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これまでの経緯

 スタンピードの判明~シフォンが街の防衛に参加することになる直前までの経緯を説明した回です。

 一万匹の魔物の接近。

 その知らせがリカルドの街に届いたのは夜明け前のことだった。






 ――深夜。

 街の出入り口で見張りの番をしていた兵士たち。

 そのうちの一人が、異常な速度で街に接近してくる馬車の姿に気が付いた。

 やがて、その馬車は街の入口付近で停車した。

 明らかに不審な馬車を警戒しながら、ゆっくりとその馬車へと近づいた兵士たち。

 馬車に乗っていたのは見るからに慌てている行商人とその護衛たちだった。

 行商人たちの様子を見て警戒を弱めたかわりに困惑を強めた兵士たちは、その行商人たちから「たくさんの魔物を見た」という言葉を聞いた。


 たくさんの魔物の目撃情報。

 これはスタンピードの兆候かもしれない。


 そう考えた兵士たちはその情報を急いで街の上役へと報告。

 それと同時に五つの偵察部隊を編成。

 即座に情報の確認を行った。


 偵察部隊が戻ってきたのは夜が明ける少し前。

 そこで持ち帰られた情報は街の上役や兵士たちの想像を超えるもの――すなわち、一万の魔物の群れの接近であった。


 一万の魔物によるスタンピードは、過去を振り返っても一度しか例がないほどの異常事態。

 そのたった一度の例では、一万の魔物に対し五百の軍勢で立ち向かった。

 結果、魔物を退けることはできたが五百の軍勢は壊滅。

 戦闘終了後に生き残っていたのは十名ほど。


 戦後、戦場だった場所から回収された人間のカードの枚数はたった三百弱。

 そのうち百七十人は剣を握ることすらできなくなるほどのトラウマを抱えた。

 残りの二百は、土に埋もれたか、どこかへ飛ばされたか、魔物たちの腹の中。

 あるいは、カード化する間もなく一瞬で消し飛ばされたか。


 とにかく、それほど凄絶な戦いだったという記録が残されている。


 偵察からの情報を聞き、かつて起こったその一例を思い出し、街の上役たちは恐怖に全身を震わせた。

 兵士たちも、一万というその途方もない数に息を呑んだ。


 リカルドの街の兵士三千人に対し、かつて戦ったのはたった五百人。

 数だけなら、リカルドの街の方が六倍近い兵数を有している。

 しかし、その事実が街の上役たちを安心させることはなかった。


 かつて戦った五百人はブルークロップ王国の王国兵や騎士たちであった。

 彼らはブルークロップ王家の回復魔法を活用した訓練によって他国の兵と比較しても一段以上高い実力を持っていた。

 さらに、当時は内界と外界に分断された直後。

 大量の魔物が内界内に跋扈していた時代。

 その時代を生きていた兵士たちの実力は、現在のリカルドの街の兵士たちの実力とは比べ物にならないほど高い。


 一人一人の実力も、連携も、戦闘経験も、すべてにおいてかつての五百人の方が上。

 リカルドの街が勝っているのは科学魔法の力を有していることのみ。

 その科学魔法の力でさえ、一万という数を相手にするには心もとなかった。


 ただでさえブルークロップ王国第三王女の行方不明という大問題を抱えていたところに襲来した、一万の魔物によるスタンピードという大事件。

 街の上役たちは悲鳴を上げざるを得なかった。






 ――夜明け前。

 偵察部隊の持ち帰った情報は即座に街中に広められ、まだ日も昇らないうちから住民たちの避難が始まった。


『リカルドの街の結界が破壊されるかもしれない』


 過去、四度のスタンピードや二体のドラゴンの攻撃を防ぎ切ったという伝承の残る結界。

 その結界が破壊されるかもしれないと聞いた住民たちの行動は早かった。


 街に滞在していた旅人や行商人たちも避難を開始。

 店や工房等を構えていた者は在庫や制作物の中から防衛に役立ちそうなモノを片っ端から冒険者ギルドへと送った。


 兵士は夜番だった者も叩き起こされ出動。

 街の上役もすぐに防衛本部を築き、階級の高い兵士も交えた防衛作戦の話し合いが開始された。


 冒険者たちは逃げる者と街に残る者に分かれた。


 実力がなく逃げ出す者。

 実力はあるが命が惜しくて逃げ出す者。


 実力も自信もあるために街に残った者。

 実力はないが理由があって街に残った者。


 それぞれがそれぞれの思惑によって行動を始めた中、冒険者ギルドを訪れたトールたち三人プラス一匹によって、ブルークロップ王国第三王女シフォンの無事が報告された。


 トールたちがシフォンの無事を報告した際、そのときにはまだシフォンの無事は確認されていなかった。


 八日前、第三王女が消息を絶った後、その情報を聞いた街の上役たちはひどく混乱し、自身の死を覚悟した。

 第三王女とその護衛六名の捜索隊が瞬時に結成され、街の兵士たちにも王女の特徴が教えられるとともに捜索命令が下された。

 このとき、トールとテッドの監視を行っていた者も捜索隊に加わることになった。

 王女の捜索を優先し、街に危害を加える可能性は低いと判断されていたトールとテッドから監視の目を外したことが、かえって王女の発見を遅らせることとなった。


 また、冒険者ギルドにおいて王女の来訪を知っていた者はギルド長と副ギルド長の二人のみであった。

 以前、トールたちがギルドを訪れた際、ギルド職員たちはトールとフィナンシェが連れているもう一人の存在に気付いていた。

 だが、ギルド職員たちは王女の来訪と王女が消息を絶ったことを知らなかった。

 そのため、トールたちと一緒にいるフードをかぶった謎の人物を見ても、またフィナンシェがお節介を焼いているのだろうと判断してしまい、トールたちの連れていた人物のことをギルド長や副ギルド長にわざわざ報告するような者はいなかった。

 これにより、冒険者ギルドでもシフォンが発見されることはなかった。


 王女の護衛六名は消息不明となった当日に、王女が消息を絶った科学魔法屋の近くで発見されていた。

 意識を失っていた六名は街お抱えの治癒魔法の使い手によって手厚く介抱され、翌日には王女の捜索隊に加わった。

 しかし、肝心の王女は何日たっても見つからず、事情を知っている者たちの心中には不安と焦燥が募っていった。


 そして、王女の捜索が開始されてから八日目。

 シフォンの襲撃事件に街の者が関与していると考えたトールたちが兵士たちの目にシフォンが映らないように行動していたこともあってシフォンは未だ発見されずにいたのだが、幸か不幸か、もう一つの厄介事であるスタンピードのおかげで王女の無事が確認されることとなった。


 冒険者ギルドから伝えられた第三王女の無事。

 それとともに伝えられた、王女が街の防衛に参加する意思を見せているという情報。

 この情報を受けた作戦本部は、王女が見つかったことへの安心と王女を作戦に参加させるべきか否かという議論に包まれた。


 他国の要人をこの街の防衛に参加させるわけにはいかない、今すぐこの街から退避してもらわねば、という否定派の声。

 王女自身が参加したがっているのだぞ、ブルークロップ王家の回復魔法があればスタンピードも凌ぎきれるかもしれん、という賛成派の声。


 シフォンが街を守る意思を見せたことによって起こったこの議論は、シフォンの護衛騎士隊隊長が作戦本部に訪れるまで続いた。

 本当はトールたちと引き離された後のシフォンの様子までをさらっと書く予定だったんですが、一話じゃ収まりませんでした。

 特に、シフォンが街の者に発見されていなかった経緯についてはもっとさらっと書きたかったのですが……その部分、設定を羅列しただけみたいになってしまっていてすみません。

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