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護衛騎士と変化する戦場

 今回も説明回みたいになってしまった……。

 ブルークロップ王国の王子ならびに王女には、それぞれ六名ずつ護衛騎士がつけられる。

 護衛騎士たちは王子および王女と年齢の近い同性の者が選ばれる。

 これは古くからの慣習であり、シフォンにも六名の護衛騎士がいる。


 護衛騎士の選定方法は単純明快。

 武芸や魔法に秀でた者の子どもの中で、王子や王女が誕生した際に王子や王女と生まれが近かった同性の者六名が選ばれ、任命される。

 突出して高い能力を持った武芸者や魔法使いがおり、その者が子どもを持っていた場合は、その子どもの年齢が王子・王女と多少離れていたとしてもその者の子どもが護衛騎士として任命される。

 しかし、基本的には王子や王女の出生日と出生日が近い者六名が護衛騎士として選ばれる。


 シフォンの護衛騎士も、一番年長の者でシフォンより一年半早く生まれた者、一番年少の者はシフォンより一ヶ月早く生まれた者と、六名全員がシフォンと二歳も年が離れていない女性のみで構成されている。


 護衛騎士が武芸や魔法に秀でた者の子どもで構成されていることには理由がある。

 その理由は、才能の遺伝だ。


 剣術の得意な者の子どもは剣術が得意であることが多く、魔法の得意な者の子どもは魔法が得意であることが多い。

 そして、実力も遺伝しやすい。

 剣で岩を斬れる者の子どもは剣で岩を斬れるレベルの実力まで成長することが多く、魔法で川をつくれる者の子どもは魔法で川をつくれるレベルの実力まで成長することが多い。


 ゆえに、才能値の高い者の子どもが護衛騎士として選ばれる。


 しきたりでは、武芸者三名以上、魔法使い二名以上を含む六名を護衛騎士とするのが望ましいとされており、シフォンの護衛騎士も武芸に秀でた者四名と魔法に秀でた者二名の計六名となっている。


 魔法使いの方が数が少ないのは、実戦で使用できるレベルまで魔法をつかえる者の数が圧倒的に少ないからだ。

 この世界では、魔法の才能は生まれる前に決まっているとされている。

 才能の有無を判断する方法は、その者が魔法を扱い始めてから一年ほど様子を見て、その一年の間に魔法の腕が目に見えるレベルで上達していたら才能あり。

 上達が見られなければ才能なしとなる。

 もちろん、滅多にいるものではないが、扱い始めた段階ですでに高いレベルの魔法を使用できるような者は。一年間で上達が見られずとも才能ありと判断される。

 しかし、高いレベルの魔法使いは少数になりがちなため、護衛騎士に選ばれる魔法使いの数も少なくなっている。


 ブルークロップ王国では長男が次期国王となることが代々の決まりである。

 そして、護衛騎士たちは死別以外の理由でその任を解除されることはない。

 そのため、王弟や王妹の護衛騎士は長男が王位に就いた後も王弟や王妹の護衛騎士のままである。

 また、王弟や王妹の護衛騎士の息子や娘が王子や王女の護衛騎士となることも少なくない。


 護衛騎士が幼いうちは、王子たちは王や王弟たちの護衛騎士に守られることとなる。

 つまり、王子たちは王または王弟たちの御許で生活することとなり、その間、王子たちの護衛騎士は王や王弟たちの護衛騎士ならびに自身の親たちから技術を伝授され、護衛騎士として相応しく成長するよう修行をすることとなる。

 王子や王女もまた、自身の護衛騎士を相手に回復魔法の腕を磨く。

 回復魔法の恩恵により休むことなく鍛錬を積めるため、護衛騎士は圧倒的な速度で成長し、圧倒的な力を身に付ける。

 大抵の場合、およそ十二歳になる頃には護衛騎士たちの実力は王国騎士と同程度に、十六歳になる頃には王国騎士顔負けの実力となる。


 そして、シフォンは現在十六歳。

 シフォンの護衛騎士たちはすでに王国でも上位二桁に数えられてもおかしくない実力を有していた。

 ブルークロップ王国で上位二桁に入る者といえば、他国では上位一桁レベルの猛者ばかり。

 シフォンの護衛騎士隊隊長テトラも、その武勇を他国まで轟かせている。


 それゆえに、ブルークロップ王国第三王女を防衛作戦に加えるか否かで言い争っていたリカルドの街スタンピード防衛本部は、内界でも有数の実力を持つ第三王女の護衛騎士隊隊長テトラの登場に、一瞬で静まり返った。


「シフォン殿下の無事が確認されたというのは真か?」


 テトラの言葉に、その場で一番位の高い者が慇懃な態度で詳細な説明をする。

 その説明に納得したテトラは一言。


「殿下がそう仰られたのなら我々はそれに従うまで」


 そう言って踵を返し、冒険者ギルドまでシフォンを迎えに行った。


 あとに残された街の者たちは第三王女の防衛参加が決定したことを悟り、王女の回復魔法を前提とした作戦を立て始めた。






 内界で一番の国力を持つブルークロップ王国の王女。

 その発言力は、リカルドの街には比肩する者がいないほどである。

 王女と対面し、「参加する」と言われてしまうとそれを覆すことは難しい。

 また、王女を防衛に参加させるかどうか、その方針が確定しないうちに王女を呼ぶことはできない。


 そんな理由から防衛本部に呼ばれることなく冒険者ギルドに居続けることを許されていたシフォンであったが、テトラと他五名の護衛騎士が迎えに来たことによりトールたちと引き離されることとなった。


 街の上役たちが早急に保護すべき他国の王女に対して何の措置もとらなかったことには無論、理由がある。

 それは、トールたちの存在である。

 フィナンシェは街一番と噂されるほどの実力者。

 トールとテッドは人の手が及ぶはずのない領域に踏み込んだ、正真正銘の化物。

 スライムとその二人が護衛をしているのならば危険はない。

 そういった理由もあり、街の上役たちはシフォンの保護を後回しにしていた。


 本来であればトールたちの存在如何にかかわらず真っ先に保護しなければいけなかったのだが、街の危機という非常事態に焦っていた防衛本部の者たちは王女が無事であるという事実に安心してしまい、そのことまで頭が回らなかった。

 それどころか、今この場に王女を呼ぶわけにはいかないという考えで頭がいっぱいだった防衛本部の者たちは、テトラたち護衛騎士の元へと送った伝令に、シフォンの居場所とシフォンが防衛に加わりたいと言っていることを意図的に教えなかった。

 そのため、テトラたち護衛騎士がシフォンを迎えに行くまでに時間がかかった。


 テトラが防衛本部に赴いていた頃、他の護衛騎士五名はシフォンの連れてきた侍従たちとともに街から離れる準備をしていた。

 もともと、シフォンが見つかったらすぐに街から出立できるようにまとめられていた荷物を屋敷の玄関前に停車した馬車に積み込むだけの作業。

 街を出る準備はすぐに終わり、戻ってきたテトラの指示のもと冒険者ギルドへとシフォンを迎えに行ったというのが、護衛騎士およびシフォンの侍従たちの行動のあらましである。


 スライムのテッドとそのテッドを従えているトール、そして街で一番強いと噂されるフィナンシェ。

 他国の王女に怪我を負わせるわけにはいかないため、トールたちを王女の護衛から外すかどうかは防衛本部でも真剣に話し合われた。

 トールとテッドは他人が近くにいると実力を全く発揮できない。

 そのことを知っていたため、トールたちの配置場所に関しては入念に議論が行われた。


 結果的には、それだけの戦力を遊ばせておく余裕はないとしてトールたちは冒険者たちと同じ戦陣に配置されたが、実はトールとテッドの一人と一匹だけを即座に魔物のそばまで送り込み、スタンピードを起こしている魔物の群れを殲滅してもらうという作戦も立案されていた。

 その場合、兵士や冒険者たちは街の中に待機。

 もしトールたちの攻撃で倒しきれなかったときには街の中に待機させていた兵士や冒険者たちで残りの魔物を掃討するという、トールにとっては死ねと通告されるがごとき作戦であった。

 結局、トールたちが本気を出したことによる被害がどれほどの規模になるかわからなかったことからその案は却下されたのだが、自分が死地へと送られそうになっていたとはトールは露ほども考えていなかった。


 テトラたちが迎えに来た後、トールたちと引き離されたシフォンは、トールたち冒険者の配置された場所のさらに後方に設置されたテントの中でフィナンシェ、トールの無事を祈っていた。

 テッドに関しては、この世界ではスライムは最強生物であるため、危険があるとは全く思われていなかった。


 シフォンの配置された部隊は後方支援部隊という名前がついているものの、実際には回復魔法をつかえるシフォンと治癒魔法をつかえる者十五名が集められた衛生兵部隊だ。

 シフォンのいる陣は野戦病院の様相を呈しており、食料などの物資を前線に送り届ける補給部隊は後方支援部隊とは別に用意されていた。


 回復魔法の使用は許可されたが、魔物との直接戦闘は許可されなかったシフォン。

 シフォンにできることは、ただ祈ることのみであった。






 夜になり、開戦の合図を告げる爆音が鳴り響く。

 兵士たちが魔物との交戦を開始し、トールたちいのいる冒険者陣営からも戦闘音が聞こえ始める。

 シフォンの周りでも、護衛騎士や後方支援部隊に配属された兵士たちが、冒険者たちの討ち漏らした魔物を次々と仕留めている。


 トールたちがいるはずの数キロ先の地から戦闘音が聞こえるたび、護衛騎士や兵士たちが魔物を倒すたびに、トールたちや皆の無事を強く祈るシフォン。


 そんな状態が長らく続き、戦闘開始から数時間後。

 シフォンを筆頭とした後方支援部隊の陣取っていた辺りが、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した。

 次回、トール視点に戻ります。

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