむ大きなくまの人形、テディーベアそのものだった。
のっしのっしとエーデルワイスの隣まで歩いてくると、手慣れた手つきでエーデルワイスをその巨体の上にふんわりと乗せた。
ちょっと、緊張感を奪われる光景だが、気を取り直して湯人は自分のターンを始める。
「ドロー。コストを払って進化、黒凪 アカメメイゲツ」
・レベル2
・コストアイコン2
・――このユニットのアタックがヒットした時、二枚ドローできる。
・黒凪 アカメメイゲツ 『八咫烏』、レイブン
いつも通りの気持ち悪い登場の仕方で、巨大な鴉がその姿を表した。相変わらずの気味の悪い外見は、愛らしい相手ユニットと比べるとこちらが悪者の様に見えてしまっていた。
「『八咫烏』?聞いたことのないユニット、ですね。ひょっとして新しいユニットなのか?」
疑問を口にする蛍助をよそに湯人はテキパキと自分のターンを続ける。
「招集、黒祈祷師 異ヅン」
・レベル2
・――このユニットが登場した時、あなたのシルバーユニットがレベル2以上なら、山札を三枚めくり、レベル2以下のユニットを一体、手札に加えても良い。その後、めくったカードを山札の下に置く。
・黒祈祷師 異ヅン 『八咫烏』、ヒューマン
ここまでは昨日と同じ流れ、アカメと異ヅンの能力で三枚ドロー。しかし、ここから先が新しく『流れ人』を加えた湯人のデッキの新しい流れだ。
「さらに、フード・マイスターを招集!」
・レベル2
・――登場時、手札が五枚以上なら二枚ドローする。
・フード・マイスター 『流れ人』、ヒューマン
登場したのはフードを深く被った男のユニットだ。放浪者、と呼ばれながら荒野をさまよう姿を連想させるユニットで、砂漠にいればよりお似合いだ。ちなみにフードは、foodではなくhoodの方だ。
能力によって二枚ドローし、湯人はアカメメイゲツで攻撃をする。蛍助が選んだのはノーガード。手札が少ないから温存する腹なのだろう。それで湯人はアカメメイゲツの能力で二枚引いてターンエンド、蛍助にターンを譲った。
このターンで一気に湯人の手札は九枚まで増えた。スタートターンとしてはいい流れだった。




