終結、その後
『――オークキング三体のカード化後しばらくしてから、スタンピードの終結が告げられた。
魔灯によって照らされていた範囲はかなり広かった。
その範囲内にスタンピードの生き残りと思われる魔物の群れがいないことを確認したという情報が流されたため、まだ終わっていないんじゃないかと警戒していた俺たちはやっと安心することができた。
広範囲を照らす魔灯の光。それなら、その光源のあるリカルドの街近辺は眩すぎて何も見えなくなるんじゃないかと後から思ったが、街近くで見た魔灯の光は思ったよりも眩しくなかった。
原理は判明していないらしいが、科学魔法の力を使うことでかなりの広範囲を照らしながらもその光源は眩しくないという謎の現象を起こすことができるのだとか。
本来ならば全力を街の結界にまわすべき科学魔法の力の一部を街近辺の光量を抑える力に変換したために眩しくなかったらしい。
オークキング三体が接近してきている状態で街の結界維持にまわす力を削減するのは不安があったそうだが、ヒュドラが別動隊として動いていたという情報が防衛本部にしっかっりと伝えられていたらしく、他にもそのような危険な魔物がスタンピード本隊と別に活動していないかを調べるためにやむを得ず魔灯を使用し、街近辺における魔灯の光量を抑えることに相当量の科学魔法の力をつかうことになったそうだ。
これらの情報はスタンピード終結後に防衛本部に呼び出されたときに聞いた。
今回の防衛の功労者ということと、数日間隣国の王女を匿っていた人物であるということを理由に防衛本部に呼び出された俺とフィナンシェはそこで感謝の言葉をもらった。
おそらく、俺やテッドへの畏怖や、シフォンからの口添えがあったのだと思う。
呼び出しを受けたときはてっきり、シフォンを匿っていたことで何か言われるのだと思っていたが、小言を言われることもなければ投獄されるようなこともなく、本当に今回の防衛戦の詳細と謝辞を述べられただけで終わった。
今回のスタンピードに関する防衛本部の見解は俺の見解と同じく、ヒュドラおよびオークキング三体が魔物たちを統率・扇動していたというものだった。
その結論に至るまでの情報や考え方も俺としては十分納得できる内容だったのだが、フィナンシェはまだ何かが引っかかっているらしく納得のいってなさそうな顔をしていた。
最終的には渋々納得することになっていたが、もしかするとフィナンシェの考えている通り、俺や防衛本部の見解が今回のスタンピードの真相と異なっている可能性もあるのかもしれないと思わせられるくらいには、フィナンシェは真剣に悩んでいた。
……実は、今回の真相が俺やテッドが“世界渡り”してきたせいで引き起こされた、とかだったらどうしようか。
イエロースライムの一件もあるし、もしかしたら俺が“世界渡り”をしてしまったことでこの世界に異変が起きているのかもしれない。
そしてその場合、今後も何か大きな事件が起きる可能性があるのではないだろうか。
俺たちがこの世界に来てから起こった面倒事の原因が“世界渡り”の影響なのだとしたら、今回のスタンピードでその影響が終息していることを願いたい。』
一昨日の朝に終結したスタンピードのことを紙にまとめ終えると同時に腹が鳴った。
どうやらいつの間にか夜が明けていたようだ。
美味しそうな匂いにつられて横を見ると、いつの間にか起き、いつの間にか食べ物を買ってきていたフィナンシェと目が合った。
今日の朝食はパンと肉とサラダらしい。
「おはよう、トール、テッド! 朝食にしよ!」
「ああ、おはよう。フィナンシェ」
『やっと飯か。今日のメニューはなんだ?』
俺とフィナンシェが挨拶をかわすとこれまたいつの間にか目覚めていたテッドが食べ物につられて寄ってきた。
一昨日は朝方から深夜までぐっすりと眠ってしまった。
宿に戻ってすぐ倒れるように寝てしまったために朝食どころか夕食すらロクに食べることができなかった。
昨日は昨日で戦場跡に散らばった冒険者や兵士、魔物のカードを集めるのを手伝ったり、他にも色々とやることがあったりでゆっくりと食事をする暇がなかった。
三日前も朝からスタンピード騒ぎだったせいでゆっくりと食べる時間はなかったし、こんなにゆっくりと食事できるのは四日ぶりだろうか。
ただ、今日は大事な用事がある。
これを食べ終わった後はすぐこの部屋を出なくてはいけない。
そう。
今日はこの後、シフォンとの別れが待っているのだから。