10月19日――初陣③
・レベル3
・コストアイコン3
・――1)神隠し(3)自分の手札(3)を捨てた場合、相手の山札の上から三枚をゲーム上から除外する。
――2)このユニットがアタックがヒットした時、自分の手札の枚数分ドロップゾーンのブラックユニットを回収できる。
・黒公卿 マガツガラス 『八咫烏』、アークレイブン
アカメメイゲツの羽の付け根が勢い良く隆起し、もう一対の黒翼が姿を現す。黒い羽を撒き散らし、体内の液体を所狭しとばらまいていく。
足は三本に増え、頭には銀色の冠を付けている。瞳は片方が肥大化し、爛々と輝いている。カラスらしからぬピンク色の舌を下品に出して、下卑た笑い声を上げた。
進化させた湯人ですらその異質さに眉を寄せるほどだ。いわんや他の柊真やすずきはもっとその気持ち悪い見た目に忌避感を覚えたことだろう。なにせ、絶えず不浄な言葉を吐き出しているかのような、そんな気持ち悪い気配があるのだ。絶えずカチン、カチン、と音を立てる鉤爪も三本に増えればより一層耳障りが悪くて、集中を切らす。
「招集、草履取り コハク」
・レベル2
・――自分のブラックユニットがシルバーユニットをアタックする時、手札(2)を払ってレベル+1してもよい。
・草履取り コハク 『八咫烏』、ヒューマン
現れたのは平安貴族の服装に身を包んだ少年だ。どこか猿に似た顔をしていて、草履取り、というフレーズから豊臣秀吉を連想させる。コハクをアカメメイゲツの後ろへと配置し、湯人は次の手を打つ。
「さらに招集、祀面 ヤキョウ」
・レベル3
・――1)登場時、各プレイヤーは山札から三枚、公開した状態でドローする。
――2)自分の手札が十枚以上ある時、このユニットを退却させることで自分シルバーユニットのダメージ量をそのターン+1。
・祀面 ヤキョウ 『八咫烏』、アーティクル
さらに手札を消費するかのように登場したのは能面の翁を思わせるユニットだ。歪な笑顔を浮かべて、対戦相手の集中力を削ぐようなイメージがある。
キヒ、キヒ、キヒ、と気味の悪い笑みを浮かべ、動かないはずの口の中から歯音を鳴らす。祭事に使うのだろうが、誰もこんな気味の悪い面は使いたがらないだろう。
「まずはヤキョウの能力、各プレイヤーは山札から三枚ドロー」
言われたとおり、柊真は三枚、公開した状態でドローする。彼が引いたのは、ドレイク=ジャン、そしてイノセント・ナイトが二枚だ。彼からすればこれで手札を補充できたわけだから、この能力はむしろ美味しい。だが、相手の今の手札を見た後だとその気持ちは失せてくる。
今の湯人の手札は九枚、手札六枚の柊真と違って、圧倒的に防御も攻撃も有利だ。
「こいつ、本当に初心者か?」
ポツリ、と湯人はこぼす。彼とてすでに何年もこのゲームをやってきたからわかる。今の湯人の攻め方は初心者のそれではなかった。
柊真が初心者の頃はもっと、たどたどしくプレイしていた。プレイミスをすることも何度かあった。しかし、目の前の後輩はまだ初めて十数分だ。それなのに、癖の強そうなカードを使おうとしてくることが柊真には信じられなかった。それに、気になることはもう一つある。
それは、まだ相手側の軍団である、『八咫烏』の能力が開示されていないことだ。謎が多い以上、柊真には防御を固めるしかできなかった。
「コストを払って、マガツガラスの神隠し発動!」
来たか、とばかりに柊真は構える。捨てたのは柊真のクロードの城化と同じ枚数の三枚、ならばそれなりに強力な能力だと考えるべきだ、と柊真は「神隠し」というフレーズからその効果を予測し始めた。
「能力により、相手の山札の上から三枚を表向きにし、ゲームから除外する!」
「「はぁ?」」
素っ頓狂な叫び声が柊真とすずきの口から漏れた。そんな能力有りか!?と彼らは『八咫烏』の固有能力に驚愕していた。
「マジかよ。デッキ破壊はデッキ破壊でも、ゲームから除外って……そんなもん、どうしようもできないじゃないか!」
「確かに、な。だが、デッキ破壊ほど派手ではない。UnUniteのデッキ破壊なら軽く十枚は削るカード、ザラにある。それにデッキから除外されるのはたった三枚、支障なんてない」
驚いて眼光を見開き続けるすずきに対して、柊真はすぐに冷静さを取り戻す。そしてゆっくりとカードを表向きにして三枚、デッキの上から除外した。落ちたのはレベル2が二枚と、レベル4のカード。レベル4はかなり痛かったが、まだデッキの中に同名のカードは三枚入っている。むしろ引き当てる確率が上がった、と考えるべきだろう。
「まずはマガツガラスでアタック!」
ここで少し柊真は考える。今の湯人のコイン枚数は三枚。次のターンにまた同じような能力が飛んでこないとも限らなかった。さっき、空いては公開しているカードをすべて捨てた。自分は公開しているのはすでに見せたカードだから戦略的問題にはならない。
ならば、
「ガードだ」
彼がガードに使ったのは前のターンに城化でレベルを3上げているレベル3ユニット。合計レベル6で、レベル3のマガツガラスの攻撃を容易にガードした。半透明の黄金の障壁がクロードの正面に出現し、マガツガラスの鉤爪からクロードを守った。
「ターンエンド……」
「ふー」
なんとか耐えた、と安心して柊真は胸を撫で下ろした。これは、厄介なものを見つけたな、と今後悔しているところだ。
彼が見つけた湯人、という少年は彼が思っている以上にこのゲームに対する適性があった。そして、何より。隠し切ることができない負の側面が取り巻いていた。
「じゃ、俺のター……」
『戦場に乱入者が発生しました。バトルを強制的に停止します』
突如、天上から声が聞こえてきた。その声はよく透き通っていて、一流のホテルウーマンの様だった。そして、その声は有無を言わせずに景色を塗り替え、湯人たちを元いた廃ビルへと戻した。
「なんだよ、一体……」
柊真はぼやくが、すぐに状況を理解した。
彼らの肩を青い作業服を着た男性が掴んでいた。どこかの工事業者の人間なのか、社名が印刷された作業服を来ている。
「君たち、ここで何をしているんだい?」
ジジ臭い、だみ声でその作業員は話しかけてくる。
肩から手を払い、柊真は若干不機嫌そうに、別に、とだけ言う。
「……あっそ。とにかく、親御さんには言わないから、早くこのビルから出なさい。僕もこのビルの点検ができなくて困るんだ」
「点検?ここはもうすぐ取り壊すだろ?」
「教える義理はないね。さっさと帰りな」
柊真はちっ、と不良らしく舌打ちをすると、湯人とすずきを連れてその廃ビルから大人しく出ていった。




