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第一陣

 俺の前で魔物が次々とカード化していく。

 この世界に来てから初めて見る魔物ばかりだが、分類するとしたら狼型の魔物や鹿型の魔物、兎型の魔物など。

 スタンピードの第一陣ということだけあって、足の速い魔物ばかりだ。


 先ほどから絶え間なく大量の魔物が押し寄せてきているが、恐怖や不安はない。

 多くの魔物は俺たちの前方百メートルほどの位置に掘られた巨大な堀へと落下していき、その堀を越えてきた魔物も冒険者たちの弓や魔法によって倒されていく。

 そのため、かなり落ち着いた状態で状況を見ることができている。


 前方にある堀は科学魔法の力を利用して作ったらしく、幅だけでなく深さも相当なものらしい。

 落ちた魔物はまず助からないそうだ。

 もし助かったとしても堀の中から地上へ上がってくる可能性は低い。

 そのおかげで、こちら側に被害が出ることなく魔物を倒すことができている。


 飛行している魔物は完全に倒しきれていないが、地上を走っている魔物は一体も俺たちの後方へ行かせていない。

 シフォンにも危険はないはずだ。


 戦闘開始前に何人かの冒険者やフィナンシェが言っていたように事前の想定よりも魔物の数は多いが、今のところ防衛は順調と言える。

 その証拠に、魔物と冒険者の戦闘が始まってから二十分以上経過しているにもかかわず、俺はまだ魔物と戦わずにすんでいる。


「思っていたよりもあっさりと倒せているな」


 そんな感想がつい口から出てしまうほど、状況はこちらが優勢だった。


「トールやテッドから見たら大したことない魔物しかいないのかもしれないけど、油断しちゃダメだよ。今はまだ簡単に防衛できてるけど魔法や矢だって無限に撃てるわけじゃないんだから」

「ああ、わかっている」


 フィナンシェが未だに俺たちの実力を勘違いしていることはどうでもいいとして。

 たしかに、魔法をつかうための魔力や矢はいつか尽きるだろう。

 魔法玉なんかの道具もあるとはいえ、それだって一万の魔物を倒せるだけの数あるわけじゃない。


 それに、魔物たちはこれから先も次々と押し寄せてくる。

 俺たちはどんどんと疲弊していくが、魔物たちに疲弊はない。

 カード化した魔物の後ろから新たな魔物が襲ってくるだけだ。

 交代要員を温存させておく余裕もなく全戦力を投入している俺たち人間側は時間が経過するほどに不利になっていく。


 さらに、昼頃に聞いた話では、これほどの数の魔物がまとまって行動しているということは魔物たちを統率している強力な魔物がいる可能性が高いらしい。

 そして、現状を見る限りでは強力な魔物がいるという考えは正しいように思える。


 通常、魔物たちは魔物同士でも殺し合いを行う。

 同種ならともかく、別の種族とは争うことが多い。

 だが、いま俺たちに向かってきている魔物たちは一切争い合っていない。

 何十種族もの魔物がいるにもかかわらず争っていないということは、やはり魔物たちを統率している強力な魔物とやらがいるのだろう。


 統率しているということは、それなりの知能があるはずだ。


 もしかしたら、このスタンピードを統率している魔物は自身の周囲を強い魔物で固めているかもしれない。

 その場合、本当に強い魔物が出てくるのは防衛の後半からということになる。


 あるいは、今襲ってきているスタンピードの第一陣が俺たちのような敵がいた場合の捨て駒である可能性もある。

 この第一陣は敵がいた場合にその敵を疲弊させる役目。

 そして、敵の戦力を見極めるための役目を負っているのかもしれない。

 そう考えると、この第一陣のやられ方を見て魔物たちの編成を変えてくるかもしれない。

 次の第二陣には厄介な魔物が混じっている可能性もある。


 そうでなくても、兵士たちが数を削ったうえでこれだけたくさんの魔物が押し寄せてきているのだ。

 俺たちのところに来ている魔物だけでも百体は越えている。

 ということは、兵士たちはすでに千体以上の魔物を相手にしていることだろう。

 兵士たちの実力がどれほどのものかは知らないが、兵士たちは相当に疲弊している可能性が高い。

 そう遠くないうちに兵士たちの陣が瓦解し、大量の魔物がここまで押し寄せてくることになるかもしれない。


 フィナンシェの言う通り、油断はできない。


 そう気を引き締め直したが、そこから先も俺やフィナンシェが戦闘に参加することなく第一陣との戦闘は終了した。






 第一陣を凌ぎきったあと、各々息を整えながら水を飲んだり装備を点検していたりするが、戦闘に参加していない俺やフィナンシェはすることがない。

 気を張っていたせいで少し疲れてはいるが、その程度だ。

 俺やフィナンシェは他の冒険者のように何かをする必要はないため、少々暇を持て余している。

 フィナンシェは補給部隊から支給されたパンなんかを口にしているが、大して腹の減っていない俺は地べたに座りながら休むくらいしかすることがない。


 そうして休んでいると、テッドから疑問が飛んできた。


『もう終わりか?』

《いや、まだこれから第二陣、第三陣と魔物が襲ってくるらしい。今は小休止といったところだ》

『そうか。ならば我も休むとしよう』


 テッドに答えてから、先ほどの戦闘を思い出す。


 かなりの数の魔物が堀の中へと消えていき、堀を越えてきた魔物たちも遠距離からの攻撃ですべて沈められた。

 魔法使いや弓使いは体力を消耗したかもしれないがそれ以外の者は体力を温存できた。

 魔物が全く近づいてこなかったため、魔物が接近してきた最初はともかく、途中からはあまり気負うこともなく、精神的な疲労も少なく済んだ。

 なにより、魔物と戦闘する機会が訪れなかったおかげで怪我をすることも死ぬこともなかった。


 しかし、先ほど襲ってきた魔物たちはすべて足の速い魔物だった。

 そこが問題だ。


 人魔界では、素早い魔物には攻撃が通りやすいというのが常識だった。

 おそらく、防御力が低いために敵の攻撃を避けられるよう速さを磨いたのだろうというのが通説だった。

 そしてフィナンシェにきいたところ、この世界でも素早い魔物は防御力が低い傾向にあるらしい。


 つまり、このあとの第二陣以降は先ほどの魔物たちよりも倒すのが困難となってくる。

 フィナンシェも「これからが本番だよ!」と言っていた。


 これ以降は魔物と直接戦闘しなければいけない可能性も高くなる。

 先ほどとは違い、命の危険も出てくる。

 そう考えると緊張してしまう。


 そして、そんな緊張感の中、第二陣の接近を知らせる声が聞こえてきた。

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