10月19日――初陣
まず、目を見開いて驚いた。自分が今いるこの空間、さっきまでとはまるで違う空間にいることに湯人は自分の頭と目を疑っていた。つねってみたりもした。しかし、まるで状況は変わらない。相変わらず、冷風吹きすさぶ草原にいるだけだった。
草原の光景は地球上のどこでもない気がした。モンゴルにでも行けば、似たような光景の場所はいくらでもあるのだろうが、空間に漂っている空気の密度や冷たさ、何よりも雰囲気が地球のそれとはだいぶ違う。別の惑星、別の宇宙にいる、と言われても恐らく今の湯人であれば、信じたことだろう。それくらいに目の前の景色は想像を絶していた。
見渡す限りの草原には障害物は何もない。山なども見えない。空を見上げれば、九つの星が明るいにも関わらず、空中に浮かんでいる。大きさも、近さも様々。月と言うにはあまりにも近すぎるし、隕石にしては落ちてくる気配はない。この星の不可思議な法則が働いている、と湯人は思った。不思議な星、まるで物語の世界に迷い込んだようだ。
「さ、感傷に浸るのはもういいだろ?さっさと始めようぜ?」
夢心地の湯人を現実に戻したのは柊真だった。今、湯人と彼の目の前には腰の高さまで浮かんでいるボードがそれぞれある。ボードの上には大小の枠は設けられていて、自然と双方のデッキがその枠の一つに収まっていた。その中で最も気になったのが左側にあった、金色のコインが五枚、並べられた枠だった。
「まずは、いつも通りの前振りをしてやる。――ようこそ、惑星アクセスへ!この世界では数多の軍団が互いの生存領域を広げて、日夜戦いを繰り広げている!俺たちは今、その世界においてその軍団を支配する選ばれし存在だ。戦いの理由?大した理由ないよ。ただ、自分たちが楽な暮らしがしたい、それだけの理由さ」
なんともふざけた戦争劇だ。
受験戦争やら、模試戦争やら色々と戦争、と名の付くものは経験してきたが、ここまでバカバカしい戦争を見たのは始めてだ、と湯人は半ば呆れていた。
「ルールを説明するってことで、俺が先行でいいな?まず、自分に一番近い枠に銀色のカードが五枚、置いてあるはずだ。その中のレベル1って書いてあるユニットを裏向きのまま、バトルゾーンの中央にある『シルバー』って書いてある枠に置いてくれ」
湯人は言われた通り、シルバーカードの一枚を『シルバー』と書かれた枠に置いた。
「その後、山札の上から四枚カードをめくれ。ああ、山札ってのはそこのブラックカードの束のことだ」
めくって現れたのはどれもこれも見た目が神官や神官風の動物ばかり、人、カラス、そして同じ名前のカードが二枚。
「もし、カードの中に気に入らないのがあれば、好きな数、カードを選んで山札の下に置け。引き直しが一回だけできる。引き直したら、山札をシャッフル、いいな?」
特に気に入らないカードはなかったので、湯人は手札を取り替えなかったが、柊真はあったのか、手札から二枚選んで、山札の下へと置き、二枚引いた。そのあと手際よく山札をシャッフルした。
「よし、これで場は整った。それじゃぁ、会合に合わせてシルバーカードをめくって。ウォースタート」
「う、ウォースタート」
二人同時にシルバーカードがめくられた。
「旅立ちの勇者、クロード!」
「黒鴉 アカメ……」
・レベル1
・コストアイコン0
・――このユニットが進化した時、山札の上から二枚引く。
・旅立ちの勇者 クロード 『星海騎士団』、ヒューマン
・レベル1
・コストアイコン0
・――このユニットが進化した時、山札の上から二枚引く。
・黒鴉 アカメ 『八咫烏』、アニマル
カードを表向きにすると同時に二人のボードの上に二体のユニットがその姿を表す。クロードは中世の平民の様なボロに、安物の剣を抜いて見せている。名称は同じなのに、髪は短く、顔立ちもまだ少年のそれだった。対してアカメはデフォルメされたカラスの様な姿で、丸っこい体に短い羽、そして首周りに紫色の宝石の首飾りを付けていた。二体は自分のカードの上に乗るようにして、互いに構える。
「まずは俺のターンからだ。ドロー、コストを払って進化!若き勇者 クロード!」
柊真は手札からレベル2のブラックユニットを一枚、ドロップゾーンに置き、シールゾーンから新たなカードを一枚、クロードの上に乗せる。カードが光り、クロードの姿が変化していく。
・レベル2
・コストアイコン2
・――自分のブラックユニットがバトルをする時、手札(1)を捨てれば、自分のブラックユニットのレベルを+1。
・若き勇者 クロード 『星海騎士団』、ヒューマン
先程まではボロだった服が、鉄の鎧に変わり、体つきも変化する。それに準じて、顔立ちも少年から青年へと変わり、持っている剣もある程度立派なものになった。カードの姿が変わったことにも湯人は驚いたが、何より驚いたのはそのカードたちがまるで生きているかのように動いていることだった。自分のアカメにしたって、ピーピーと騒ぎ立てているだけだが、ちゃんと動いている。
「クロードの能力で二枚ドロー。さらにこいつらを出す!イノセント・ナイト!」
すかさず、柊真は次のユニットをバトルゾーンに招集した。
・レベル1
・――このユニットが睡眠状態の時に自分のシルバーユニットがレベル2以上なら、このユニットは起床する。
・イノセント・ナイト 『星海騎士団』、ヒューマン
登場したのは全身を武装した騎士だ。西洋甲冑として代表的なものを着てはいるが、どこか弱々しい。そのユニットはクロードの隣に立つと、腰に帯びていた長剣を引き抜く。
「さぁ、ここからが醍醐味だ、アタック!」
その掛け声に湯人は無意識に自分の手札を握りしめた。が、クロードが動く気配はない。それどころか、小馬鹿にしたように柊真をジト目で見ていた。
「おーい、湯人クン、安心しろー!『UnUnite』のルールじゃ先行は最初のターン、攻撃できないから!」
「そーそーだから安心していいぞ~」
気楽な調子でアドバイスしてくれたすずきに礼をしつつ、湯人はため息をついた。何をビビっている。これから、自分が攻撃する番になるんだぞ、と。
「てなわけで、俺はターンエンドだ。ほい、お前のターンだ」
「わかりました。ドロー」




