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第二陣

「オイ、そっち行ったぞッ!」

「ぐあああああああッ。俺の腕があああッ」

「くッ、誰かあっちに援護行ってやれ!」

「そんな余裕ねえよ!」

「てめえら、よくもコニーをぉおおおおお!」


 スタンピード第二陣との戦闘開始から三時間。

 戦場は悲鳴に溢れていた。


 俺たち冒険者陣営ではすでに五十人近い人数がカード化させられ、周囲から聞こえてくる声も必死な声や苦痛の声が多い。


 第二陣の先頭にいたのはロックゴーレムとウッドゴーレム数十体。


 動きが遅く、頑丈さとパワーが取り柄のゴーレムでは堀は超えられない。

 もしかしたらまた戦わずにすむかもしれない。

 そんな考えが浮かんだが、その期待はすぐに裏切られた。


 人魔界のゴーレムと違い、この世界のゴーレムは魔法をつかえた。

 ロックゴーレムが土の橋を架け、ウッドゴーレムが頑丈な木の根を張ってその土の橋を補強する。

 俺の目では百メートル先の堀で何が起こっているのかは確認できなかったが、フィナンシェが言うにはそのようなことが行われていたらしい。


 何十体ものゴーレムによって次々と構築されていく足場。

 魔法をつかえる冒険者たちが力を尽くしたが、橋の構築を阻止することも、架けられた橋を破壊することもできなかった。


 第二陣が堀に着いてから三十分足らず。

 第一陣の多くを飲み込んだ堀が、あっさりと突破されてしまった。


 また、訓練を積んだ兵士たちと違い、俺たち冒険者はバリケードを利用した戦闘に慣れていない。

 それゆえ、この陣のバリケードは必要最小限のモノだった。

 そして、その簡易で数の少ないバリケードも、ゴーレムたちの攻撃によって簡単に破壊された。


 それからは必死の防衛が続いている。


 俺たち冒険者は、ゴーレムから繰り出される重い攻撃を避けつつ、その硬いカラダに攻撃を入れ、ゴーレムを倒し続けなくてはいけない。


 さらに、相手をしなくてはいけないのはゴーレムだけではない。

 二メートルを超える巨躯と膨大な筋肉を持つ二足歩行の魔物オークや、木のような姿をした魔物プラントオーク。

 他にもゴブリンやミニマムオーガと呼ばれる小鬼型の魔物や、魔法をつかってくる妖精型の魔物フェアリーたちが大量に押し寄せてきている。


 ゴーレムに関していえば、ゴーレムの攻撃を避けることは難しいことではない。

 だが、ゴーレムにダメージを与えるとなると話は別だ。


 ゴーレムの頑丈なカラダは並大抵の攻撃ではびくともしない。

 そのため、ゴーレムにダメージを与えられる者は限られてくる。


 筋肉ダルマのような力自慢の者や、ウッドゴーレムの弱点属性である火や炎の魔法の使い手。

 ロックゴーレムを弱体化させられる水魔法の使い手とその者を中心としたパーティ。

 あるいは、フィナンシェをはじめとするベテラン冒険者たち。

 ゴーレムの相手をできるのはそういった者たちだ。


 俺のようにゴーレムと戦えるだけの実力がない冒険者はゴーレム以外の魔物を相手にしている。

 だが、ゴーレム以外の魔物も簡単に倒せる相手ではない。

 ゴーレムと比べたら倒しやすいとはいえ、オークもミニマムオーガも攻撃防御ともに優れている。

 フェアリーの魔法も威力は大したことないが鬱陶しく、ゴブリンたちは数が多い。

 プラントオークの枝に絡みつかれてしまえば、待っているのは魔物たちからの総攻撃。

 しかも、魔物たちのほとんどは俺たち人間を見ると全力で襲いかかってくる。


 油断したら即カード化。

 そんな状況に、周囲の冒険者たちも必死になっている。


 俺も第一陣のときとは違って全力で動き続けている。

 周囲の冒険者たちとは違い、この世界の生まれでない俺とテッドはカード化できない可能性がある。

 とにかく、死んでしまうような攻撃を受けるわけにはいかない。

 その一心で魔物の攻撃を避け続ける。


 ただ一つ、幸いだったことといえば、堀には何本かの橋が架けられたが、その橋によって堀の穴がすべて覆われたわけではないということだろうか。

 気休め程度ではあるが、一本一本の橋の幅があまり広くないため、堀の向こう側からこちら側へ渡ってくる魔物の数が制限されている。

 これは俺たちにとって都合が良かった。

 もしも一度に第二陣すべての魔物が渡ってきていたのなら、今頃は魔物を止めきれずにこの陣は壊滅していたはずだ。


 とはいえ、それでも決して気の抜けない状況。

 そんな状況が三時間以上も続き、精神も肉体もかなり疲弊してしまっている。


 まさに命懸けの攻防。


 今はまだこの場で魔物の侵攻を止められている。

 しかし、ほとんどの冒険者はもういっぱいいっぱいだ。

 俺も身体の動きが鈍くなってきている。

 魔物たちがこの陣を抜け、シフォンや街へと到達してしまうのも時間の問題だろう。


『左足、火!』


 テッドからの指示に従い、左足の足元に火魔法を放つ。

 見ると、プラントオークの枝が俺の足に絡みつこうとしていた。


 火を恐れ、俺の足から離れていくプラントオーク。

 テッドの指示のおかげで事なきを得たが、ぞっとする光景だった。


《サンキュー、テッド》


 まさに危機一髪。

 テッドの指示がなければ足をとられ転ばされていた。

 その後は全身を拘束され、魔物たちによるタコ殴り。

 あるいは、オークやミニマムオーガの一撃によって一瞬で殺されていたかもしれない。


 戦闘中に指示を出すのはテッドの役割。

 よって、テッドが支持をくれたことに対して感謝を告げる必要はないのだが、今のはあまりにもひやっとしてしまったため思わず感謝を伝えてしまった。


 思わず感謝を告げたくなるほどの状況。

 そんな状況がこの戦場にはごろごろと転がっている。

 それを再認識し、気合を入れる。


 まずは、俺の呼吸を一気に乱してくれたプラントオークを攻撃し、カード化させる。

 その後も、視界が良くないなか戦闘を行い、魔物を倒し続ける。

 俺の攻撃ではオークやミニマムオーガを傷つけることはできない。

 そのため、俺の相手はゴブリンやフェアリー、プラントオークだ。


 俺の戦法は回避がメイン。

 二度ほど、多方面から一斉に攻撃が来たためテッドの指示が間に合わないという危うい場面があったが、まだ一撃も食らっていない。

 膂力がなさすぎるゆえに他の冒険者よりも倒した魔物の数は少ない。

 しかし、怪我をしていないため継戦能力には自信がある。


《テッド、まだいけるか?》

『当然だ。何時間でも戦える』


 テッドもまだ戦えると言っている。

 その言葉を信じ、俺はその後もテッドとともに戦い続けた。






 第二陣との戦闘開始から六時間が経過した。


 俺たち冒険者がゴーレムやオークたちを倒し終えてから三時間。

 ゴーレムたちとの戦闘の終盤から現れ始めた牛人魔物ミノタウロスや狼人魔物ワーウルフとの戦闘は未だに続いている。

 おそらく、ミノタウロス達はスタンピード第三陣の魔物だろう。

 ゴーレムたちを倒した後、休む暇もなく戦い続けているため実感は湧きにくいが、倒した魔物の数的にもすでに第三陣との戦闘は開始されている。

 もしかしたら、第四陣、第五陣ともこのまま続けての戦闘になるかもしれない。


 そう考えると気が重い。

 だが、なんとか戦える。


 身体も重く、疲労も凄いが、まだなんとか戦える。

 それも偏に筋肉ダルマパーティの活躍のおかげだ。


 二時間ほど前、筋肉ダルマパーティが堀まで近づき、筋肉ダルマの怪力とローザさんの火炎魔法で四本の橋を落とした。

 それでもまだ八本も橋が残っているそうだが、筋肉ダルマたちの活躍によって敵の数が減り、少しずつではあるが交代で休憩をとれるようにもなった。

 そのおかげであと数時間は戦えそうな気がする。


 しかし、それは本当に戦える気がするだけだった。

 この一時間後、事態は急変した。

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