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信用

 シフォンたちの前に現れたのはトンファとクライヴの二人。

 トンファは両手で大剣を握り、クライヴは右手に松明、左手に短剣を持っている。


「助太刀感謝する。しかし、なぜ冒険者がここにいるのだ?」


 どう見ても冒険者の装いをした二人を見て疑問の声を上げたのはテトラ。

 彼女は後方から襲い来る敵を倒しながら、二人に向かって質問した。


 スタンピードのことを知らない者がたまたまこの近辺にいて、たまたま加勢してくれたわけではないことは、新しくついたばかりだと思われる装備の汚れや傷から察することができる。

 突然現れたこの二人は冒険者部隊で戦っていた者たちに違いない。

 だが、この場所は冒険者部隊の陣地からはだいぶ離れている。

 兵士部隊、冒険者部隊、後方支援部隊、そしてリカルドの街。

 どこに行こうとしてもこの場所を通ることはない。

 では、この者たちはどうしてここにいるのか。

 シフォン様のことを知っているようなことを言っていたが、一体どのような関係なのか。


 テトラの頭の中ではそんな考えが渦巻いていた。


 テトラからの質問に答えるのはパーティリーダーであるトンファ。

 トンファとクライヴは、シフォンたちから少し離れた位置を並走しながら質問に答える。


「俺たちはリカルドの街の冒険者だ。四人組で活動している。向こうに見えるのが残りの二人だ」


 まずは自分たちが何者であるかを説明したトンファが遠くを指差す。

 その指の先では、松明を手にしているローザとジョルドがトンファたちから六百メートルほど離れた場所を走っていた。

 ローザたちは別動隊のことを防衛本部に報告しに行くため、シフォンたちの向かう先とは別方向に向かっている。

 テトラが魔物を斬り捨て、その隙にローザとジョルドの二人の姿を確かめたことを確認したトンファが話を続ける。


「実は、情けねぇことに冒険者部隊が壊滅しちまってな。陣地から撤退する途中で魔物の声が聞こえたからここに来たんだが……一体どういう状況だ、これは?」


 大剣で魔物を両断しながら平然と話を続けるトンファだったが、ヒュドラの気配を感じ取って尋常ではないほど鋭い眼をしていた。


 トンファの纏う気配と軽々と魔物を両断する姿を見てトンファたちが並の冒険者ではないことを悟ったテトラ。

 しかし、ヒュドラを相手にするには実力が足りていないことも見抜いていた。


「先ほども言ったように助太刀には感謝する。だが、お前たちは逃げろ。我々はヒュドラに追われている」


 テトラが行ったのは簡潔な状況説明。


 何を犠牲にしてでもシフォンさえ無事ならそれでいい。

 それが護衛騎士の総意ではあったが、これはシフォンを守るのに必要ならば何を犠牲にしてもよいという意味であって無駄死にを容認しているわけではない。

 テトラとて、目の前に現れた二人の冒険者が足手まといになるとは考えていない。

 しかし、役に立つとも思っていない。

 ヒュドラ相手には実力不足。

 これがテトラのトンファたちに対する評価であり、そしてそれは事実でもあった。


 ゆえに出た言葉は、逃げろ。


 この者たちならば居てもいなくても大して変わらない。

 それならば逃げてもらった方が良い。

 ヒュドラに追われていると聞けば逃げるだろう。


 そういった意図の発言であったが、テトラの予想に反してトンファたちは逃げ出す素振りを見せなかった。


「それなら、なおさら力を貸さないわけにはいかねぇな」

「あー、すいません。逃げろってのは魅力的な提案なんですが、街のトップからそこにいる王女様のことを頼まれちゃってるんで」


 テトラの言葉を聞いてなぜか気合を入れ直したトンファと困ったような顔を浮かべながら謝ってくるクライヴ。

 二人が逃げ出さないのは、当然のことだった。


 元来、トンファは困っている人間を放っておけないタチである。

 そんなトンファと長年行動をともにしてきたクライヴも、今回のようなトンファの無茶な行動に対し、色々と諦めがついていた。

 加えて、ブルークロップ王国の護衛騎士のみが着用を許される水縹の鎧を着こんだ者たち。

 静謐さと荘厳なきらめきを兼ね備えたそのアクアブルーの鎧を着こんだ者たちに守られているのは、つい数日前に冒険者ギルドでトールたちから紹介された少女。

 トールに恩義を感じているトンファと見知った少女を見捨てられるほど薄情な性格を持ち合わせていないクライヴの二人は、義理難くもトールから頼まれた『もしこの子が困っている場面に出くわしたら助けてあげてください』という言葉を素直に実行しようとしていた。


 つまり、クライヴの言った「街のトップ」というのは街で一番の実力を持つ(と思われている)トールのこと。

 もちろん、テトラはそんなこと知る由もない。


 ヒュドラがいることを聞いても逃げ出さない二人を前にして、テトラは狐につままれたような顔をした。

 しかし、それも一瞬のこと。


「その方たちは、信用できます」

 

 回復魔法を使用し、むりやり息を整えてから声を出したシフォンの言葉。

 クライヴの発言のすぐ後に発されたシフォンのこの言葉を聞き、テトラは名も知らぬ冒険者たちのことを信用することにした。


 必要な情報は与えた。

 これ以降のことは自己責任。

 シフォン様が信用できるというのであれば私もこの者たちを信用しよう。


 テトラの中でそういった思考がなされた。


「わかった。同行を許可する」


 テトラは未だ、トンファたちの実力がヒュドラから逃げ切ることに役立つとは思っていない。

 だが、テトラにとって何よりも重く、何を置いても信じるべきシフォンが信用できると言った。

 ならば、テトラにこれを否定する理由はなく、トンファたちが同行することに否やはなかった。


「おう、任せとけ!」

「微力ながら尽力させていただきます」


 トンファは冷や汗をかきながらも自信満々に、ブルークロップ王国護衛騎士の実力を詳しく知っているクライヴは苦笑しながら、テトラに対して返事をした。

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