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戦闘開始

 店番の女性と俺たちは、互いに「気をつけてください」と健闘と無事を祈り合って別れた。


 俺たちは冒険者ギルドへ。

 店番の女性はもうしばらく工房にいるらしい。


 工房内にはおっちゃんや他の従業員の気配がなかった。

 どうして店番の女性しかいないのかと思ったが、おっちゃんたちは工房で作られた物の中で街の防衛に役立ちそうなモノをかき集め、それらを冒険者ギルドに届けに行っているそうだ。

 店番の女性は留守番兼俺たちが来た場合に注文されていた品を渡すため残っていたらしい。

 彼女は、外に出ているおっちゃんや他の従業員たちが工房に戻って来てから避難を開始すると言っていた。


 この工房の者はすでに街のために動いているらしい。

 おっちゃんたちは街のため、自分たちにできることをやっているのだ。

 シフォンやフィナンシェも、回復魔法や戦闘で街の防衛に貢献するだろう。


 では、俺には一体何ができるだろうか。


 俺には敵を倒すだけの攻撃力はない。

 動き回れるだけのスペースがあれば、魔物の攻撃を回避しつつ攻撃を与えたり、テッドに対する怯えを利用したりしながら上手く立ち回ることもできる。

 だが、今回のスタンピード戦ではそのようなスペースはないと考えておいた方がいい。


 おそらく、今回の戦いで求められる能力は一撃で魔物を倒す力。

 スタンピードでは魔物が次々と襲いかかってくる。

 一体一体に時間をかけているような余裕はないはずだ。

 広範囲魔法をつかえるのならともかく、そうでないのなら一撃一撃が強力な者ほど役に立つ。


 そして、俺は筋力には自信がない。

 回避力を奪われた俺は駆け出し冒険者よりも役に立たないだろう。


 考えれば考えるほどに、今回のスタンピードに対して俺は無力という事実が浮かび上がってくる。


 しかし、俺は街の防衛に力を尽くすと決めた。


 街を守るため、シフォンを守るために俺にできることは何かないだろうか。


 冒険者ギルドに到着し、ギルド職員からの指示に従って行動しているあいだも、ずっとそんな事ばかり考えていた。


 俺たちはギルドに運ばれてくる物資を仕分けする役割を与えられている。

 フィナンシェとシフォン、他に十二人の冒険者と五人のギルド職員と一緒に、次々と運ばれてくる物資の数々を休む暇なく仕分けし続ける。


 ギルド内に運ばれてくるのは食料や武器防具、魔法玉なんかの道具やバリケードを築くのに使えそうな木材や鉄塊など。

 仕分けした物資は、俺たちとは別の役割を与えられた冒険者によって街中や街の外の各所へと運ばれていく。


 しかし、ギルド内は未だに大量の物資で溢れている。

 街に店を構えている者たちは、今回のような非常時には冒険者ギルドへと物資を運び込むことを義務付けられているらしい。

 その決まりはしっかりと守られ、仕分けが終わり運ばれていった量以上の物資がどんどんとギルドへと運ばれてくる。


 いつ終わるともしれない作業だが、そのことに辟易することはない。

 命懸けだからだろう。

 先が長いことを気にしている余裕はない。

 皆、必死に与えられた役割をこなしている。


 ギルド内の様子も普段とは違う。


 ギルド内にいる人の数はいつもより少ない。

 それなのに、大量の物資のせいでいつもよりも狭く感じられる。

 いつもより狭いギルド内を幾人ものギルド職員や冒険者たちが忙しなく動き回っている。

 その誰もが真剣な表情をし、必死さの含まれる声を上げている。


 どこを見ても緊張感に溢れている。

 こんな空気の中に身を置くのは初めてだ。

 ギルドにいる者全員が全力で自分の仕事に集中し、街を守るため、死なないために行動しているのがまざまざと感じられる。


 おそらく、街全体がこのような空気に包まれていることだろう。

 街に残ること、魔物たちと戦うことを選択した者たちは皆このように一丸となって今回のスタンピードを乗り越えようとしているはずだ。


「お前等、しっかりと気を引き締めろ! スタンピードを乗り切れるかどうかはお前等一人一人の行動にかかっている! そのことを理解しておけ!」


 ギルド長も、ギルド職員たちに指示を飛ばしながらギルド内にいる者全員に激励を送り続けている。


 今頃は、魔物たちのいる方角の結界付近に設置された防衛本部にて作戦の話し合いが行われているはずだ。

 さらに、街の外にも兵士たちによる陣が敷かれているに違いない。


 それにしても、シフォンは防衛本部に行かなくていいのだろうか。

 ギルド長にシフォンのことを伝えたとき、ギルド長から今すぐ本部に行くようにとお願いされていたはずなんだが……。


 そういえば、筋肉ダルマたちの姿も見ていないな。

 アイツらは街から逃げ出したのだろうか。

 それとも他の場所で街のために行動しているのだろうか。


 どちらかというと、筋肉ダルマたちには街に残っていてほしい。

 知り合いであるし、逃げたなら逃げたで無事に逃げ切ってくれという思いもあるが、筋肉ダルマたちは強い。

 一緒に戦ってくれるならそちらの方がいい。


 ギルド職員の指示に従って動くこと数時間。

 やっとのことで仕分けが終了した。

 その後、交戦予定地に移動させられ、休憩を与えられてからさらに数時間。

 辺りはすでに暗くなり始めている。


 交戦予定地は街から五キロほど離れた平野。

 さらに数キロ先には兵士たちが陣を敷いている。


 魔物たちと戦うことを選択した冒険者は想像していたよりも多かった。

 俺たちの周囲には五百人近い数の冒険者がいる。

 予想よりも多い味方の数に少し安心しながらも、油断することなく魔物たちの接近を待っていたのだが、様子が変だ。


 最後に偵察から戻ってきた者の話だと昼過ぎくらいには魔物との戦闘が始まるとのことだったのだが、日が傾き始めても魔物たちの影すら見えない。

 そもそも、最後に情報が入ったのが昼前。

 それ以降は何一つ情報が入ってきていない。

 そのことに周囲の冒険者たちも不安そうな声や訝しむような声を上げている。


 それよりも心配なことが一つある。

 シフォンの身の安全だ。


 作戦を実行するにあたって、俺たちはシフォンと引き離されてしまった。


 シフォンはここより数キロ後方に待機し、傷ついた者を戦線に復帰させる役割を与えられた。

 俺たちがシフォンから引き離されたのは仕分けの終了直後。

 シフォンには、行方不明だったシフォンの護衛六名と街からの兵士数十名が護衛としてつけられ、冒険者である俺たちはこの交戦予定地に送り込まれてしまった。


 もしも護衛たちや街の上層部がシフォンを襲ったやつらと関係していたとしてもさすがにこの状況では手出ししてこないはず。

 そう思いたいが、不安は拭えない。


 そんな不安に頭を悩ませていると、前方から一つの影がこちらに近づいてくるのが見えた。


「来たぞ! 今すぐ戦闘準備を整えろ! すぐに戦闘が開始されるぞ!!」


 馬の背に乗りながら必死に叫ぶ男の声に、周囲が騒めく。


 すでにほとんど夜になってしまっている。

 あたりは真っ暗だ。

 いくつかの明かりは設置されているが、視界は悪い。


 どうやら、最悪のタイミングで戦闘が開始されるらしい。

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