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会議室での出会い

 討伐作戦決行日の前々日。

 俺たちは町中にある、とある一室に呼び出された。

 ここで作戦参加者の顔合わせと作戦内容の確認が行われるらしい。


 俺たちが作戦に参加するためカナタリ領の代表としてこのサルラナの町までやってきたことは昨日俺が寝込んでいるあいだにフィナンシェが報告してくれていた。

 今朝そのことを聞いて、この町に到着したのは一昨日の夕方頃のはずなのに到着と作戦参加の報告を行ったのは昨日だったのかと疑問に思いもしたが、一昨日は宿探しという名目の食べ歩きをしていたらいつのまにか夜になってしまっていたらしい。

 辺りが暗くなった後、報告すべき役人の場所はおろか冒険者ギルドの場所すらわからなかったために町への報告は昨日になってしまったというようなことを「あはは」と自身の行動を恥じるように笑いながらフィナンシェが説明してくれた。


 恥じるくらいなら食べ歩きなんて後回しにしてまずは報告に行けばよかったのではないかと思わなくもないが、おそらく報告を先にすると飲食物を販売する屋台や店が閉まってしまうとでも思ったのだろう。

 ダンジョンから魔物が溢れてくるかもしれないということでダンジョン近くのこの町を訪れる旅人の数は減っている。逆に、商売っ気盛んな商人たちはどんどん町に物を売り込みに来ているらしいが、その数は減ってしまった旅人の数よりもずっと少ない。

 人が少ないということはすなわち客が少ないということ。

 客が少なければ店は早く閉められてしまうから、フィナンシェが報告を後回しにしてしまった気持ちもわからなくはない。

 長旅によってお腹が空いていたこともその考えを手伝ったのかもしれない。


 そして、本来であればフィナンシェが俺たちの到着報告&作戦への参加表明を行った昨日のうちに参加者全員を集めた作戦会議を開きたかったらしいのだが、夜まで待っても俺が起きなかったためにその会議は今日に延期になったらしい。

 会議が昨日にも開かれようとしていたのは作戦決行日が差し迫っているということと、俺たちが最後の援軍だから。

 この町の者は「他国からの応援が今日明日中に新たに現れる可能性もなくはないが、おそらくフィナンシェ殿たちが最後の援軍だろう」と言っていたそうだ。


 会議が行われる予定の部屋に入ると、すでに部屋の中にいた全員の目が俺たちに集中する。

 部屋の中にいるのは十数人。

 まだ全員は集まっていないようだ。


「ようこそおいでくださいました。カナタリ領のトール様、フィナンシェ様ですね。全員揃うまで、あちらに座ってお待ちください」


 役人と思われる男から簡単な挨拶を受け、案内された席に座る。

 見ると、目の前のテーブルの上には『カナタリ領』と書かれた木製のプレートが置かれている。

 部屋の中で大きな長方形を描くように配置されているテーブルの上には国名の書かれたプレートがいくつも置かれている。


 なるほど。

 そこに座った者がどの国の者なのかわかりやすくしているのか。

 ほとんどの国の名は知らないものだが、いくつか見知った国もあるな。


 そう感心しながらプレートを見回していると部屋の中が急に騒がしくなった。

 誰かが大きな声を出して騒いでいるみたいだ。

 遠くの方から女性の声が聞こえる。


 それにしても、もっと小さな机を全員で囲んでその机の上に置かれた地図でも眺めながら作戦会議をするのかと思っていたから、こんなにしっかりと椅子に座れるとは思ってもいなかった。

 狭い部屋で立ちながら話し合うのだと思っていたが、会議は座りながら行うという決まりでもあるのだろうか。

 テーブルの上には軽食と飲み物も置かれているし、もしかしたら俺たちがここに来た理由がこの国のためだから待遇が良いのかもしれないな。


「……アナタ、聞いてるの! ちょっと!」


 騒いでいる女性の声がさっきよりも近くから聞こえる。

 もしかして俺たちの近くの席の人なのだろうか。

 隣に座るのが騒いでいるような人だったら少し嫌だな。


「なんなのコイツ! こっちに顔を向けなさいよ!」


 さらに声が近づいてくる。

 というかこの声、子どもっぽいな。

 集まるのは精鋭だと聞いていたから俺たち以外は熟練した大人しかいないと思っていたが、そうでもなかったようだ。


「アンタよ、アンタ! アンタに話しかけてんの!」


 精鋭と呼ばれるほどの子どもか。

 どんなやつなんだろう。

 そう思って声の方に顔を向けると、魔術師用のローブを着た小柄な女の子がすぐ近くから俺を見下ろしていた。


「ひっ! やや、やっとこっちをむむむ向いたわね! そうよ、アンタに話しかけてたのよ!」


 俺が向いた瞬間、怯えたように後退りしながら急に声を震わせ始めた少女の年はどう見ても俺よりも若い。

 おそらく十四歳くらいだろう。


 この世界において魔術師を名乗ることを許されているのは魔術師学校を卒業した者のみ。

 理論を研究した上で魔法をつかう者を魔術師、理論を研究することなくなんとなくのイメージだけで魔法をつかっている者を魔法つかいと呼ぶんだったか。

 魔術師のつかう魔法は魔術とも呼ばれ、大抵の魔術は魔法よりも優れた力を発揮すると聞いた覚えがある。

 そして、魔術師学校は卒業するのが難しいため、卒業生のほとんどは二十歳を超えているという話だったはずだ。


 魔術師用のローブは一般のローブとは違って左胸のあたりに卒業した学校の紋章が刺繍されているため、一目で魔術師用だとわかる。

 そんな魔術師にしか着用の許されていない魔術師用ローブを着ているということはこの子はどこかの魔術師学校を卒業したのだろう。

 この若さでその優秀さ、たしかに精鋭と呼ばれてもおかしくない。


 それで、そんな優秀な魔術師様が俺に話しかけてきているみたいだが、一体何の用なのだろうか。

 ハァハァと肩を震わせながらこちらを睨みつけてきている少女の顔に見覚えはない。

 当然、声をかけられるような心当たりもない。


 少女と俺は完全に初対面。

 そのはずなのに、どうしてこんなに睨まれてるんだ?

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