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あらぬ方向へ走る二人

 ヒュドラから逃走中のシフォンたちはトンファとクライヴを仲間に加え、新たに九人パーティを結成。

 人数も増え、さあ反撃だ!


 ……とはならなかった。


 トンファとクライヴの二人を加えても依然としてヒュドラは脅威のまま。

 シフォンたちは引き続き逃げる以外の選択肢がなかった。


「それで、ヒュドラを倒す策はあるのか?」

「ない。お前たちは何か案はあるか?」

「こっちもない。そもそも俺たちは襲われてるヤツがいたから助けに来ただけで、ヒュドラなんてバケモンがいるとは思ってもいなかったからな」

「そうか」


 トンファとテトラの間で会話が交わされたが、その内容はとても有益なものではなかった。


「ヒュドラの毒は確認できたんで?」

「いや、まだだ」

「ヒュドラはブレス攻撃をしただけなのです」

「ってことはあのヒュドラの力はまだ未知数ってことか」


 トンファとテトラが会話している傍ではクライヴが他の護衛騎士たちと情報共有を行っていた。


 その後も、ほんの数秒でも敵の攻撃が止まればその隙にシフォンを抱えて逃げることが可能であることや自分たちの向かっている先の地形について話し合うトンファたち。

 しかし、良い策は浮かばない。


 九人の向かっている先には平野が広がっている。

 森や崖といったような罠として利用できそうな地形は一切ない。


 そう、九人の向かう先は結界に守られたリカルドの街ではなかった。

 また、兵士部隊の陣地でも、どこかの町や村でもない。

 シフォンと護衛騎士の六人は、人のいない地に向かって走っていた。






 ヒュドラのブレス攻撃によって後方支援部隊が壊滅に陥った際、ブルークロップ王国から連れてきた馬も全滅した。

 仮に、馬が一頭でも残っていれば、シフォンとテトラの二人だけでもブルークロップ王国まで逃げ切ることが可能だったかもしれない。

 だが、馬は一頭残らずカード化してしまった。

 そして、カード化したばかりの馬をカードから戻し、走れる状態まで回復させるだけの余力はシフォンにはなかった。


 そうした理由からリカルドの街まで引き返すと言い放ったテトラを止めたのは、他でもないシフォンだった。


 テトラも、この決断をした時はまだヒュドラが自分たちのことを追ってくるとは思っていなかった。

 しかし、もし追ってきたとしてもリカルドの街に入れば結界で時間稼ぎができる。

 その間に街中で馬と食料を用意して街を脱出すればよい。

 そう考えた上での発言だった。


 その発言をシフォンは「他人を巻き込みたくない」と言って斬り捨てた。

 いくらシフォンの言葉とはいえ、本来であればそのような理由でシフォンの身を危険に晒すことは許されない。

 優先すべきはシフォンの意思よりもシフォンの無事。

 にもかかわらず、護衛騎士たちはその時のシフォンに反論しなかった。

 シフォンの瞳の奥に「絶対に譲らない」という強い意志を見たテトラたちは、今までに見たことのないほど強いシフォンの覚悟と、王族としての威厳に溢れた堂々とした振る舞いに、気圧された。


 瞬間的に「はっ!」と一つ返事で肯定の意思を口にしてしまった護衛騎士たちは自分たちの発言を撤回することも許されず、シフォンの意思に逆らう気にもなれず、結局、人のいない地へ向かって逃げることとなってしまっていた。


 今にして思うと、シフォン様が第三者を巻き込みたくないと仰られたとき、シフォン様はこうなることを予感していたのかもしれない。


 後方に迫るヒュドラを見ながらそう思うテトラ。

 隣を走るシフォンは話せる状態ではなく、その真相を知ることは今はできない。


 シフォンが魔物たちの狙いに気付いていたか否か、その考えを振り払い、襲い来る魔物たちを倒すことと、この状況を切り抜けるために知恵を振り絞ることにテトラが再び集中し始めてから三分強。


「おい、やべぇぞ!」

「隊長!」


 急に声を荒げたトンファと護衛騎士の声に何事かと周囲を確認するテトラの目に映ったのは、行進速度を上げたヒュドラとその取り巻きの姿であった。






 シフォンたちがヒュドラに追いつかれそうになっている頃、トールとフィナンシェの二人は街に向かって走っていた。


 後方支援部隊の壊滅。

 いなくなったシフォンと護衛騎士六人。


 シフォンと護衛騎士たちがカード化していないのであれば、結界に守られたリカルドの街へ向かって逃走している可能性が高い。

 後方支援部隊の陣地を離れてすぐにそのことに思い至った二人は、街へと向かわせたロボットに乗っていかなかったことを後悔しながらも街に向かって走っていた。


 ロボットに乗った方が二人が走るよりも早く街へ辿り着く。

 また、ロボットに乗っている間は二人とも身体を休めることができる。


 トールたちもそのことはわかっていた。


 しかし、トールたちが陣地を離れた時にはすでに陣地内は魔物で溢れ返っていた。

 そのため、すぐに陣地へと引き返し新たにもう一機のロボットを探すという手段をとれなかったトールたちは、自らの足で走って街へと向かっていた。


 ロボットに乗らなかったせいで街までの到着は遅くなったが、結果的には、初動を間違え、魔物の多い後方支援部隊の陣地からリカルドの街までを結ぶルートから少し外れたルートを走ることになったおかげで、二人は魔物から襲われることなく街まで向かうことができていた。


 長時間の戦闘によって激しく疲弊している二人は、そのことを感じさせない足取りでシフォンを探し求める。

 二人の足取りがしっかりとしていたのはシフォンの無事を想う気持ちが強かったから。

 もちろん、魔物との戦闘がないため余計な体力をつかわずにすんでいたおかげもある。


 そして――さらなるピンチを迎えたシフォンたちと、シフォンを探して見当違いの方向へと走るトール、フィナンシェの二人+テッド。


 二つの歯車が微妙に食い違う中、スタンピードの決着まで残り四十分をきった。

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