開き直り
モーゼッタイシナイ。
男は戒めの文字を石板に刻む。コウカイは思いの他深かった。
モーゼッタイシナイ。
男は自らに呟く。老齢故の盲、であったのかもしれない。行き止まり、約束の地は彼方。認め難い、なれど認めざるを得ないのか。振り返る過去の悔恨が込める手の力に反映され、また一行の綴りを為す。
モーゼッタイシナイ。
生半可な知であった。
モーゼッタイシナイ。
道を違えた事実。導こうなど烏滸がましい。
モーゼッタイシナイ。
イマイマシイ、思い上がりめ。
モーゼッタイシナイ。
モーゼッタイシナイ。
モーゼッ、モーゼッ対……
だから、だから何だと言わん。男は刻む手を止め、憤る。
モーゼッ対シナイ?
海、開くよりないだろうが!
コウカイは浅くなかった。
モーゼッタイシナイ。
男は後年、ジュッカイした。