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嫌な予感

 夜。

 フィナンシェたちが寝静まったあと、ひとり、テーブルの上で文字を書く。

 書くのはいつも通り、その日あった出来事。


 今日は昨日に続けてシフォンがテッドに近づくための特訓を行ったこと。

 特訓は順調に進み、午前中にはシフォンはテッドに近づいたまま軽く走れる程度には動けるようになったこと。

 そのため、特訓は午前で終了。

 午後はシアターに行ったことなんかを書いていく。


 明日の昼にはシフォンをブルークロップ王国まで送り届けるためにこの街を離れる予定だ。

 夜は王国までの街道上に存在する町で寝泊まりする予定になっているが、王国までの移動手段は馬だ。

 以前、三兄妹の世話をした商家から格安で譲ってもらった馬二頭で移動することになっている。


 商家からは馬車の購入も勧められたが、機動力が落ちるという理由で断った。

 そのため、馬に直接騎乗して移動することとなる。

 前回同様、俺はフィナンシェの馬に同乗させてもらう。


 そして、馬での移動となると俺はまた体力を無駄に消費してしまうことになるだろう。

 もしかしたら、しばらくは文字の練習をするだけの体力が残らない日が続くかもしれない。

 そう思うと、ペンを握る手にも力が入る。


 気合を入れ、今日シアターで観た『ブルークロップ王国史実~ロール・ブルークロップ王女の悲恋~』のあらすじを紙に書き記していく。






『物語の舞台は数百年前。

 スライム大移動によって内界と外界に分断された直後の話。


 スライムたちの縄張りが定まったあと、その縄張りを避けるようにして人間の生活圏へと流入してきた大量の魔物のせいで各国・各領土はとてつもない危機に陥っていた。

 スライムたちの移動を止めるために甚大な被害を出した直後だった当時、どこも兵力不足だったうえに外界と分断されたせいで国土が極端に減ったり、あるいは国の中枢と切り離されてしまったりと、混乱を極めていたところに魔物の大群の襲撃。

 しかも、大移動時にスライムの進路を避けるようにして内界に流入してきた魔物も大量にいたため、分断前に内界地域にいた魔物の二倍ほどの数の魔物が襲ってきた。

 これにより、疲弊し混乱していた各国・各領土は魔物たちの襲撃によって滅びそうになる。


 しかし、各国・各領土が滅びることにはならなかった。

 大移動による被害がほとんどなかったブルークロップ王国が各地へ援軍を送ったからだ。

 ブルークロップ王国から送られてきた援軍のおかげで各国・各領土はなんとか滅亡を免れることができた。


 ブルークロップ王国が各地へ兵を送った理由は色々とあったらしいが、今回の演目の主題ではなかったため詳しくは説明されなかった。


 とにかく、各地で内界の中心へと向かってくる魔物たちをなんとかして押しとどめ、撃退していった頃、事件が起きた。


 スライムの縄張りによって国と分断されてしまっていた小さな領土が一つ滅びたのだ。


 魔物たちはその領土を蹂躙しながら開いた穴を拡げるようにどんどんとその領土へ集まり始め、その領土と隣接していた国々は増える魔物の勢いに圧され、見る見る疲弊していった。


 このままではまずいと思ったブルークロップ王は特に疲弊の激しかった二国へと自身の子どもたちを派遣することを決意。


 派遣されることとなったのは魔力量の多かった第四王子と第一王女。

 大量の騎士や兵士を護衛としてつけられた二人は各々の目的地へ赴き、回復魔法を用いてその国の兵力を回復。

 王子と王女は、二国が戦線を押し返し始めたところでブルークロップ王国へと帰還することとなった。


 ここで第二の事件が起きる。


 第一王女ロール・ブルークロップの護衛が全滅してしまった。


 いつのまにかブルークロップ王国の国境付近まで流入してきていた大量の魔物に襲われ、ロール王女の護衛は全滅。

 ロール王女自身も魔物たちを退けるだけの力はなく、絶体絶命。

 あわや魔物に食い殺されるか、といったところで颯爽と現れ魔物を撃退したのがトーラという名の男。


 トーラは、ロール王女を襲っている魔物たちの群れによって故郷の村を滅ぼされてしまっていた。

 村が滅びる中、なんとか生き残ったトーラだったが、彼は村では自警団の団長だった。


 村を守りきれなかった自分の不甲斐なさに嘆きながら周囲の魔物を倒し続けていたトーラ。

 そんな彼は、誰かが魔物に襲われていることに気付きその場へ駆けつけ、そこにいた少女を守るためにその腕を振るった。

 このとき、トーラは少女がブルークロップ王国の王女であることに気付いてなかった。


 ブルークロップ王国の国境を目指し、進路上の魔物と近づいてくる魔物を次々と蹴散らしながら走り続けるトーラと、その後を追いかけるロール王女。

 二人はやがて、国境へと到達する。


 国境の砦まで辿り着き、一命をとりとめたロール王女はそのまますぐに王城へと帰還することとなった。

 このとき、トーラはロール王女を守りながら魔物の群れを抜けてきたため満身創痍であったが、その傷はすぐにロール王女の回復魔法によって完治。

 ここでようやく、トーラは少女が王女であることを知る。

 それと同時に、自身の傷を必死になって癒してくれたロール王女の優しさに惹かれてしまい、身分違いの恋に落ちてしまう。


 トーラが恋に落ちた頃、ロール王女もトーラに恋慕の情を抱いていた。

 王女という身分ゆえに守られることには慣れていたロール王女。

 しかし、それはあくまでも王女として守られることに慣れていただけである。

 ロール王女は自分のことを王女扱いすることなく、一人の少女として助けてくれたトーラに惚れてしまっていた。


 傷の完治後、トーラはロール王女の護衛としてそのまま王女と一緒に王城へ出向くことになる。

 そして、ロール王女と一緒に王城に登城したトーラは、ロール王女の嘆願により騎士として王城に召し抱えられることとなった。


 各地を襲う魔物への対策として兵を派遣し、人材不足気味だった王国は、一年半の試用期間の末、トーラをロール王女付きの護衛騎士に任命。

 その後、三年ものあいだロール王女の護衛騎士の任を務めたトーラ。

 ロール王女とトーラはいつしか相思相愛の仲になっていた。


 身分違いとはいえ、周囲をスライムの縄張りに囲まれ外界と分断された状況。

 明日がどうなるかもわからない状況の中、他国の王侯貴族や国内の有力貴族と婚姻を結ぶことにどれだけの意味があるのかわからない。

 ならばせめて想い人と結ばれてほしいという想いから、ブルークロップ王はロール王女とトーラの婚約を認めていた。

 

 しかし、状況は二人の仲を引き裂く方向へと変化していくこととなる。


 この物語第三の事件にして最後の事件。


 一万の魔物の襲来である。


 数年に及ぶ討伐によって内界内の魔物の数がだいぶ減り、各国が安心し始めたあるとき。

 ブルークロップ王国の国境に一万の魔物の軍勢が接近してきているという報告が上がった。

 そしてその当時、一万の軍勢に対し王国が用意できた魔物討伐軍の兵数はたったの五百。

 王国の危機に際し、トーラもその魔物討伐軍に編成されることとなった。


 討伐軍の編成後、無理を言って国境砦までついて行ったロール王女とトーラの最後のやりとりは見ていて胸が締め付けられる思いだった。


 結局、一万の魔物の討伐・撃退には成功したもののトーラは名誉の戦死。

 魔物撃退後、戦場から回収されたカードの中にトーラのカードはなかった。


 最後は、ロール王女がトーラの形見を大事そうに抱きしめながら泣いている場面でナレーションが流れ、物語は終幕した。』






 あらすじを書くのなんて初めてだったうえに気合が入っていたからか書き終えるまでに二時間もかかってしまった。

 拙くはあるが、物語の内容はしっかりと書けていると思う。

 この紙を見ればいつでも今日の感動を思い出すことができるはずだ。


 今日観た『ブルークロップ王国史実~ロール・ブルークロップ王女の悲恋~』は前回観た『十騎士英雄物語』同様、実際にあったとされる出来事を幻惑魔法で再現した演目だったが、シアターで上映されているだけあって流石と言える出来だった。

 シアター内では幻惑魔法や精神干渉魔法によって感動が増幅されているが、もしそれらの魔法の効果がなかったとしても俺は感動していただろう。

 それだけ切なく悲しい物語だった。

 特に、二人の恋が成就することなく、死別という結果で終わってしまったのが悲しかった。


 シフォンは数日前にもこの演目を観たらしいが、リカルドの街を離れる前にもう一度観ておきたかったらしい。

 観るのは二回目だというのに、自分の先祖ともいえる人物の話だからか、俺やフィナンシェよりも深く感動していたように見えた。


 それにしても、襲われていた王女を助けて一緒にいることになったところや王女のために敵に立ち向かっていくところがどことなく今の俺たちの状況と被っているような気もするが、まぁ気のせいだろう。

 俺とシフォンは恋仲ではない。

 シフォンを守るために俺が死んでしまうなんてことはないはずだ。

 そう。そんなことはないはず……なのだが、なんだか嫌な予感がする。

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