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UnUnite  作者: 賀田 希道
Player/Prayer RuNs
13/39

10月19日夕方

 「ごめんな!」

 廃ビルを出てすぐ、柊真は拝むように謝った。腰を直角に曲げ、どこの大病院の看護師だよ、と湯人に思わせる形の盛大な謝り方だった。


 「別に……気にしてはいないけど。というか、さっきのは?」

 「バトルが強制終了された奴か?あれは向こうの星とのリンクが切れたことを示しているんだ。乱入者、さっきのおっさんみたいな、外部からの接触をされるとこの星とあの星のリンクが切れちまうんだ。俺も何度か同じ目に遭ったけどさ、やっぱりかなり不快だよな」


 「そうだね。俺、かなり熱中してたから、興ざめ、かな」

 「だろ?またどっか別の場所でやってもいいんだが……。まだ時間あるか?」

 「ごめん、俺これから塾いかなくちゃいけなくて」

 「うわっ、そいつは悪いことしたな。そういうことなら……よし!明日またやろう」


 「おい、ちょっと柊真よぉ。お前少し自重しろって。叶えたい願いがあるか知らないけどさ、あんまり無理すんなよ。俺は見てるくらいしかできないけどさ、かなり神経使うだろ?」

 しかし、柊真の提案をすずきは否定する。友人として見ていたすずきが反論することに驚いた柊真は小首を傾げた。


 「問題ないね。俺もクロードも常に前回だからな。あ、そうだすずき。帰りにカードショップ行かね?この前新弾のボックス入った、とか言ってたじゃん」

 「うげ、お前またボックス買うのかよ。少しは自重すれば?これだからブルジョワは」


 んだと?、と柊真は顔をしかめるが、すずきはヒューヒューと穴の空いた口笛を吹いて誤魔化す。その様子を見送りながら、湯人は廃ビルの前からそそくさと立ち去った。



 湯人がいなくなったことを確認すると、はー、と柊真は大きくため息をついた。それが演技ではなく、心からの盛大なため息だったことはすずきには容易に理解できた。

 「いや、マジか。あれが初心者とかふざけすぎているだろ……」

 漏れた友人の声には明らかな焦燥があった。さっきまでとは打って変わって言葉もそうだが、肉体的にも疲れている様に感ぜられた。


 「いつものか?」

 「ああ。俺の持病さ」

 「生まれつき心臓が悪いんだっけ?その体でよくあんな神経をすり減らすようなバトルをやろう、とか言えたな。俺なら百パー無理だね」


 やれやれとやれやれとばかりに首を振るすずきに、柊真は白い歯をむき出しにして笑いかける。

 「でも、今回は収穫があったさ。石川湯人、あいつは強くなる。そして、恐らくは夢を叶えるはずだ。だから、そういう強い奴には可能な限り近づかない。マーキングってのはとても重要だ。間違って負けて、それが

最悪につながることだってある」


 やややさぐれた笑みを浮かべながら柊真は続けた。

 「俺も、頑張らないとな。すずき、とりあえずこの金でUnUniteのボックスを二つくらい買ってきてくれないか?」

 そう言って柊真は自分の財布から諭吉と英世を一枚ずつ取り出した。信用がなければできない行為だ。


 「わかったよ。でも、本当に無理だけはするなよ?お前に死なれたら俺だって悲しいんだ。それに……」

 「言うなよ。――それにしても後何回勝てばいいんだろうな。俺が持病から解放されるまでにさ」

 悲しげにつぶやく柊真の姿を残して、すずきは暗い顔を落として最寄りのカードショップへと走った。


 『貴君の友は、まさに義に熱き若者だな』

 清らかで、高潔で、ハリのある優しい声。柊真の尊敬している勇者の声がすずきが去ると同時に、彼の脳裏に響いた。

 その声に柊真は薄く、微小を浮かべる。


 「俺には過ぎた友人さ。俺みたいな薄汚れた人間には、な」

 独り言を言っている、と思われないようにスマホを取り出し、画面を暗くしたまま、耳元に当てる。

 『薄汚れた?貴君が強者との戦いを可能な限り避けていることか?ワタシは貴君の判断は正しい、と考えているが?ワタシとて熟練と言われるまで何度も逃げたり、強者との戦いを回避したからな』


 「そういう問題じゃないのさ。俺はもっとキツイことをしてる」

 彼は今に至るまで、ほぼ一度も負けずに順当に勝利を拾ってきた。もちろん、何回か追い込まれたことはある。その時彼を救ってくれたのはドローの運と、培ってきた経験だ。だが、それは真実を言ってしまえば上辺だけのもの、ただメッキだ。


 彼がこれまで勝ちを拾ってきてこれたのは、心理戦、で空いての精神を揺さぶることができたからだ。対戦相手に恵まれたな、と今でも思っている。対戦中にちょっとだけ苦悶の表情を浮かべてみせると、何人かのプレイヤーは多少の躊躇を見せる。その瞬間を逃さず、持てる手札と場のユニットの能力、何より自分の相棒であるクロードを十全に駆使して勝利を勝ち取るのだ。


 「その俺がすずきみたいな奴や、湯人みたいなUnUnite初心者を騙していいのかね?」

 『それは、ワタシが答えるべき問題ではないな。貴君のことをワタシが貴君と呼ぶのは、貴君がまだその悪意の中に罪悪感を抱いているからだ。ワタシはむこうの星で貴君以上の悪を幾度となく見てきた。それに比べれば……』


 クロードは自虐的になっている自分の主を擁護しようとするが、その主がまたつぶやく。

 「悪には優劣なんてものはないさ。悪なら、なにしても悪なのさ。よく悪に勝てるのはそれを超える悪だ、とか言うけど、そいつは間違いさ。悪に勝った悪はその悪を超えたんじゃない。単純に運が良かったのさ。だから、俺がまだ倒されないのも運、クロードと会えたのも運、クロードが俺を擁護するのまた、運、だ。


 なぁ、クロード。俺はお前についてお前を使うに当たって色々調べた。だってお前は、UnUniteのゲームパッケージを飾る最強の勇者だからな。背景ストーリーなんてもう感涙ものさ。選ばれた勇者の少年、幾千もの戦いの果て、魔物を数多蹴散らした人の英雄。

 俺が使うには、お前は強すぎるよ」


 『だが、貴君の言葉を借りれば、これもまた運だ。悪意を持って貴君がバトルを繰り広げる、大いに結構。勝負事にはつきものだ。心理戦などはワタシもよくやった。相手を揺さぶり、相手の急所を一刺しで貫く。そう言えば、貴君の星には面白い言葉があったな、なんと言ったかな?いや、なかったか』

 「ないよ」


 若干天然が入った勇者様のセリフを一蹴して、柊真はすずきにメールしようとスマホのロックを解除した。


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